東京大学大学院理学系研究科の黄天鋭大学院生を筆頭とする研究チームは、西暦1181年に観測された超新星の残骸とみられる天体を観測した結果、中心に存在する白色矮星が爆発から800年ほど経ってから再び活発化するという、異例な性質を持つ可能性が明らかになったとする研究成果を発表しました。


【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)のX線宇宙望遠鏡「Chandra(チャンドラ)」などで観測された超新星「SN 1181」の残骸(Credit: X-ray: (Chandra) NASA/CXC/U. Manitoba/C. Treturik, (XMM-Newton) ESA/C. Treturik; Optical: (Pan-STARRS) NOIRLab/MDM/Dartmouth/R. Fesen; Infrared: (WISE) NASA/JPL/Caltech/; Image Processing: Univ. of Manitoba/Gilles Ferrand and Jayanne English)】

こちらが今回の研究対象となった天体「IRAS 00500+6713」の画像です(※)。この天体は西暦1181年に観測された超新星「SN 1181」の残骸とみられています。SN 1181は現在のカシオペヤ座の方向に現れた土星と同じくらいの明るさの客星(一時的に現れる星)として、日本の「吾妻鏡」や「明月記」といった文献に記録が残されています。


IRAS 00500+6713の中心では、2019年に白色矮星「WD J005311」の発見が報告されています。アメリカ航空宇宙局(NASA)のX線宇宙望遠鏡「Chandra(チャンドラ)」を運用するスミソニアン天体物理観測所のチャンドラX線センター(CXC)によると、WD J005311の表面温度は約20万℃という高温で、最大速度毎秒約1万6000km(光速の約5%)の星風が吹いています。


これまでの観測結果をもとに、SN 1181は「Iax型」に分類される少し特殊な超新星だった可能性が示されています。Iax型は白色矮星を含む連星で起こるとされる「Ia型」の中でも明るさが暗い超新星です。SN 1181の場合、連星を成していた2つの白色矮星が合体してIax型超新星が発生し、その後にWD J005311が残されたと考えられています。



【▲ 白色矮星どうしの合体によってIa型超新星が発生する様子を示した動画(アーティストによる想像図)】
(Credit: ESO/L. Calçada)


Ia型超新星は真の明るさがほぼ一定だと考えられていて、観測された見かけの明るさと比較すれば地球からの距離を割り出せることから、宇宙の距離を測定するのに役立つ標準光源のひとつとして利用されています。東京大学によると、これまでにIa型超新星の残骸から爆発後に残された天体が発見された例はなく、まだ完全には解明されていないIa型超新星の爆発メカニズムを理解する上で、WD J005311は大きく貢献する可能性があると考えられていました。しかし、IRAS 00500+6713には残された白色矮星以外にも他の超新星残骸とは異なる性質があったため、それらを説明できる理論モデルが存在していなかったといいます。


【▲ IRAS 00500+6713の多波長観測画像(X線と赤外線、左)と研究チームによる模式図(右)。超新星爆発の放出物と白色矮星の星風がそれぞれ衝撃波を形成した多層構造をしていると考えられている(Credit: 東京大学, Ko et al. 2024)】

黄さんたちはまず最初に、Chandraや欧州宇宙機関(ESA)のX線宇宙望遠鏡「XMM-Newton」によるIRAS 00500+6713の観測データの解析を行いました。その結果、X線で観測したIRAS 00500+6713は外側と内側に分かれた構造をしていることが判明。NASAの広視野赤外線探査機「WISE」による赤外線での観測データも含めると、内外のX線領域にダストの多い領域が挟まれた多層構造をしていることがわかりました。


次に、研究チームはIRAS 00500+6713がSN 1181の残骸だと仮定した上で理論モデルを構築し、分析を試みました。その結果、SN 1181は通常のIa型超新星よりも暗い超新星であり、また現在観測されているWD J005311は星風が吹き始めてからわずか20〜30年以内である可能性が示されたといいます。WD J005311がSN 1181の発生と同時に誕生したのであれば、現在私たちが観測しているWD J005311の年齢は約840歳です。つまり、WD J005311は誕生から800年以上経ってから再び活発化して、星風が吹き始めたことになるのです。


この時間差は、IRAS 00500+6713の多層構造とも関連しています。分析の結果、外側のX線領域は超新星爆発で放出された物質と星間物質の衝撃波に対応していて、内側のX線領域は800年以上後に吹き始めた星風の終端衝撃波に対応していると考えられているためです。超新星の放出物と白色矮星の星風、この2つが800年以上の時を隔てて衝撃波を生じさせたことで、超新星残骸の多層構造が形成されたのではないかというわけです。


【▲ 白色矮星どうしの合体から超新星残骸の多層構造形成に至る、超新星「SN 1181」とその残骸の時間進化を示した図(Credit: 黄天鋭)】

今回の研究結果は様々な波長を用いたIRAS 00500+6713の観測結果や、文献に記録された明るさとも矛盾しないとされています。また、研究チームは理論モデルを検証するために国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」やアメリカ・ニューメキシコ州の「カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(Very Large Array: VLA)」による追加観測を計画しているということです。


今後は普遍的なIa型超新星のなかでもSN 1181の残骸が例外的な性質を持つ理由を解明することで、白色矮星どうしの合体による爆発のメカニズムに関する理解が深まると期待されています。


 


※…冒頭の画像の作成にはNASAのChandra(シアン)とWISE(赤とピンク)をはじめ、ESAのXMM-Newton(青)、ハワイの掃天観測プロジェクト「Pan-STARRS」(白)、米国アリゾナ州のMDM天文台にあるヒルトナー望遠鏡(緑)の観測データが用いられています(丸括弧内は各データの着色に用いられた色を示す)。


Source


東京大学 - 吾妻鏡に記された超新星が遺した奇妙な天体東京大学 - Fresh wind blows from historical supernovaCXC - SNR 1181: Stunning Echo of 800-year-old Explosion

文・編集/sorae編集部