ヒットが続く「TBS火曜22時」枠で、ハズレのない「家事もの」ジャンルの同作。ヒットの予感しかない?(画像:TBS『西園寺さんは家事をしない』公式サイトより)

ドラマでハズレのないジャンルといえば、医療もの、刑事もの、リーガルものがある。もうひとつ、これら以上に絶対的なジャンルがあった。「家事もの」である。家事は、してもしなくても、人間にとってなくてはならない。家事は普遍的なテーマなのである。

だからこそ火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』(TBS系、火曜22時〜)は、同枠の『私の家政夫ナギサさん』(2020年)、『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)に次ぐヒット作になりそうな予感がする。(以下、敬称略)

ヒットになりうる3つの要素

『西園寺さん〜』に期待できる理由を3つあげるとこうだ。

1:家事もの

2:ヒットメーカーによる原作がある

3:新時代のキャスティング

1つひとつ解説しよう。

『〜家政夫ナギサさん』と『逃げ恥』では“家事代行サービス”が描かれ、『西園寺さん〜』はヒロインが“家事代行アプリ”の企画者だ。3作の共通点は“家事”というより“家事代行”。どうしたら家事の煩雑さから解き放たれながら、「清潔で安全」に生活することができるか、これは人類の永遠のテーマなのである。

『西園寺さん〜』の第1話放送前の時間帯、TBS は『マツコの知らない世界』で「家事代行サービスの世界」を特集していた。なんでも自分でやらなくても、家事の得意な人に任せればいい。

数時間1万円〜1万5000円くらいで料理や掃除をしてくれるのなら、その分、自分のやりたいことに時間を使えるという素敵な提案を放送。マツコもすっかりその気になっていたところで『西園寺さん〜』第1話がはじまり、じつにタイミングが良かった。編成の勝利。

『西園寺さん〜』の主人公・西園寺一妃(松本若菜)は38歳の独身。アプリ会社で、「カジレスキュー」という、家事のお助けアプリを企画し、それが500万ダウンロードと大ヒットしている。

仕事が順調な中、2階のルーフバルコニーからの見晴らしがいい、広めの一軒家を購入。“家事ゼロ生活”にふさわしいリノベーションを施し、保護犬リキとの生活をはじめたところ。

35年ローンで、現在“貯金残高オーメン(666円)”のギリギリではあるが、2階建ての1階は賃貸ができるようになっているので家賃収入を得ることが可能な夢の物件だった。ついでにいうと、彼女の友人(野呂佳代)は家事代行業をしている。


主人公・西園寺一妃を演じる松本若菜(画像:TBS『西園寺さんは家事をしない』公式サイトより)

一妃の家の階下を借りることになるのは、彼女より9歳下の、見た目も中身も優秀なエンジニア・楠見俊直(松村北斗)。アメリカの大手テクノロジー企業・パイナップル(ネーミングが秀逸)から、一妃の会社に転職してきた。

妻を亡くし、4歳の娘・ルカ(倉田瑛茉)を育てるシングルファーザーで、不運にも住居が火事になり、漫画喫茶暮らしを余儀なくされていたところ、見かねた一妃が階下を一時的に貸すことになった。

『ホタルノヒカリ』からアップデートされた部分

公式サイトによると、一妃と楠見はこれから“偽家族”として暮らしていくことになるという。つまり『私の家政夫ナギサさん』と『逃げるは恥だが役に立つ』を足して2で割ったような理想的なドラマではないか。

家事の問題を解決するための独特な家族の形を作ること、これぞ現代の最大のテーマなのである。

一妃の持論は「やりたくないことをやってる人を、やらなくていいようにすることが私のやりたいことだからやってるの」ということ。家事代行もそのひとつなのだ。

要するに、それぞれのやりたいことを自由にやれる世の中を目指す。こういうふうにわざとまわりくどく、でもなんだかわかるように纏めるセンスもなかなかいい。

秀逸な題材を取り上げた原作は、ひうらさとるの漫画。ひうらには『ホタルノヒカリ』(漫画は2004年から連載開始、2007年に日本テレビでドラマ化された)という大ヒット作もある。

“干物女”と言われる、仕事は優秀だが家事をいっさいしない主人公(綾瀬はるか)が、キレイ好きで家事の得意な部長(藤木直人)と一軒家で同居するという物語だった。

家事をしない主人公、家事の得意なイケメン、一軒家での同居……とこの人気要素が『西園寺さん〜』でアップデートされて、シングルファーザーとの偽家族になったと見ていいだろう。

令和的なアップデートがされた部分は、楠見の描き方だ。亡くなった妻が家事に手を抜かない人だったため、彼女の代わりに自分がちゃんとやらなくてはいけないと思っていて、それが彼を追い詰めてしまう。

もともと仕事も論理的にやるタイプだから、家事にも真面目に向き合っているのだろう。そして子育てにも。火事に遭い満喫生活しているとき風邪を引いて、娘に感染させてはいけないとバスタブの中に自ら隔離するとは真面目すぎる人物だ。

生真面目で、感情をあまり表に出せないタイプの楠見は、一妃の家のバルコニーでバーベキューをしたとき、妻のことを思い出して泣いてしまう。

ずーっと気を張って過ごしてきたから、一妃に手を差し伸べてもらえてホッとした瞬間の表情。これはもう、役割とか属性は男女関係ない時代なのだとつくづく感じさせた。


シングルファーザーとして奮闘する楠見俊直を演じるのは松村北斗(画像:TBS『西園寺さんは家事をしない』公式サイトより)

一妃のほうは、かつて母親ががんばりすぎて家を出てしまった過去がある。その体験が彼女を必要以上に家事に縛られないようにさせたのかもしれない。

一妃は家事はしないが、「シルバニアファミリー」が好きで、一部屋、そのコレクションに当てている。すてきな家や家庭に憧れもあるのかもしれない。彼女の内面は追って描かれるであろう。

“ハマり役すぎる”メインの2人

男性だって家庭を守らないといけない局面があり、反対に、女性だからって家事をやらなくてもいいと我道を主張することができる。

それぞれのやりたいこと、やれること、やりたくないことを明確にして、それぞれが適材適所、分担していい時代の到来。メインキャストの松本若菜と松村北斗がハマっている。

松本は、今回がGP帯の連続ドラマ初主演。『仮面ライダー電王』(2007年、テレビ朝日系)で俳優デビューして18年目。2022年『やんごとなき一族』(フジテレビ系)でヒロインを徹底的にいじめ抜く小姑役の弾け具合で注目を浴びる。

2023年、大河ドラマ『どうする家康』(NHK)では、阿茶局役で、側室ながら軍議や戦にも参加する有能さをもった役を颯爽と演じていた。悪い意味の一切ないサバサバした雰囲気があり、嫌味がなく、清々しい。いま最も、アラフォー女性のロールモデルとして重宝される俳優であろう。

火曜ドラマには『私の家政夫ナギサさん』、『夕暮れに、手をつなぐ』『18/40〜ふたりなら夢も恋も〜』(ともに2023年)に出演しており、火曜ドラマ4作目で初主演を射止めた。2025年1月公開の映画『室町無頼』では高級遊女・芳王子(ほおうじ)役で出演予定だ。

そして、松村北斗。SixTONESのメンバーである松村は、2023年の第46回日本アカデミー賞で新人俳優賞を受賞し、俳優としても期待されている。

彼が俳優として注目されたのは、朝ドラこと連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2022年度後期)。ヒロイン(上白石萌音)の夫・稔役を演じて、100年後の三代めヒロイン(つまり孫に当たる)まで影響を与える名台詞を語る重要な存在となり、稔さんブームを巻き起こした。

松村北斗に今回の楠見役は合っている

昭和の、真面目な勉学に勤しむ人物が似合う貴重な存在である。ミステリードラマ『ノッキンオン・ロックドドア』(2023年、テレビ朝日系)では、料理の得意な探偵・御殿場倒理役で、難易度の高いトリックを解明することが得意な頭脳派を演じていたが、今回の楠見の第一印象は御殿場にちょっとだけ似ているような気もした。

朝ドラで共演した上白石萌音と再共演が話題になった映画『夜明けのすべて』(2024年)で友だちや恋人という枠組みとは違う関係性の男女を演じていた。旧時代の、メインキャラはこういう役割がふさわしいという決め事から解き放たれた役を演じた松村に、今回の楠見役は合っているように思う。

松本も松村も(偶然、どちらも「松」)、旧時代の、夫婦、恋人というイメージと違った新時代感のあるキャストである点においても『西園寺さん〜』に期待できる。

原作はすでに完結しているので、原作と終わり方が違うという心配もないだろう。どんな“家庭生活”が描かれるか、第2話以降に注目したい。

(木俣 冬 : コラムニスト)