KR250のタンデムツイン(前後2気筒)は独創の塊【このバイクに注目】(このバイクに注目)
1980年のヤマハRZにはじまり、ホンダのMVXにNS、さらにスズキがΓでよりレーシングマシンに近づける過激な2ストレプリカ競争の渦中に、カワサキも遅ればせながら1982年にKR250の開発をスタートさせた。
それは1970年代後半に世界GPでタイトルを獲得した、KR250/350ワークスマシンに倣ったタンデムツイン、単気筒を前後に連結した特異なエンジン・レイアウトを採用していたのだ。
4度の世界チャンピオンに輝いたKR250/350は、ロータリーバルブという吸気タイミングに切り欠きを入れた円盤がクランクケース横の吸気ポートを開閉しながら回転する、かつて2ストのGPマシンがすべて採用していた中速トルクが稼げる方式で、異例な2気筒を前後に連結するため、一般的な横に2気筒の並列ツインだとロータリーバルブのため両側にキャブレターが飛び出しエンジン幅が大きくなるのを単気筒並みにスリムな構成として、前面投影面積を小さくして高速域で優位さを狙ったというマシン。
ただGPマシンでは、連結する2気筒をクランク180°位相で物理的に1次振動は相殺される筈だが、ギヤ連結するとバックラッシュで2次振動が増幅してライダーを悩ませるほどで、後期型ではお互い逆回転の360°位相で同爆とし振動にはラフでもバイブレーションは抑えられトラクションの刻み方が強力なポテンシャルを武器にしていた。
しかし性能本意のレプリカといえど、市販車の快適さは担保しないわけにはゆかず、開発陣はタンデムツインのエンジン前後長を縮める狙いも兼ね、シリンダー面を33°前傾して真ん中にあるクラッチのハウジング・ギヤでふたつの気筒を連結するレイアウトを採用、クランク位相は180°で1次振動は物理的に打ち消される原理。
ボア×ストロークが56mm×50.6mmの249cc、45ps/10,000rpm、3.7kgm/8,000rpmで、アルミ3ピースフレームなど乾燥重量133kgの軽量とホイールベース1,360mmのコンパクトさ、そして何よりご覧のように異彩を放つほどのスリムさを誇った。
キャブレターは15°傾斜してマウント、当時の最新フラットバルブをさらに15°傾斜させているため、吸気のダウンドラフト化も得る独自の構成。
さらにロータリーバルブ吸気の円盤ホルダーには、メインの吸気ポート両側に高回転時のみ開くリードバルブを介したポートを設けたR.R.I.S.と、シンプルな2ストロークにあってメカニカルな構成部分の多さが目立つ、独創のエンジンとなっていた。
この他に例のない独創の構成だらけのタンデムツインKR250は1984年にリリース。
その走行パフォーマンスは、250ccながらフルスロットルで発進すると軽々と前輪が宙に浮くウイリーマシン。
カワサキらしいと評判にもなったが、そのコントラストで中速以下に力強さがないといったイメージをもたれてしまった。
これを解決したのがマイナーチェンジされたKR250Sに装備されたKVSSと呼ばれる排気デバイス。他メーカーが揃って排気ポートの高さを可変とした仕組みだったのに対し、カワサキは2気筒のエキゾーストを連結、180°位相でお互いのチャンバー内に溜まる排気圧を利用して中速域以下の吸気吹き抜けを抑える効果を投入、2,000~6,500rpmの範囲を超える高回転域になる
KR250はデビュー時から足回りもビッグマシン並みの贅沢な装備で、フロントフォークのノーズダイブを押えるAVDS減衰機構から、リヤサスはエンジン形状やフレームレイアウトの関係でエンジン下へベルクランクのリンクを介したユニトラックを採用、サスペンションの調整を外部からダイアルでリモートできる豪華仕様としていた。
またカウルの前部両側にボルト・マウントされているカバーは、ハンドルをクリップオンのレーシングマシン仕様とする場合に備えた仕様。ほぼ外すライダーはいなかったが、他メーカーでは考えもつかないカワサキらしいフィロソフィといえる。
かくして2ストロークマシンとしては、メカニズムも凝った独創性に満ちたマシンだったが、実際のレースシーンに見られなかったこともあり人気はいまひとつ。
結果としてレースにも参戦するプロジェクトとして、並列ツインのKR-1や逆VツインのワークスマシンX-09開発へと進化、独創のタンデムツインは短命に終わってしまった。