現金を持ち歩く煩わしさや、ポイントやマイレージがたまるのを理由にキャッシュレス決済に移行した人もいれば、そうするとついお金を使いすぎる気がして現金にこだわっている人もいます。新しい研究により、クレジットカードや「○○ペイ」のような電子決済だと財布のひもが緩みがちになることが確かめられました。

Less cash, more splash? A meta-analysis on the cashless effect - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022435924000216

We spend more with cashless payments | Newsroom | University of Adelaide

https://www.adelaide.edu.au/newsroom/news/list/2024/06/06/we-spend-more-with-cashless-payments

Cashless Payments Are Changing Our Spending Behavior, Study Reveals : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/cashless-payments-are-changing-our-spending-behavior-study-reveals



「現金を使うと紙幣や硬貨を物理的に数えて手渡しするので、支払いという行為がよりはっきり感じられます。逆に、物理的に何も手渡さないのであれば、いくら使ったのかわからなくなってしまいがちです。計画以上の出費を防ぐために、できるだけカードではなく現金を持ち歩くことをお勧めします」と話すのは、オーストラリア・アデレード大学のマーケティング研究者のラクラン・ションバーグ氏です。

2024年5月にJournal of Retailingに掲載された研究で、ションバーグ氏らの研究チームは、非現金での支払いが支出を増加させてしまう「キャッシュレス効果」の実態を調べました。

まず、研究チームがこれまでに発表されたキャッシュレス効果に関する文献を検索したところ、1978年から2022年の間に発表された文献71本が見つかりました。これらの論文で収集されたデータは、世界17カ国に住む1万1257人が行った決済33万8513回分に及びました。

そして、各研究の結果を比較できるように標準化した効果量(Effect Size)を算出して分析したところ、正のキャッシュレス効果があること、つまりキャッシュレス決済をすると支出額が増えてしまうことが確かめられました。



現金での支払いとキャッシュレス決済の差は小さいものの有意で、クレジットカードやデビットカード、後払いサービスなど支払い方法に関係なく、どのキャッシュレス決済でも一貫していたとのこと。

反面、キャッシュレス決済同士を比較すると、カード決済の方がモバイル決済より支出額がかさみがちでした。これは、比較的新しい技術であるモバイル決済よりカード決済の方が使い慣れており、仕組みがわかりやすくて便利な決済手段だと認識していることが気の緩みにつながっているのせいではないかと、研究者らは考えています。

また、キャッシュレス効果は支払う状況、つまり何を買うかによっても異なっており、ブランドものの高級衣料やジュエリーのような「顕示的消費」では顕著だった一方、飲食店でのチップや慈善団体への寄付のような支払いではほとんど違いがありませんでした。

この点について、共著者であるメルボルン大学のアレックス・ベリ氏は「予想に反して、キャッシュレス決済は必ずしもチップや寄付金の増額につながらないことがわかりました」とコメントしています。



このほか、分析結果からはキャッシュレス決済が普及するにつれてキャッシュレス効果が小さくなっていることも示されました。これは、キャッシュレス決済に慣れるにつれて、決済の手段が消費行動に与える影響が小さくなることを示唆しています。

ションバーグ氏は「キャッシュレス社会への移行は不可避だと思われます。私たちの研究は、この移行の中で見過ごされてきた側面、つまり私たちの消費行動にどんな影響が出るのかに光を当てたものなので、非常に重要なものだと私は考えています」と述べました。