「健康食品」で失敗しないために知っておきたい事
健康に役立つ健康食品。間違った使い方で健康を損なうことのないようにしたい(写真:Graphs/PIXTA)
小林製薬の紅麹(べにこうじ)原料を含むサプリメントによる健康被害問題で、厚生労働省は7月8日、摂取後に死亡したとして同社が因果関係を調査している人数が97人になったと公表した。健康食品が与えるリスクにますます注目が集まっている。
サプリは必要か見直す機会に
都内にある日野原記念クリニックの医師、久代登志男所長(循環器内科)のもとにも、患者からの相談が増えているという。
「私の患者さんにも紅麹のサプリを飲んでいる方がいました。幸い、大きな問題は起こらず、今は飲んでいないそうです。これまで専門家に相談せずにサプリメントや健康食品を取っていた人は、この問題をきっかけに本当に必要かどうか見直してほしいです」
日本腎臓学会は、問題となっている機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」を摂取して腎臓に障害がみられた患者を調査したところ、摂取中止後でも85%以上の患者で腎機能が回復していないという中間報告を発表している。
「腎機能障害は自覚症状が出たときにはかなり進行している可能性があります。薬剤性の肝機能障害も約1割はサプリメントが原因とされています。定期的な検査で血液と尿を調べれば早期発見できますので、おかしいと思ったら摂取を中止して医療機関を受診すべきでしょう」(久代氏)
健康食品には、保健機能食品に分類される「特定保健用食品(トクホ)」や「栄養機能食品」「機能性表示食品」と、それ以外の、「その他のいわゆる健康食品」とがある。
(消費者庁「健康食品」のホームページより)
正しく理解している人は少ない
しかし、それらの違いを正しく理解している人は少ない。
消費者庁の「食品表示に関する消費者意向調査報告書」(令和4年度)によると、機能性表示食品を「どのようなものか知っている」と答えた人は19%だった。だが、実際に機能性表示食品について正しく理解していた人は15.2%。トクホは28.5%、栄養機能食品は10.2%と低かった。
機能性表示食品は“健康な人を対象にした食品”であって、医薬品ではない。薬剤師の千葉一敏氏は、あくまでも健康維持のために使うものであると説明する。
「健康診断で高めの数値が出て、生活習慣を見直しましょうと指導を受けた人が利用することが多いですが、例えば『コレステロールを下げる』と表示されていても、医薬品のように数値が下がるわけではありません」(千葉氏)
そもそも、トクホと機能性表示食品は、どう違うのか。
1991年に始まったトクホは、最終商品を人が摂取して確かめた臨床試験が必須で、審査のハードルが高い。
対して、2015年に始まった機能性表示食品は、こうした臨床試験は不要。企業が販売前に安全性や機能性の科学的根拠を消費者庁に届け出て受理されれば、商品に機能性を表示できる。
機能性に関与する成分の文献的評価だけでも認められるため一気に広がり、現在ではサプリメントやヨーグルト、ジュースなど約7000品に上る。小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」もその1つだ。
機能性の科学的根拠は、消費者庁のホームページで確認することができる。パッケージや広告だけで判断するのではなく、購入する前に確認しておきたい。
今回の紅麹の問題は、決して他人事ではない。
東京都が実施したモニターアンケート調査「健康食品に関する意識や認知度等」(令和4年度)では、1種類以上の健康食品を利用していると答えた人の割合は37.6%(1種類は21.2%、2種類は7%、3種類は9.4%)だった。「以前利用していたが現在は利用していない」は28.3%で、あわせて65.9%がこれまでに健康食品を取ったことがあった。
そのうち、「基礎疾患がある(あった)」と答えた人が41.5%で、その約7割が医師や薬剤師などの専門家に健康食品を取っていることを伝えていなかった。
だが、基礎疾患のために薬物治療を受けている人こそ注意が必要だ。
「一緒に使うと、医薬品の作用が弱まったり、強くなったりすることがあります。医薬品と同じ『作用機序』を持つものもあり、同時に取ることで医薬品の副作用が出やすくなることもあります」(千葉氏)
特に、錠剤やカプセルのようなサプリメントは容易に取れるため、多く取れば効果が出やすいと思って、用法用量を守らず過剰摂取してしまうことがある。ほかにも、複数の製品を取った場合、同じ成分がそれぞれの製品に入っている場合もあり、知らないうちに過剰摂取をしてしまうこともありうる。
薬を健康食品に置き換える危険性
もう1つ問題なのは、治療が必要なのに「これを飲んでおけば大丈夫」と自己判断して、トクホや機能性表示食品に置き換えている人だ。
「高血圧症も糖尿病も初期の段階では自覚症状がなく、病院に行って医薬品をもらって飲んでも体調などに変化が出ません。だから、サプリメントに置き換えてもいいかと、その時点では思われるかもしれませんが、医薬品での治療をやめてしまうと、将来、重症化してしまうこともあります」(千葉氏)
今回の健康被害は、紅麹原料そのものではなく、製造過程で問題が起きたとされている。このことを踏まえ、消費者庁は「機能性表示食品を巡る検討会」で制度を見直している。
小林製薬ウェブサイトのトップページには、お詫びの文章が公開されている(小林製薬ウェブサイトをキャプチャーしたもの)
検討会のメンバーでもある日本栄養士会の阿部絹子常務理事は、被害拡大の背景の1つに、これまで健康問題に関する届け出が多くなかった点を挙げる。
「機能性表示食品を含め、すべての食品において食品との因果関係が疑われる健康被害があった場合、医療機関は保健所に報告することになっています。しかし、これまで消費者は『自分が取っている食品で、健康被害を受けているかもしれないこと』を医師に相談しなかったり、医師も診断のときに摂取している健康食品を聞かなかったりしていたと思います」
機能性表示食品の届け出事業者は、健康被害を確認した場合、速やかに消費者庁と保健所に報告するようガイドラインで定められているが、現時点では法的な義務はない。そのため今後は、健康被害の報告を義務化していく方針だ。
また、安全な食品を製造するための食品衛生法と、消費者を守るためにどう正しく伝えるかの食品表示法の両方の改正についても議論が進められているという。
今回の問題は、事業者に対しては製造管理や報告の徹底などが求められる重大事案となったが、消費者も本当に必要なものかを見極める「消費者リテラシー」を高めるきっかけにもなりそうだ。
機能性表示食品は、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性が表示されている。
今回取材した専門家も「取らないほうがいい」と言っているわけではない。むしろ「その他健康食品(トクホや機能性表示食品以外の、健康効果を謳ったもの)」のほうが、安全性や機能性の科学的根拠は不確で、危ないと指摘する。
トクホ・機能性表示食品の正しい使い方
では、どうすれば機能性表示食品を健康維持のために活用できるのか。
まずは自身の健康状態をチェックし、バランスのいい食事や適度な運動など、生活習慣を見直したい。
「機能性表示食品が“免罪符”となり、『たくさん食べてもOK』というような、生活習慣が肯定されるのは本末転倒です。生活習慣を整えたうえで、あくまでも足りない部分を補う目的で取るべきです」(久代氏)
少なくとも、病気の治療で薬を飲んでいる人は、必ず医師や薬剤師に相談をしたほうがいい。
昨今、健康食品について助言できる「アドバイザリースタッフ」がいる薬局が出てきている。また、47都道府県に「栄養ケア・ステーション」もある。「医師に聞くのが怖い、ためらわれる」という人は、まずはこれらの場所で相談してみたらいいそうだ。
さらに、40歳以上は特定健診・特定保健指導を受ければ、そのときに管理栄養士に聞くことも可能だ。
「専門家に機能性表示食品が機能としてどう働くのかを相談し、ちゃんと医療機関で治療したほうがいいとか、それほど数値が悪くないから食生活で頑張ってみましょうかと言われると思います。決して自己判断で健康食品を過信して、摂取量以上に取らないことが大切です」(阿部氏)
【2024年7月16日19時00分追記】初筆時、2ページ目の図版に誤りがあったため、新しい図版に差し替えました。
(北森 明日香 : フリーランス記者)