これまでラウラさんが食べてきた彩り豊かなパフェの数々(写真:ラウラさん提供)

仕事が終わって帰宅したら疲れて何もできない──。そんな人がいる一方で、時間、体力、お金をやりくりしながら趣味に没頭するビジネスパーソンがいる。彼らはなぜ、その趣味にハマったのか。どんなに忙しくても、趣味を続けられる秘訣とは。新連載 隣の勤め人の「すごい趣味」では、仕事のかたわら、趣味をとことん楽しむ人に話を聞き、その趣味の魅力を深掘りする。

住まいもパフェの店を基準に探す

「2023年に食べたパフェは500本。最後の500本目は大晦日の深夜、(東京)九品仏『アンフィニ』の年越し営業で食べたパフェです。1年のいい締めくくりになりました」

そう語るのは、フィンランド出身のラウラ・コピロウさん。部屋探しの際、「お気に入りのパフェの店がある最寄り駅から30分以内の物件を」と不動産会社に頼んだほどの「パフェ好き」だ。


フィンランド大使館商務部で働くラウラさん(写真:ラウラさん提供)

そんなラウラさんは、フィンランド大使館商務部(ビジネス・フィンランド)の上席商務官として仕事にも日々邁進。建築、デザイン、食品、サウナ領域を担当し、フィンランドと日本の架け橋として両国の企業のビジネスをサポートしている。

仕事終わりにパフェを食べて、土日も“パフェ遠征”に出かける。なぜそこまでパフェに引き込まれたのだろうか。

【写真17枚】1年で500本食べ歩くラウラさんが味わった、見た目も美しいパフェの数々。記事に載せきれなかったラウラさんイチ押しのパフェも

ラウラさんは、パフェの魅力を「五感で楽しめる芸術作品」と表現する。

「たとえば映画は、視覚と聴覚だけですよね。パフェは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、全部を刺激します。『ラトリエ・ア・マ・ファソン』(東京・上野毛)のアジサイのパフェは、梅雨の空気感が味、香り、デザイン、色味で表現されています。入っている焼き道明寺を食べると、“アジサイ寺“の玉砂利を踏みしめるような音やカリカリとした食感、スプーンをグラスに入れたときの感触まで楽しめるんです」


ラトリエ・ア・マ・ファソンのアジサイのパフェ2024年版(写真:ラウラさん提供)

パフェのもつ「物語性」も魅力、と考えるラウラさん。パフェは縦長のグラスに入っていることが多い。何の食材をどんな順に入れるかで、食べるときに感じる“物語”が変わってくる、という。

「たとえば秋の食材を下に、夏の食材を上に入れると、食べる人に季節の移り変わりを伝えられます。だから、私はパフェを人とシェアしたくないんです。映画の一場面だけ見ていないことになってしまうから」

パフェはイベント性や季節感をもたせやすい

パフェの情報収集はインスタグラム、グーグルマップ、グーグルアラート。パフェ仲間や作り手からの情報収集も欠かせない。毎日のようにパフェを食べ、写真は日本語と英語の文章を添えてインスタグラムにアップ。全国各地に“遠征”もする。取材依頼やパフェの監修依頼も増えてきた。

「パフェは作り手が目の前で作ってくれる“一点物”」とラウラさん。先に紹介した大晦日のパフェのように、パフェは食材や造形によってイベント性や季節感をもたせやすく、限定商品が多い。


大晦日限定のアンフィニのパフェ(写真:ラウラさん提供)

だから1日に複数本食べることもあるそうだ。

そんなラウラさんとパフェとの出合いは2010年のこと。当時ヘルシンキ大学在学中で、早稲田大学政治経済学部に交換留学生として来日していた。

お金がなく毎日同じような食事をしていたため、アルバイト先の先輩が「日本らしい、おいしいものを食べさせたい」と連れていってくれたのが、東京・日本橋の千疋屋総本店だった。


千疋屋に初めて行ったときのラウラさん(写真:ラウラさん提供)

「パフェを見て『アイスってデザインできるのね!』と感動しました。もともと建築家になりたかったくらい、美しい建物やデザインが好き。千疋屋のパフェは彩り豊かで見た目が素晴らしく、どのフルーツも主役級の味なのに、それぞれが引き立て合い、バランスがとれている。味も見た目も素晴らしいと思いました」

北大の院に進学、週に何本もパフェを食べるように

その後、ラウラさんはヘルシンキ大学を卒業して、北海道大学大学院法学研究科に進学。日本語で修士論文を執筆する日々を送るうち、気分転換のために週に何本もパフェを食べるようになった。

「ちょうど、お酒を飲んだ後の締めに食べる『シメパフェ』が普及して『札幌パフェ推進委員会』ができたころ。リーズナブルな価格帯の魅力的なパフェが増えたんです」

大学院修了後は楽天に就職し、仕事帰りにパフェを食べるように。芸術性の高いパフェを提供する『パティスリィ・アサコ・イワヤナギ』(東京・等々力)、『アトリエコータ』(東京・神楽坂)でますますパフェにほれ込んだ。パフェ評論家・斧屋氏主宰のコミュニティ「パフェ大学」で、パフェ好きの人たちともつながった。


アトリエコータのパフェ(写真:ラウラさん提供)

フィンランド大使館商務部に転職したのは2018年のことだ。事あるごとに「いつかフィンランドと日本の両方を知る自分にしかできない、デザインに関わる仕事をしたい」と話していたら、フィンランド大使館商務部のスタッフから声がかかった。


ラウラさん(写真:ラウラさん提供)

「『こんな素晴らしいことってある!?』と思いました。夢がかなったんです。だから仕事に対するモチベーションは常に高いです」

好きな仕事をして、昼休憩や仕事終わりに大好きなパフェをたくさん食べたいから、体力維持には気を遣う。

「毎日10kmのランニングとヨガをしています。人は疲れる生き物だから、休むのも仕事と同じくらい大事です。疲れたままだと仕事の効率が下がりますし、自分にも人にもやさしくできないと思うから」

ここまでラウラさんの話を聞いて、ふと疑問がわいた。パフェのようなスイーツは、ほかの国はないのだろうか。

パフェは日本独自のスイーツ

ラウラさんによると、「パフェは日本で独自の進化を遂げたスイーツ」だという。パフェの起源は諸説あるが、日本に持ち込まれたアメリカの「サンデー」が発展したものといわれている。

サンデーはアイスクリームにソースをかけたスイーツ。なぜそれが、いま日本で食べられるような縦長のグラスに入った何種類もの食材を使うパフェになったのか。

「日本人は徹底したこだわりによって、すでにあるものをバージョンアップさせるのが得意です。コンビニはアメリカ発祥ですが、いまの日本のコンビニはアメリカのそれとは完全に別物。そのこだわりが、パフェを進化させたんだと思います」


台湾のamydala杏仁核のパフェ(写真:ラウラさん提供)

優雅なグラスに盛りつけられたパフェには、洋菓子のおもむきがある。しかし、ラウラさんは「パフェほど日本らしいものはない」と感じている。

「パフェには食材が層構造で入っているから、上の食材と下の食材が混ざり合う味が楽しめます。定食のおかずとお味噌汁とご飯を口の中で混ぜながら味わう、日本の“口内調味”の文化と同じです」


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旬の食材で季節感を表現するところ、作り手の高いクラフトマンシップも日本らしい、とラウラさん。そしてもう1つ、パフェに欠かせない日本らしさがある。“はかなさ”だ。

「日本人は一瞬で散る桜を愛でる文化をもっていますし、季節限定が大好き。パフェはすぐに食べないとアイスやクリームが溶けてしまいます。はかないからこそ、日本人はパフェが好きなんだと思います」

パフェの全国制覇を目指す

仕事に邁進しながら趣味も楽しむラウラさんの目標は、日本語と英語でパフェについての発信を続けることと47都道府県でパフェを食べることだ。残るは秋田、島根、鳥取、沖縄。パフェの本を執筆したいという構想も温めている。

「パフェを通して味わえる喜びをみんなに広げたいですね。外国人の目から見た日本のパフェ文化、パフェの日本らしさ、海外で日本のパフェがどう受け止められているかについても研究していきたいと思っています」

【写真17枚】1年で500本食べ歩くラウラさんが味わった、見た目も美しいパフェの数々。記事に載せきれなかったラウラさんイチ押しのパフェも


Yayoi Tokyoのパフェ(写真:ラウラさん提供)

(横山 瑠美 : ライター・ブックライター)