お客さまからのリクエストに応えて、2017 年頃から始めた初夏の氷。時期になると店内に並べたパイナップルの香りがあたりを包む。使っているのは、甘みが強い「ハニーグロー」という品種。別添えのヨーグルト練乳でさっぱりと(出所:『一年じゅうかき氷の店 埜庵の20年 絶品シロップレシピつき』)

神奈川県・鵠沼海岸にあるかき氷屋「埜庵」は、一年中かき氷を提供する店として20年もの間、人気を集めてきました。サラリーマンから転身した店主・石附浩太郎さんはどのような思いで、これまでお店を営んできたのでしょうか。家庭でも真似できるシロップの作り方とあわせてご紹介します(本記事は『一年じゅうかき氷の店 埜庵の20年 絶品シロップレシピつき』から一部を抜粋、再編集したものです)。

3回シリーズでお届けしています。
【1回目】行列のできる「かき氷」店が真夏に店を閉めたワケ
【2回目】「かき氷も日本料理のうち」老舗店が追求する潔さ

なんとかビジネスとして成り立つように

「水商売」という言葉があります。『広辞苑』には「客の人気によって成り立ってゆく、収入の不確かな商売の俗称」とあります。

現代においても、電気やガスは民営化されているのに、水道だけは依然として「官」。ほかのライフラインと違い、水は生きていくのにそれだけ必要なものということです。

「商いは水もの」というとおり、営利を目的とする商いに「水」はほとほと向いていないのかもしれません。お客さまに聞かれると、「こんなのはビジネスじゃなくてギャンブル」という話をよくします。

ギャンブルなら、長い間やっていれば必ず負けます。いつかは退場しなくてはいけません。それは嫌なので、なんとかビジネスとして成り立つようにと考え続けてきたのが、この20年間です。

「埜庵(のあん)」は「一年じゅうかき氷を食べられる、初めての専門店」と紹介されることが多いのですが、これが本当に正しいかどうかは、かき氷の歴史を調べている私にも実はわかりません。私が始めたときに、たまたまなかったということかもしれません。

埜庵がオープンした2003年頃は、冬にかき氷を食べる人たちはほんのわずかで、まだまだ「変わり者」でした。その意識が変わってきたのは、つい最近のこと。この10年ほどの歳月は、かき氷にとって、明治以来のかき氷の歴史がひっくり返るくらいの大きな変革期だったのだと思います。

私がかき氷の店の店主として過ごした20年間は、そんな「かき氷の変革期」を内側から定点観測をしているようなものですから、その驚きたるやすさまじいものでしたし、同時にいつも冷静な目で眺めてきました。

「かき氷は冬でも食べるもの」という認識は、いまはまだ、必ずしも多くの人に共通のものではないと思います。

みんなが食べなくてもかまいません。ただなんとなく、「最近は、冬でもかき氷を食べる人がふえているんだって」という認識が、多くの人のなかにできたならそれでいい。

それこそが、かき氷の歴史が変わったということで、そこからまた、かき氷の新しい可能性が広がっていくといえるでしょう。

家庭で真似できるシロップレシピ

埜庵のエッセンスが感じられる、シロップのレシピを紹介します。セルフメイドのおいしいかき氷を、ぜひ味わってみてください。

マンゴーシロップの作り方

<材料(約750㎖分)> 
マンゴージュース 500㎖
冷凍マンゴー 150ℊ
グラニュー糖 280ℊ

冷凍マンゴーとジュースでつくる、とろりと濃厚なシロップ。マンゴーをトッピングして、見た目も華やかに。


(出所:『一年じゅうかき氷の店 埜庵の20年 絶品シロップレシピつき』)

<作り方>

【1】鍋にマンゴージュース、グラニュー糖を入れて中火にかける(a)。グラニュー糖がとけたら、火を止める。


混ぜながら温め、グラニュー糖をとかす(出所:『一年じゅうかき氷の店 埜庵の20年 絶品シロップレシピつき』)

【2】保存容器に冷凍マンゴーを入れ、【1】 を加える(b)。


凍ったままのマンゴーにかける(出所:『一年じゅうかき氷の店 埜庵の20年 絶品シロップレシピつき』)

【3】あら熱がとれたら、冷蔵室に入れて冷やす。

【4】トッピング用のマンゴーを適量とり出す。ハンディブレンダーなどでよく混ぜる。


(石附 浩太郎 : かき氷店「埜庵」店主)