韓国・仁川で6月15〜16日に開催されたイベント「2024 ウィバース・コン・フェスティバル」(写真:HYBE/Weverse)

スマホアプリひとつで多国籍のファンを醸成できる時代なのかもしれません。ファンクラブのDX化が進み、先行する韓国産プラットフォームを活用する日本のアイドルやアーティストがここにきて増えています。今や日本を代表する音楽ユニットのYOASOBI(ヨアソビ)もK-POPファン御用達の「Weverse(ウィバース)」での活動を6月11日から開始しました。推し活ビジネスも巧みな韓国ビジネスに潔く乗っかっています。

韓国の音楽フェスにYOASOBI登場

YOASOBIが新たに活動の場を広げた「Weverse」はアーティストと多国籍のファンを繋げるグローバルプラットフォームです。アプリ上で交流の場からライブ配信、グッズ販売まででき、推し活を余すところなく収益化するモデルゆえに韓国らしい発想のサービスとも言えます。推しのタレントにデジタルファンレターを投稿できる機能も人気です。


2人組の音楽ユニットYOASOBIがK-POPファン御用達アプリ「Weverse」で活動を開始した(写真:HYBE/Weverse)

YOASOBIがWeverseで公式コミュニティを開設した直後の6月15日、16日には韓国・仁川で開催されたイベント「2024 ウィバース・コン・フェスティバル」に出演し、「Weverse」ファミリーの一員であることを印象づけていました。


海外ライブでの出演が続くYOASOBI。写真はボーカルのikura(写真:HYBE/Weverse)

2日間でリアルとオンラインを合わせて約4万人が観客したライブ会場で「アニョハセヨ。We are YOASOBI(こんにちは。私たちはYOASOBIです)。最後まで楽しんでいきましょう」と韓国語と英語、日本語を交えた挨拶から盛り上げ、2019年のデビュー楽曲「夜に駆ける」や2023年暮れのNHK紅白歌合戦で披露した「アイドル」など4曲を披露し、会場は熱気に包まれました。

そもそもこの音楽フェスは推し活プラットフォームの「Weverse」を利用するアーティストとファンのためのお祭り的な位置づけで始まったイベントです。2回目開催の今年は全24組が出演し、そのほとんどは韓国アーティストでしたが、公式発表によると、観客は韓国以外の地域からの参加が全体の51%を占めたことがわかっています。リアルの場でも海外からの集客があることを証明しています。


「2024 ウィバース・コン・フェスティバル」は2日間でリアルとオンラインを合わせた計4万人の観客のうち、韓国以外の地域からの参加が全体の56.5%を占め、多国籍のファンを集客した(写真:HYBE/Weverse)

ちなみに、YOASOBIが出演した15日の夜の部は、紅白歌合戦でそれこそYOASOBIとコラボレーションした女性5人組のLE SSERAFIM(ル セラフィム)が登場し、トリは男性5人組のTOMORROW X TOGETHER(トゥモロー・バイ・トゥギャザー)が務め、日本でもオーディション番組を通じて知名度のあるJ.Y. Parkと韓国アイドルたちとの特別ステージもありました。

韓国アーティストはそれぞれ曲の合間に長めのMCトークを展開し、観客も「応援棒」と呼ばれるお目当てグループのペンライトを手にして熱心に振り続け、韓国式のグローバルイベントを作り上げていた印象です。

BTS輩出したエンタメ企業の野望

YOASOBIの「Weverse」上での活動はというと、公式コミュニティのファン会員数は現在、1万3000人ほど。まだ様子見の段階と言えますが、韓国のガールズグループの中で今最も人気のあるNewJeans(ニュージーンズ)と一緒に舞台裏の写真を収めた6月28日の公式投稿は反響を得ています。NewJeansが6月26、27日に東京ドームで開催した単独公演「NewJeans ファンミーティング・バニーズキャンプ 2024 東京ドーム」にYOASOBIがゲスト出演したことの報告を兼ねたもので、ファンからの応援コメントも続きました。


NewJeansが6月26、27日に東京ドームで開催した単独公演「NewJeans ファンミーティング・バニーズキャンプ 2024 東京ドーム」にYOASOBIがゲスト出演したことの報告を兼ねたWeverse上の投稿が反響を得た(Weverse投稿より)

韓国アイドルとのコラボレーションが続き、今年は世界最大級のアメリカのフェス「コーチェラ・バレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル」で単独ステージを果たすなど、活動の幅を広げているYOASOBIが「Weverse」に参加したことは、「Weverse」を運営するウィバース・カンパニーにとっても願ったり叶ったりといったところです。というのも、240以上の国と地域で利用でき、月間アクティブユーザー数が1000万を超えるWeverseの現状はK-POPファンに支えられていることが大きいからです。

K-POP界トップの男性グループBTSを輩出したエンターテインメント企業HYBE傘下の事業として2019年に立ち上がって以来、右肩上がりに成長しているものの、HYBE系K-POPアーティストの名前だけに頼らない、独立した事業としてさらに成長させていきたいという野望を持っています。

K-POP界で割と大きな話題となったHYBE経営層の中で起こった今年4月のお家騒動以前からその方向性について明かしていますから、一時のトラブル回避というよりも長い目でリスクを分散させた事業という側面もあるでしょう。

「Weverse」には130組以上のアーティストや俳優が参加し、アリアナ・グランデが合流予定だったりと海外勢も参加していますが、K-POPファン以外からはまだまだ認知度が足りないことをウィバース・ジャパンのジェネラルマネージャー、ムン・ジス氏も認めています。

YOASOBI効果による新規加入者数は公表されていませんが、「大きくは2つの反応がある」とジス氏は説明を続け、「『Weverseへようこそ』と歓迎するファンと、『Weverseって何だろう』と調べてくれて、拡散してくれるファンがいます。いずれにしろ多言語で反響が大きいことは間違いないです。YOASOBIさん自身もグローバルのファンともっと接点を増やしたいと考えていることを話し合いの中で聞いていたので、Weverseが役立つものになると実感もしているところです」と、今回のYOASOBIの参加の経緯を聞くなかで答えています。

100億回再生アーティストも参加

ウィバース・カンパニーの日本事業が本格的にローンチしてから約2年半の間、日本のアーティストの「Weverse」参加は広がりつつあります。例えば、2023年にコミュニティを開設したAKB48は今年4月20日に韓国では初となるファンミーティングをソウルで開催し、成功したのは「Weverse」での活動も大きかったそうです。

TikTokなどSNSで代表曲の「NIGHT DANCER」が100億回超えの再生を記録する2000年生まれの男性アーティストimase(イマセ)も「Weverse」を活用する日本人歌手の1人です。YOASOBIと同様に6月に韓国の「2024 ウィバース・コン・フェスティバル」にも出演しました。会場では海外のファンから日本語で「かわいいねー」といった声援を受けながら、会場を沸かせていました。


代表曲がTikTokなどSNSで100億回超え再生を記録するimaseは日頃から「Weverse」を活用する。「2024 ウィバース・コン・フェスティバル」にも出演した(写真:HYBE/Weverse)

ライブ後に話を聞くと、「何気ない日常を投稿することができたり、いろいろな国のファンの方からの応援コメントも見ることができるので、ファンとコミュニケーションが取れていると感じています。デジタルファンレターは本当の手紙を受け取った気分になれます。そもそも自分自身がSNS発のアーティストなので、ファンとの距離が近いことは当たり前のように思っています」と、新世代のアーティストらしい答えでもありました。

また今年からアジアツアーにも挑戦していることからも、多国籍のファンと一度にコミュニケーションが図れるツールを好意的に思っている様子でした。

安心感が強いセミクローズドな空間

一般的なSNSでもコミュニケーションを図ることは可能なものの、登録制というセミクローズドな空間のプラットフォームであれば、安心感も強いのかもしれません。アーティストとファンとの関係性においてもコミュニケーションが重視される今、一般的なSNSで問題が起こっているのも事実です。

ウィバース・ジャパンのジス氏が「誹謗中傷で心が傷ついたアーティストは実際にいます。ファンも自分が好きなアーティストを守る場所を求めていると思います」と話していた言葉に納得します。コミュニケーションを安定させた先に互いの利益がある「Weverse」のようなモデルが1つの解決策になるからです。エンタメビジネスにおいて良くも悪くも時に熱くなり過ぎる会話はどの国でもあり、だからこそ新たな推し活グローバルビジネスが支持され始めていると言えそうです。

(長谷川 朋子 : コラムニスト)