上場企業の部長を辞めて、93万円の軽自動車で車中泊生活…30代の“ハイスぺ夫婦”が年収も地位も捨てて“車で暮らし始めた”ワケ

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 軽自動車車中泊をしながら、日本一周を達成した“夫婦YouTuber”が人気を呼んでいる。登録者数6万人超のYouTubeチャンネル「カムラフウフと車中泊キャンプ」を運営する30代のゆうたさんとりょうこさんだ。

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 ふたりは、2021年10月に仕事を辞め、約2年かけて日本一周を達成したあとに入籍。現在はキャンピングカー仕様にDIYしたハイエースで“バンライフ”を楽しんでいる。

 もともと上場企業の部長だったゆうたさんと、そのグループ会社の役員だったりょうこさん。いわゆる「ハイスペック人材」だったふたりは、なぜ会社を辞め、軽自動車で日本一周を始めたのか。話を聞いた。(全3回の1回目/2回目に続く)


YouTubeチャンネル「カムラフウフと車中泊キャンプ」を運営するゆうたさん(左)とりょうこさん ©三宅史郎/文藝春秋

◆◆◆

ゆうたさんとりょうこさんが職場で出会った経緯

――ゆうたさんとりょうこさんは、職場で出会ったそうですね。

ゆうた 僕はもともと、上場企業の財務経理部長として働いていました。その会社にはグループ会社がいくつかあって、財務責任者として各社の財務関係もとりまとめていました。

 でも2020年頃、テーマパークの運営を手がけるグループ会社のCFOに就任することになったんです。コロナで経営が厳しくなったテーマパークを建て直すことを目的に、僕が責任者として現場に入って、キャッシュフローなどを整理することになって。

 で、そのグループ会社の役員として働いていたのが、りょうちゃんだったんです。

りょうこ 私はそのグループ会社で、営業や企画の仕事をしていたんですけど、コロナ禍になったときに、いわゆる「抜擢人事」で役員になったんです。

 そのあと、役員になって5カ月くらい経ったときに、ゆうたくんがCFOとしてやってきた、という感じですね。

オーナー系企業の社長を超えたいと思っていたゆうたさん

――お互いの第一印象はいかがでしたか。

ゆうた 笑顔が素敵で、現場を明るくする人だな、という印象でした。

りょうこ 「なんか変わった雰囲気の人やな」って感じでしたね。今はこんなに笑ってますけど、仕事中は笑顔なんか見せなかったし、本当に厳しい人だったんですよ。

ゆうた 働いていた会社がオーナー系企業だったんですけど、当時はそこのオーナー社長を超えたいと思いながら必死で仕事をしていました(笑)。

――オーナー系企業のオーナー社長を超えたいというのは、かなり志が高い。

りょうこ そういうところを「変わってるな」と感じましたね(笑)。

ゆうた 社会人として仕事をしていくなかで、誰を目標にするか考えたときに、やっぱり組織の一番上にいる人を目指すべきだと思って。

責任ある立場で働くふたりが、仕事を辞める決断をしたワケ

――しかし、責任ある立場で働くふたりが、2021年10月に仕事を辞めて、同年12月からはパートナーとして軽自動車で日本一周を始めるんですよね。なぜその決断に至ったのですか?

ゆうた 僕はCFOとして、銀行との調整や資金調達などの仕事はできていたけど、自分で集客するスキルは持っていない、という葛藤を抱えていました。

 それに、オーナー社長を超えたいと思いながらも、同じ会社で会社員として働きながらでは無理だ、という限界も感じていて。だったら会社を辞めて、ゼロから何かを生み出してみたいと思ったんです。そうすれば身一つで会社を立ち上げた社長のことも理解できるし、自分に足りないスキルも身につけられるかなと。

りょうこ 私は、個人として大事にしたい仕事と、役員として取り組まなければいけない仕事にギャップを感じるようになっていました。グループ会社全体を成長させないといけないから、上層部からはもっと広い視野を持って仕事をするように言われていたけど、私はもっと細かい部分にリソースを割きたかった。会社の言っていることは理解できるんですけど、私は頑固だから、納得できなくて。

 徐々に自分の気持ちに嘘をつきながら働くのがしんどくなってしまったんですよね。そんな状態で働いてもいい仕事ができないから、それなら仕事を辞めて新しい挑戦をするのもいいかなと思って、退職を決めました。

車中泊をしながら日本一周を始めた理由

――仕事をしているとき、互いに仕事の愚痴を言い合ったりというのは?

ゆうた いや、そういうのはなかったです。お互いの「仕事を辞めたい」という気持ちを知ったのも、退職直前でした。僕が退職の意思を固めて相談したら、りょうちゃんが「実は私も……」という感じで。

りょうこ ゆうたくんは大先輩で、私なんかとは比にはならないほどの業務をこなしていたので、言えないこともあったと思うんです。なので、私から仕事のことは聞けなくて。私の愚痴はよく聞いてもらっていましたが(笑)。相談されたのは本当に最後のほうでしたね。

――車中泊や日本一周には、もともと興味があったのですか?

ゆうた ふたりとも特になかったですね。仕事を辞めて何をやっていこうか話し合うなかで決めました。

 僕もりょうちゃんも、社会人になってからあまり旅行をしてなくて、日本に住んでいるのに日本のことをあまり知らなかったんですよ。だから、このタイミングで日本を見て回ろう、ということになって。もし将来、また会社員としてがむしゃらに働くことになったら行けなくなってしまうから、行くなら今しかないという感じで。

 あと、愛犬2匹とたくさんの時間を過ごしたい、という思いもあって。ペットを連れてどうやって日本を見て回ろうか考えてたどり着いた手段が、車中泊でした。ペットホテルもありますけど、それだと費用がかさんでしまうので。

地位も年収も捨てて再スタートを切ることに不安はなかったのか?

――日本一周とともに、YouTubeも始めるんですよね。

ゆうた そうですね。旅をしながら収入を得るには、やはりYouTubeが一番いいのかなと。

――ふたりとも社会的な立場や安定した収入を手放して再スタートを切るわけですが、不安はありませんでしたか。

ゆうた 不安はあったかもしれないですが、どちらかというと「面白そう」という“ワクワク感”のほうが大きかったですね。日本を回って知識を増やしたいと思っていたし、自分たちの力でYouTubeに挑戦して、それだけで食べられるようになろう、という目標も立てたので。今後もし自分たちで起業することになったら、今の時代はSNSのスキルが必要だと思ったので、「なんとしてもやってやろう」みたいな感じでした。

 それに、もし失敗してお金に困ったとしても、またどこかに就職すればなんとかなるやろ、とも思っていました(笑)。

りょうこ 私も、良くも悪くも楽観的なので、ゆうたくんが言ったように、もし無理やったら諦めて就職すればいいかなと(笑)。社会人として頑張ってきた経験があるから、もし会社で働くことになっても、何とかできる自信はありましたし。ふたりともしっかり貯金していたので、あとはなるようになるやろ、くらいの感じでしたね。

ふたりの車中泊生活に対する“家族の反応”とは

――ご家族は反対しませんでしたか。

ゆうた 僕が今までずっと働きづめだったのを知っていたから、仕事を辞めたことも日本一周のことも「長期の休暇だと思って、楽しんだらいいんじゃない」くらいの感じでした。

りょうこ うちも、「別に好きにしたら」くらいの感じでした。私が頑固なのをわかっているから、やると言ったら聞かないだろうな、というのもあったと思います(笑)。それでもやっぱり父親は心配していたようで、日本一周中はマメに連絡を取り合っていました。

――日本一周は、りょうこさんが持っていた軽自動車で始めたそうですね。

りょうこ 私が所有していた日産のモコです。数年前に中古で買って、そのときは93万円でした。

軽自動車の車内をDIYしようという話にもなったが…

――新しく買おうとは思わなかったのですか?

ゆうた 僕たちが本当に車中泊をできるかどうかわからなかったし、愛犬たちが車中泊をできるかどうかもわからなかったから、新車を買うのはリスクが高いよね、という話になって。あとは、前職が財務関係なので、新車を買ったとしても、どうやってその投資を回収するのか、みたいなことも気になりました(笑)。

 それなら、まずはモコでやってみようということになって、やってみたら意外とできたという感じです。

――しかも、モコを車中泊仕様にしなかったんですよね。

ゆうた まったくDIYせずに日本一周しましたね。一度だけ、棚をDIYしたことがあるんですけど、ガタガタの箱ができてしまって。それでもう、僕たちはDIYせずにやろうと。

りょうこ 途中でやっぱりDIYしよう、という話にもなったんですけど、YouTubeの視聴者の方々に「DIYしていないモコで、日本一周をやりきってほしい」と言われたのでやめました(笑)。

撮影=三宅史郎/文藝春秋

「税金は払ってるんですか?」という声も…軽自動車に2年間住んだ30代の“ハイスぺ夫婦”が語る、車中泊生活のリアル〉へ続く

(「文春オンライン」編集部)