一度聞いたら忘れられない芸名は? と聞かれて「玉袋筋太郎!」と答える人は多いかもしれません。玉ちゃんの愛称で、全国のスナックを飲み歩いたり、町中華で一杯やったり、はたまたテレビやラジオでコメンテーターとして活躍したり……いつも明るくニコニコ笑顔な芸人さんという印象ですよね。

 

今回はそんな玉ちゃんの日々を綴った新刊『美しく枯れる。』(KADOKAWA・刊)をご紹介します。きっと波瀾万丈なエッセイなのだろうな〜と読み始めたら感情が揺さぶられる、揺さぶられる。嵐の中を渡るボートの如く、笑い泣き、驚いて共感して読み終わるころには超大作のドキュメンタリーを鑑賞したような気持ちになりました。玉ちゃんと同世代の方、そして荒波の50代を通り過ぎた方、人生の先輩の話を聞いてみたい若造のみなさん、毎日を生きる全ての人に読んでもらいたい一冊です。

 

老木には老木の美しさがある

『美しく枯れる。』は、50代を迎えた玉ちゃんの経験談が綴られています。ラジオを聞いている人であれば、あの玉ちゃんの語り口がそのまま文章になったのをイメージしていくと良いでしょう。「普段、本なんか読まないから」という方でもとっても読みやすくなっていますよ。本のタイトルに込めた思いは、以下のように記されていました。

 

いつまでも「辛い」とか「大変だ」とかいっていても仕方ないよな? だからさ、オレはオレなりにこれからの人生の目標っていうか、生き方の基本を「美しく枯れる」ということにしようと考えている。
「美しく枯れる」って、なかなかカッコいいじゃない?

(『美しく枯れる。』より引用)

 

「美しさ」と「枯れる」って反対の意味ですが、組み合わせるとなんだかかっこいい言葉になりますよね。最近では年齢に抗ってアンチエイジングしている人も多いですが、玉ちゃんに言わせると「アンチ・アンチエイジング」なんだとか(笑)。50代からはありのままの自分で勝負する、そんな思いが『美しく枯れる。』には詰まっていました。

 

発酵した50代を生きる

ありのままの自分で勝負したい気持ちはあれど、年齢を重ねるごとにやる気はなくなってくるし、老いを感じていくし、毎日がアッという間にすぎていくもの。私はもうすぐ40代なので玉ちゃんに言わせたら「まだ若い!」と怒られちゃいそうですが、こんな私でも「あのころはよかったなぁ」と昔の自分と比較してしまうことがあります。年齢って生きていく上では、争いたくなるものなんですよね。「アンチ・アンチエイジング」の玉ちゃんはどんな気持ちで老いを受け入れているのでしょうか?

 

「美しく枯れる」ということを考えたときに、ふと「発酵」と「腐敗」という言葉が頭に浮かんだ。
発酵している状態なら絶品となる珍味も、一歩進んで腐敗してしまったらただの腐った食い物になって、腹を下すことになる。

(『美しく枯れる。』より引用)

 

老いを発酵に例えるのは、さすがお酒好きの玉ちゃんだ! と思いました。確かに若いころの勢いがあって、新鮮な味わいも「今」しか楽しめないものですが、熟成したコク深さは年齢を重ねた人にしか出せない味わいですよね。しかし、料理と一緒で保管方法や調理方法を間違えば、腐敗してしまう……。年齢もただ重ねればいいってもんじゃない! ということを実感できます。玉ちゃんはさらにこんなことも書いていました。

 

やっぱりさ、50も過ぎればいつだっていい具合に発酵している状態でいたいものだよな。

(『美しく枯れる。』より引用)

 

本当、それ! と思わず声が出てしまった一節です(笑)。人生100年時代などと言われて長いですが、この一言で老いていくのが楽しみになりました。私も「アンチ・アンチエイジング」精神で年齢を重ねることを楽しみつつ、腐敗しないようしっかり管理はしなければと思った次第です。

 

玉ちゃんがたどり着いた「美しく枯れたもの」は、ぜひ本書で!

明るく素敵な言葉をたくさん紹介してきましたが、『美しく枯れる。』には、浅草キッドの今や事務所退所の裏側、人気番組『町中華で飲ろうぜ』のこと、お金に苦労した話、さらにはじぃじになった玉ちゃんの思い、出て行ってしまった奥さんの話と、涙なしでは語れないお話もたくさん掲載されています。

 

『美しく枯れる。』の中で、印象的だったのは、人生を起承転結に例え、50代は「転」に差し掛かった時期だと語っている部分でした。まだまだ元気な玉ちゃんを見ていると「枯れるには早いよー!」と思ってしまいましたが、50代はまさに美しく枯れていくために必要な「転」の時期なのでしょう。人生を自分なりの美しさで終えるためにも50代はまさにキーポイントになってくるのかもしれませんね。

 

今からでも全然遅くない。いろんなことを乗り越えた先には、自分なりの美しさが待っている! 心からそう思えるように私も50代にむけて歩んでいこうと思いました。ちなみに最後の方には、玉ちゃんがたどり着いた「美しく枯れたもの」が書かれてあります。私からお伝えするのも憚られますので(笑)、ぜひ本書で確認してみてくださいね!

 

【書籍紹介】

美しく枯れる。

著者:玉袋筋太郎
発行:KADOKAWA

殿と相棒と離れ、独りになった。コロナ禍でスナックには閑古鳥が鳴いた。初孫が誕生し、母親は施設に入った。カミさんは、オレに愛想を尽かして出て行っちまった。それでもオレは、酒を呑んで、笑って、時に打ちひしがれながら、生きてゆくー。玉ちゃん流・人生後半戦の歩き方。

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