【福井 求】大ヒット「TENGA」が欧米で意外な使われ方をしていた…日英ハーフ社員に聞く、世界各国の「オナニー事情」

写真拡大 (全5枚)

「ハイテク」「高性能」「信頼できる」。そんなイメージが定着しているメイド・イン・ジャパン。テレビやエアコンをはじめとした電化製品をはじめ、さまざまなプロダクトが世界中の人々から高評価を集めて久しい。そんな日本製ブランドは、マスターベーションのシーンでも愛されている。

2024年現在、海外におけるTENGAカンパニー全アイテムの累計出荷数は約3400万個、最も有名なプロダクトである「TENGAオリジナルバキュームカップ」は140万本売れているという、セルフプレジャーグッズでは類を見ない売り上げを世界中で叩き出している。その要因は、もちろん品質の高さゆえだ。

では、実際にTENGAは海外ではどのような形で使用され・愛されているのだろうか。今回はTENGA株式会社(以下、TENGA社) 執行役員 兼 マーケティング本部 本部長のエディー・マークリューさんに、TENGAの海外進出とその実態についてお話を聞いた。

前編『あまりの快感に「感動」…TENGAの日英ハーフ社員が語る欧米展開で立ちはだかった「壁」』

女性の性文化から広がりを見せる

さまざまな国と地域でファンを獲得しているTENGAブランドだが、市場開拓における展開方法は国によって違うという。特に、欧米諸国ではマスターベーションへの固定概念が強いために市場の開拓が非常に難しかったのだとか。

2020年のTENGA社の調査では、アメリカの20〜30代男性の認知度がおよそ20〜25%、欧州各国の20〜30代男性の認知度が10〜15%と、現在でもまだまだ開拓の余地があるのが現状だ。

特に、欧米では男らしさが重んじられ、また男性の多くが保守的なため、TENGAやマスターベーションそのものにマイナスイメージを持たれたという。

その一方で、TENGAにいち早く注目したのは、意外にも女性向けのメディアだった。

「欧米では当時から女性の性文化をポジティブなものにしようという気概が強いため、我々はそこに着目し、女性を仲間にして広げるという戦略に踏み切りました。狙いとしてはそれを見た男性に『女性は別にマスターベーションしてるって事は気にしてないよ』と男性に安心感を与えることでした。

“性を表通りに”のビジョンに共感してくださった女性向けのメディアでの反応がよく、『コスモポリタン』をはじめとした多くのメディアに掲載いただき大きな反響を呼びました。そこから徐々に男性向けのメディアでも露出ができるようになり、おかげで今は欧米の男性のファンも徐々についてきているという印象があります」

また、日本ではTENGAは1人でのマスターベーションに使われることが多いが、欧米諸国ではマスターベーションだけでなく、男女カップルやゲイカップルといったパートナーとのプレイに使われることも多いそう。

特に、「愛の国」のイメージがあるフランスではカップルで購入する人が多いのが特徴だ。そのため、現在の欧米での販売戦略の課題としては、1人でも購入しやすい雰囲気を作ることだという。

これまで、欧米をはじめとした多くの国々にTENGAのPRを行ってきたエディーさんは「性は人間の根幹的な欲求だから、どの国の人々も考えていることは似ている。しかし、文化や習慣、価値観の違いがハードルになることが多い」と話す。

マスターベーションは世界共通ではあるものの、そのためのプロダクトを販売・拡大していくのは、国ごとの難しさがあるのが現状だ。

お隣の国々のTENGA事情は?

TENGA社は文化や習慣の違いに苦戦しながらも欧米での市場確保を目指し、徐々にプロダクトの販路を拡大している。一方で、日本と文化の近い台湾、中国などの東アジアでのTENGAの展開はどのようになっているのだろうか。エディーさんは「TENGA人気がどの国よりも一番高いのが台湾です」と話す。

「海外諸国のなかでも台湾はダントツの人気を誇り、定番アイテムの『オリジナルバキュームカップ』の20〜30代男性の認知度は平均して60%台と非常に高いのが特徴です。国民一人当たり購入数が高いことがありました。日本ではTENGAはメーカーとして良いプロダクトはもちろん、『面白みのあるブランド』としての印象がありますが、台湾でも同じようなイメージで捉えられています。台湾は日本文化との相性もいいので、TENGAも日本と同じような愛され方がされるようになっているのかもしれませんね」

また、アジア市場においては中国での売り上げが最も高く、海外市場シェアではアメリカとトップを競うほどの大市場

しかし、TENGA社が2023年に行った「マスターベーション・セックス世界調査」では、「マスターベーションは健康にいいと思う?悪いと思う?」の項目で、中国は「健康に悪い」と答えた人が全体の27%と、「悪い」と答えた人が各国で一番多いという結果に。

それにもかかわらず最大級の売り上げを誇るのは、TENGA社の大きな功績と言えるだろう。

そして、東アジアで気になるのがお隣の国、韓国でのTENGA事情。

現在、TENGA社は中国や台湾に次いで韓国にも拠点を構えており、韓国での販路拡大にも積極的だ。しかし、展開には多くのハードルも。そのひとつが儒教文化の影響だという。

韓国は儒教国家であり伝統的で保守的な文化のため、性の話題を公に話すのは憚れる傾向にあった。また、結婚前の性行為に対する社会的なタブーも依然存在するという。しかし、近年ではインターネットやSNSなどの普及により、特に若い世代を中心に性に対する意識や態度がオープンになりつつあり、TENGAもその波に乗って徐々に知名度を上げつつある。

「以前、5名の韓国人の若者にTENGAを使ってもらって感想を聞いたところ、『クオリティが非常に高い』『こんなに気持ちよく素晴らしいものがあるのか!』といった声をいただきました。また、『親友となら絶対共有したい』といった意見もありましたね。一種、友達の証としてのTENGAというか、男同士で共有できる話題としてTENGAが活躍できるのは、日本を含めどこの国でもおなじなのかなと思います」

TENGAの海外展開の野望は?

「性を表通りに」を掲げ、世界各国のマスターベーションやセックスの価値観を今以上にポジティブにするべく、革新的なプロダクトを開発・発売し続けているTENGA社。2007年に海外進出を果たしてから17年。急速なグローバル化が進み、世界中の性の価値観も刻一刻と変わっているなか、TENGA社は引き続き海外市場に力を注いでいく予定だ。

「海外に19年住んでいた人間として、TENGAによって日本の人たちが笑顔になっていくのを見ています。TENGAってなんとなくおもしろいですし、『次にどんな商品が出るんだろう』と楽しみにしてくれているファンが多い、非常に活気のあるブランドだなと思っています。ですので、たくさんの人が笑顔になるようなブランド展開を、欧米やアジア諸国で体現していくのが私たちの今後の目標です」

最後に、エディーさんは今後の展望について以下のように話す。

「弊社がTENGAブランドで目指しているのはどの国や地域においても本質的には同じで、性生活に対する後ろめたさの払拭だけでなく、性生活をより豊かにしていくということです。セックスもマスターベーションも含め、すべての性行為が豊かになれば人生も同時に豊かになっていくと思います。だからこそ、TENGAらしい方法で各国の文化や習慣に合わせた定着を行っていき、全世界の人たちの性を肯定していきたいですね!」

「これからも世界にTENGAを広めるべく、おもしろい取り組みを行っていきたい」と意気込むエディーさん。TENGAは世界の隅々までプロダクトを届け、地球上のすべての人々の「自分らしく生きられる」ことを、性の側面から応援していくだろう。今後のTENGA会社の海外展開から目が離せない。

あまりの快感に「感動」…TENGAの日英ハーフ社員が語る欧米展開で立ちはだかった「壁」