名品には数々の効力がある。

身に着けることで日々のモチベーションアップにつながったり、自分に自信をくれたり――。

まさに、大人たちのお守り的存在だ。

本連載では人々から愛され、流行に左右されることない一生モノの“ファッション名品”にフォーカス。

今回登場するのは、外資系コンサルティング会社勤務の松本さつきさん。彼女が紹介してくれるアイテムとは?

▶前回:「マルジェラの理念に心を揺さぶられた」広告代理店勤務・31歳男性の、驚きの“買い物基準”とは



今回、取材したのは松本さつきさん


1994年生まれ、千葉県出身の29歳。早稲田大学卒業後、日系の大手証券会社勤務を経て、現在は外資系コンサルティング会社で働く。

よく行くエリアは銀座・広尾で、趣味はヨガ、ゴルフ。好きが高じて28歳でバリ島にヨガ留学をした経験を持ち、ヨガインストラクターの資格を取得している。



社会人1年目の初ボーナスで買った、オメガの時計


「営業として嫌味のない、品がいい時計をつけるべき」。これは松本さんが新卒入社した証券会社で、信頼する上司に言われた一言だった。

これをきっかけとして購入したのが、オメガの時計だ。



2017年冬、社会人1年目の初めてのボーナスで、オメガブティック銀座本店で購入。値段は約70万円


「購入から7年経った今も、すべてがお気に入りですね。カラーリングが絶妙で、一緒に着けるアクセサリーは、ゴールドでもシルバーでも合うのがポイントです」

上司の助言があったとはいえ、社会人1年目で買うのはまだ少し早いかもしれないと悩んだという。しかし、当時接客をしてくれた店員の言葉が、彼女の背中を押した。

「『使えば使うほど傷が付く。そして、その傷が趣になり自分だけのデザインになるんですよ』と。だったら、多少無理してでも若いうちに買おうと思った。そして、この先も思い入れあるものをその都度買って長く使おうと、このときに決めたんです」

オメガの時計購入を契機にして、松本さんの名品ヒストリーが始まったのだった。



仕事運UPのために購入した、ピアジェのブレスレット


次に彼女に転機が訪れたのは、社会人4年目、初めて手にした部署異動の切符だった。決してルーティンの異動ではない。社内の公募制度に松本さん自ら手を挙げ、選考を受けたものだ。

さらに聞くと、CFP(ファイナンシャルプランナーの国際資格)を有する者のみがエントリーすることができ、書類選考、面接と続く、狭き門だ。

そこを通過し、営業職から企画職に異動することとなる。

「周りの方からたくさん『おめでとう、ご栄転おめでとう!』って言っていただいて。おめでたいことなんだなと気づきました(笑)。なので、選考通過祝いと、新部署での活躍祈願として、ピアジェのブレスレットを購入したんです。

ブレスレットって、右手につけると仕事運が、左手につけると恋愛運が上がるっていうのをどこかで読んで。私は仕事を頑張りたい、と思っていたので、タイミング的にもちょうど良かった」

購入して3年半が経つが、今でも着けるときは必ず右手と決まっている。



ブレスレット(左):2020年10月に、ピアジェ 銀座本店で約16万円で購入
ペンダント(右):2022年12月に、ピアジェ 銀座本店で約30万円で購入
ブレスレットのバラのモチーフは平面に、ペンダントは立体的になっている。それぞれブリリアントカットダイヤモンドがセットされ「控えめな主張ながら、知性を感じるデザインがお気に入りです」


ちなみにピアジェというブランド名を聞いて、すぐにピンとくる人はどれくらいいるだろうか。

ピアジェは1874年にスイスで創業したウォッチ&ジュエリーメゾン。1982年にジュネーブで開催された「国際バラ新品種コンクール」で金賞を受賞したバラに、イヴ・ピアジェの名が授けられ、現在に渡って愛されるモチーフ「ピアジェ・ローズ」が誕生している。

松本さんが検討したブランドは他に、ヴァン クリーフ&アーペルや、ショーメがあった。では、ピアジェにした決め手は何だったのだろうか。

「毎日オフィスにつけていくことを考えたときに、派手すぎないものがいいなと思っていました。色も、仕事のシーンを考えると、ホワイトゴールドが聡明に見えるかなと思ってセレクト。

そして何よりピアジェのローズは、知る人ぞ知るモチーフでもある。周りの人が買っているから買ったのではなく、私が心底気に入って買ったものなので、人と被らないのもいいですね」



順風満帆だったキャリアを一度手放して……


そして同ブランドのペンダント(写真右)は、約6年間勤めた証券会社を退職したときに購入したもの。

実は松本さん、社内異動をかなえながらも、結果、転職先を決めずに同社を退職している。その背景には「バリ島でヨガインストラクターの資格を取る」という決断があった。

「元々興味があったんですけど、そうこうしているうちにコロナ禍に入ってしまって。『行けるときにチャレンジすればよかった』と、後悔していたんです。

でもそこから程なくしてコロナが明けて、資格取得のプログラムが再開すると聞いた。次の当てもなく会社を辞めてバリ島に渡ることを決意しました」

一方で、日本を代表する大手証券会社の若手社員のなかで、営業だけでなく企画系の部署経験までできる人はごく僅かだ。せっかく手にしたキャリアを手放すことに、未練はなかったのだろうか。

「退職は本当に……すごく悩みましたね。それこそ自分が本当にやりたいことって何だろうかと考えました。でも死ぬときに、もっといろんなことやっておけばよかったって絶対後悔するだろうな、とか思ってしまって。

悩みのどん底にいたときは、自己啓発本を読み漁ったり自分でワークしてみたり、今思うとかなり追い詰められていました(苦笑)。でも、正直この先どうなるかわからないけど、とりあえず飛び込んでみようと」

そう笑って事もなげに話すが、この時期にペンダントを購入したのは、彼女なりの覚悟の表れだったのだろう。順風満帆なキャリアを一度捨てる覚悟を持ったとき、ゴールドのバラの花びらが、彼女に力を与えたのだった。




「自分で選択ができる人生を歩んでいきたい」。

成長意欲の高い松本さんは、取材の最後にこうも話してくれた。そして、人生を選択する力をつけるために心がけていることがあるという。

「日頃から、色んな人や物の価値観、視座が高いものに触れるようにしています。お買い物でいうと、例えば時計は、時計から歴史が始まったブランドで買うことをマイルールにしています。

ブランドが誕生した時代背景を知り、長い歴史を持つアイテムを身に着けることに、私は価値を感じるタイプで。そしてそれらに敬意を払いながら購入したアイテムは、一生大切に持てる気がするんです」

自分の感覚を研ぎ澄まし、共鳴する名品を持つことで自分自身の価値をも上げていく。それを体現する彼女の人生は、今後より深みを増すだろう。

もちろん時計やジュエリーに刻まれる傷と共に、だ。

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写真/品田健人