「1日16時間の勉強」を測定したら8時間だった…自分自身もダマしてしまう「努力しているつもり」の恐ろしさ
※本稿は、青笹寛史『凡人でも「稼ぐ力」を最大化できる 努力の数値化』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「1日16時間勉強している自分」に浸っていた
高校を卒業し、晴れて「医学部を目指す浪人生」になりました。さぁ、そろそろ本気を出すか――とばかりに、私は1日16時間の勉強に励み出します。
予備校で、図書館で、家でひたすら勉強し、「1日16時間の勉強をしている自分」に浸りながら、「これだけ勉強していれば、医学部にもすんなり受かるだろうな」なんて呑気に考えていました。
浪人生活が始まって、数日経ったときのことです。
ふと、「自分は本当に、『1日16時間勉強している』といえるのだろうか」という疑問が湧き起こってきました。
確かに、勉強の合間の休憩時間や朝食や夕食、入浴の時間は勉強時間の中に入れていませんから、「16時間」という数字は勉強時間の実態に近い数字だといえます。
ただ、よくよく考えたら、昼食の時間を「16時間」の中に入れてしまっていました。それに、ちょっと喉が渇いたときにはコンビニに飲み物を買いにいっています。もちろんトイレにもいきます。たまにはぼーっと、勉強以外のことを考えてしまったりもします。
これらの「休憩と呼ぶほどでもない」休憩時間も、勉強時間のうちに入れてはいけないのではないかと思うようになったのです。
■厳密に計ってみたら勉強していたのはわずか8時間
私は、1日の勉強時間を厳密に計ってみようと、ストップウォッチを使ってみました。
たとえば、「10時から11時までは、国語を勉強する」と決めたとします。時計を基準にすれば「1時間勉強している」わけですが、その時間の中でトイレにいったり、ついほかのことを考えていたり、「あ〜疲れた」と伸びをしたりしている時間は、勉強時間とはいえません。そのような時間を排除した、厳密な勉強時間を調べるために、私はストップウォッチで細かく「勉強を始めたらスタート、少しでもほかのことを考えたり、ほかのことをしたりしたときはストップ」を1日中繰り返してみたのです。
結果は衝撃的なものでした。
「16時間勉強している」と思い込んでいた私の、1日の厳密な勉強時間は、わずか8時間にすぎなかったのです。
■自分の努力の根拠が崩れ去ってしまった
「2〜3時間のロスはあったとしても、まぁ13時間くらいは勉強しているだろうな」と考えていた私は、大きなショックを受けました。
そして同時に、危機感を覚えました。
私は凡人です。その上、高校生活の3年間で一切の勉強をしてこなかった、ひどくできの悪い凡人です。
その凡人が一念発起して、「1日16時間も勉強しているのだから、1年あれば、ほかの医学部受験生にも追いつけるだろう」と考えていたのがここ数日でした。
しかし、私の厳密な勉強時間は、8時間。「1日16時間も勉強しているのだから」という自信の前提が、根本から崩れてしまったのです。
■きっちり16時間計って勉強し続けたら成績はすぐ伸びた
厳密な勉強時間を「16時間」に近づけなければ、私は医学部に合格できない。
そう思い、毎日、ストップウォッチを使いながら勉強し、余計なことをしている時間を少しずつ、削ぎ落としていきました。「16時間」の勉強濃度を高めていったのです。
変化はすぐに表れました。
成績はぐんぐんと伸び、浪人生活を始めてから3カ月目の6月にはもう、首都圏の国立大医学部を射程圏に入れられるところまで上り詰めることができたのです。
ただ、ここから、私の中に根付いている「凡人気質」「怠け者気質」が再び顔を出します。
「たった3カ月でここまで上がってこられたのだから、もうそんなに勉強を根詰めなくても大丈夫だろう」と安心しきり、Nintendo Switchのゲーム「スプラトゥーン2」にハマる生活を送り始めてしまったのです。
当然、成績は急下降。視野に入れていたはずの首都圏国立大は遥か彼方に遠ざかり、父親の実家が近いという不思議な縁のある島根大学の医学部になんとか滑り込むことになります。
私のだらしなさゆえ、少々締まらないオチになってしまいましたが、「自分では16時間勉強していると思っていても、実際には8時間しか勉強していなかったと知った」「実際の勉強時間を16時間に近づけることで、成績がぐんぐん伸びた」という2つの経験は、私の人生に大きな気づきをもたらしました。
■「努力しているふり」を本当の努力に変える
「1日16時間勉強している」と思い込んでいた時期の私は、はっきりいえば「努力しているふりをしているだけ」でした。もちろん自分では、「努力しているふりをしている」なんて自覚はありませんが、実際には8時間しか勉強していないのに「16時間勉強している」と言っているわけですから、「努力しているふり」以外の何物でもないでしょう。
しかしストップウォッチを活用し、「16時間」の中の勉強濃度、いわば「努力の濃度」を高めたことで、成績はみるみる上がっていきました。
「努力しているふり」を、実際の「努力」へと変えて、医学部入学という「求めた結果」を得た成功体験は、「努力の数値化」という考え方を築く上で、とても大切な源泉となってくれました。
■自分が今、どの仕事にどれくらい時間をかけているか
努力の「質」さえある程度高めることができれば、「量」を増やすのはさほど難しいことではありません。努力の濃度を高めていくだけで、必然的に努力の量は増えていくからです。
まずは、現状の「努力の濃度」を計ってみます。
勉強という分野における努力の濃度を計るためにストップウォッチを活用しましたが、これは仕事においても活用可能です。
自分が今、どんな仕事にどれくらいの時間をかけているのかを、ストップウォッチで計ってみましょう。たとえば会社から、「年間1億円の売上をあげる」という目標を課せられていたとします。その「年間1億円の売上をあげる」という目標に向かって必要な努力を積み重ねている時間と、そうでない時間をあぶり出すのです。
■勤務時間の「棚卸し」をすると無駄が見えてくる
仮に毎日、会社に12時間いたとしても、本当に努力している時間というのは案外少ないものです。同僚と談笑する時間もありますし、食事後の仕事でついウトウトしてしまう時間もあります。
仕事のように見えて、目標には結びつかない無駄な時間もあります。「この会議、意味あるのかなぁ……」と感じながら出席してぼーっとしている会議の時間もそうですし、上司に言われて仕方なく、とくにつくる必要のなさそうな資料をつくっている時間もそうです。
コピー機が詰まってしまって余計な時間を食うこともありますし、メールの返信の文面に悩んで想定以上の時間をとられてしまうこともあります。
会社という空間は思いのほか、無駄な時間が生まれやすい空間なのです。
そこで、ストップウォッチを活用します。自分の勤務時間の「棚卸し」を行うのです。
私の周りの人たちにも、実際にストップウォッチで時間を計ってみてもらったことがあります。ほとんどの人が、勤務時間のうちの60%ほどしか、目標に向かって必要な努力をしていませんでした。午前9時に出社し、お昼休憩の1時間を挟んで午後8時まで、正味10時間分の仕事を頑張ったつもりでも、現実には6時間分の努力しかしていない計算になります。
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青笹 寛史(あおささ・ひろふみ)
アズール代表取締役
2016年、島根大学医学部医学科入学。在学中に起業して動画マーケティングコンサル業務を開始。医師国家試験に合格するも卒業後は医師にならず、動画編集者教育の分野へ。全国で動画編集者を育てる「動画編集CAMP」を主催し、これまでに延べ5000人を超える動画編集者を指導する。YouTube「令和の虎」にも出演。
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(アズール代表取締役 青笹 寛史)