国際指名手配で逮捕できる?

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 3月6日、顧客から預かった高級腕時計を返却していない問題を受け、腕時計のシェアリングサービス「トケマッチ」運営会社の元代表の男について、警視庁が業務上横領の疑いで指名手配したことが報道されました。報道によると、男は今年1月末にサービスの終了と運営会社の解散を発表しましたが、同時期に成田空港から中東のドバイへ出国していたことが確認されているといい、今後、国際指名手配する方針だということです。

 SNSでは「最悪だな」「ドバイに逃亡?」「やっぱり出国してたんだ」「胸くそ悪い事件」といった声が上がっている中、「国際指名手配されたらどうなるんだろう」「すぐに逮捕できるの?」といった疑問の声も聞かれます。実際、国際指名手配された場合、逮捕の可能性はあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

190カ国の各国政府によって捜索

Q.まず、「指名手配」について教えてください。

牧野さん「『指名手配』とは、被疑者の身柄を確保するために、特定の事件で逮捕状が出されている被疑者の情報(氏名、顔写真、外見の特徴、事件内容など)を公開し、国民全体から情報提供を受けて被疑者の逮捕を要請する制度です(犯罪捜査規範31条)。『逮捕状を取ったものの、被疑者が所在不明』の場合に行われます」

Q.一方、「国際指名手配」とはどんな制度ですか。

牧野さん「日本国内で発生した犯罪でも、被疑者が外国へ逃亡してしまうと、日本の警察や検察は被疑者を逮捕することはできません。そのため、逃亡した当該外国の警察官など、逮捕する権限を有する捜査機関に被疑者を逮捕してもらう必要があります。

そこで、日本も加盟する『国際刑事警察機構』(インターポール。国際犯罪の防止を目的とした、世界各国の警察機関による国際組織)の『国際指名手配制度』を利用することにより、組織加盟国(190カ国)の各国政府によって被疑者を捜索・逮捕する方法を取る必要があります。

国際指名手配制度を利用することにより、当該外国と日本国との間に『犯罪人引渡し条約』が締結されていない場合でも、逮捕された組織加盟国の国家中央事務局から、日本政府が被疑者の身柄の引渡しを基本的に受けることができるので、その後は日本の国内法に従って、被疑者を刑事処罰することができます。なお、2024年現在、日本が犯罪人引渡し条約を結んでいるのは、アメリカと韓国の2カ国のみです」

Q.国際指名手配が行われた後の流れとは。

牧野さん「国際指名手配書を受理した組織加盟国の国家中央事務局は、それぞれの国内法に基づいて、被疑者の身柄確保のための国内指名手配を行います。

現地の警察官などの捜査機関が被疑者を逮捕した場合、その国の国家中央事務局を経て、国際指名手配書を送付した国に引き渡すことになります。

なお、国際手配中の容疑者は、公訴時効が停止されます(刑事訴訟法第255条第1項)」

Q.今回のケースでは、容疑者の男がアラブ首長国連邦(UAE)ドバイに向けて出国したと報道されていますが、今後、男を逮捕することができると思われますか。

牧野さん「国際指名手配において、容疑者は逃亡先の国ですぐに逮捕されるのか、それとも速やかな身柄確保・逮捕は難しいのか…といった“逮捕される可能性”は、国内指名手配と同様に考えることができますが、被疑者が異国に逃げ込んでいる場合には、容姿や言葉などに特徴があり目立ちやすいので、一般には、日本国内よりも逮捕される可能性は高いと考えられます」