今回はルートについて解説します(写真:cba/PIXTA)

数学を使った世の中の仕組みを知ることで、物事を見る視野が広がります。現役東大生の永田耕作さんが数学の魅力について解説する連載『東大式「新・教養としての数学」』。今回は中学数学で学ぶ「ルート(√)」について解説します。

「ルート」とは何か

突然ですが、今回はこちらの問題を考えることから始めてみましょう。

問題:面積が9平方センチメートルの正方形の、一辺の長さは何センチメートルになりますか?

おそらく、これは皆さん頭の中で計算できると思います。答えは一辺3cmになりますね。では、もう一つ質問です。この面積が10平方センチメートルになるとどうでしょうか?

3cmよりは大きくなるのですが、一辺4cmになると面積は「4×4」で16平方センチメートルになるため、3センチと4センチの間の値になります。しかし、3.1センチや3.2センチで計算をしてみても、

3.1×3.1=9.61

3.2×3.2=10.24

となるため、その間の値になることしかわからず、答えにはたどりつけません。この問題を考える際に必要になるのが、「ルート(根号、√)」です。

このルートは、2乗した時にその値になる数のことを指します。先ほど、面積が9平方センチメートルの正方形の一辺の長さは3センチメートルだと計算しましたが、これもルートを用いると

ルート9 = 3

と表すことができます。つまり、面積が10平方センチメートルの正方形であれば一辺の長さはルート10となるのです。

この「ルート」は、中学3年生の数学で習う単元になります。そのため、見たことはあったけど忘れていた、使い道がわからない、という人も多いのではないでしょうか。実はこのルートも、世の中のいろいろな場所で使われているのです。代表的なものが、印刷用紙(コピー用紙)です。

世の中で一番多く使われているコピー用紙のサイズは「A4」なのですが、このA4のコピー用紙の縦の長さと横の長さの比はどのくらいだと思いますか?

縦の長さが長くなるように置いた際、横の長さを1とおくと大体1.5くらいになるとイメージできるでしょう。この答えは、先ほど説明したルートを用いて「1:ルート2」と表すことができるのです。ルート2は「1.41421356…」とおおよそ1.4くらいの大きさの数字であるため、おそらく皆さんのイメージと大きくはずれていないでしょう。

コピー用紙の縦横比にルートが使われている理由

このように、コピー用紙の縦横比にはルートが使われています。これはなぜなのか、一度考えてみてください。

この理由を考えるうえで重要になるのは、そもそも「A4」という大きさの規定、仕組みを理解することです。まずはここをおさらいしてみましょう。

そもそもA判とは、現在では印刷用紙の国際規格サイズにも採用されている、19世紀末にドイツで生まれた用紙の規格のことを指します。ドイツの物理学者オズワルドによって提案されました。このA判では、縦横比が1:ルート2で、面積が1平方メートルとなる長方形をA0と名付け、その面積を半分にするごとにA1、A2、A3となる仕組みになっています。

A4、A5というような用紙サイズのほかに、B4、B5という言葉も聞いたことのある人が多いでしょう。B判は、日本の美濃の国(現在の岐阜県)で古くから作られていた和紙をもとに定義された国内規格サイズになります。縦横比はA判と同じ1:ルート2なのですが、B0の用紙の面積は1.5平方メートルとなります。

この2つの印刷用紙が、現在日本では広く使われています。A0の紙、B0の紙に対し、A1、B1はそれぞれ半分に折ったサイズになります。つまり、「A4」はA判の用紙を4回半分に折った後の大きさということになります。

ここでポイントになるのは、何回紙を折っても縦横比が一緒になるという点です。このポイントを満たすために、縦横比にはルートが使われているのです。

なぜ折り曲げても縦横比が変わらない?

折り曲げても縦横比が変わらない理由を考えてみましょう。

横の長さが1、縦の長さがルート2である長方形を、縦の長さが半分になるように折ります。すると、縦の長さは1/2倍されるため、(ルート2)/2と表されます。ここで、(ルート2)/2 = 1/(ルート2)であるため、半分にした後にできる長方形の縦横比は、縦:横=1/(ルート2):1 = 1:(ルート2)となり、もともとの縦横比と同じになるのです。

もちろん、もともと長いほうであった辺が短くなるため、回転をさせる必要はありますが、この計算を繰り返し行うと、何回折り曲げても縦横比は同じになるのです。

縦横比がサイズにかかわらず一定であることは非常に重要です。もしこれが一定でなければ、ワードやエクセルなどで作成した資料も、サイズを考慮せずに自由に印刷することは困難になります。資料作成ツールの縦横比が固定されているのは、印刷用紙の縦横比が一定であるから、つまり「ルート」が使われているからなのです。ルートがさまざまな資料に大きく役に立っているのですね。

この1:ルート2という比率を、「白銀比」と言います。これは、日本で昔から幅広く用いられている比率のことで、大和比とも呼ばれています。

かつて日本の大工の中では「神の比率」とされていて、日本最古の木造建造物である法隆寺の五重塔にも、屋根の長さの比で白銀比が使われています。このように、日本人にとってとてもなじみのある比率なのです。

有名な「黄金比」とは?

白銀比のほかにも、世の中で一般的に美しいと評価され、建築や商業に用いられている「比」はいくつか存在します。実は、ここにもルートが用いられているのです。

例えば、ギリシャのアテネにある世界遺産「パルテノン神殿」の縦横比であることで有名な「黄金比」は、少し複雑ですが

1:(1+ルート5)/2 = 1:1.618……

という値になっており、ここにもルートが登場するのです。値が複雑になっているのは、「正方形を切り取って残った部分の長方形が、元の長方形の縦横比と同じものになる」というルールに則っているからなのですが、今回は割愛させていただきます。気になる方は調べてみてください。

この黄金比は、本のサイズや切符、たばこなど日常生活において身近なものの縦横比にも用いられているため、見る人に安心感を与えます。そのため、ビジネスでも多用されています。

この白銀比や黄金比について理解しておくと、仕事のプレゼンのスライド作成などにも生かすことができます。人に対して何か提案やプレゼンテーションを行う場合は、その資料を見て直感的に人がどう思うかが重要になります。好印象を与えられる資料を作るためにも、縦横比にこだわってみることをオススメします。

(永田 耕作 : 現役東大生・ドラゴン桜チャンネル塾長)