ULキャンパー御用達!世界が認めるエバニュー「チタンクッカー」が定番となった理由
【The ORIGIN of the CAMP GEAR】
キャンプの必須アイテム“クッカー”。用途によって、形状、大きさ、素材と様々あり、キャンプスタイルによって使い分けているキャンパーも多いことでしょう。
今回ご紹介する定番ギアは、そんな多種多様なクッカーの中でも、超軽量で玄人好み、EVERNEW(エバニュー)の「チタンクッカー」。世界中の登山家たちに愛されているギアですが、その軽さやスペックから、UL(ウルトラライト)キャンパーをはじめとしたツウなキャンパーに特に人気のアイテムです。
今日び、チタン製クッカーは本当にたくさんのアウトドアブランドから発売されていますが、中でも1994年に世界で最も早く安定生産を実現したのがエバニューです。
同社の前身である増新商店の創業は1924年、和暦で言えば大正13年と老舗中の老舗。金属製の運動具製造卸業としてスタートし、エバニューとしてアウトドア用品の企画・製造をはじめたのが1933年。戦後日本の登山ブームを支えた立役者でもあります。
■とにかく軽量で丈夫!キャンプシーンでもULスタイルで一気にメジャーに
▲用途やスタイルに合わせて選べるアイテムライナップも魅力
エバニューの「チタンクッカー」はとにかく軽量で丈夫。そもそもチタン材自体が軽量な素材ですが、それをさらに薄く0.3mm厚という驚きの薄さに加工。これは、軽量なだけではなく、高い硬度、腐食性をもったチタンだからこそ実現できる仕様です。
ちなみに、この0.3mm厚で立体的に加工する、ということがかなり難しく、高い技術が要されるわけです。
「ブランドスタート以来、弊社は“山屋のための道具”をベースに開発を続けています」と話すのは、開発の多くに携わるエバニューの仲さん。自身も登山をライフワークとし、週末ごとに山に出かけているそう。
「基本はザックにパッキングして、ザックを背負っていきますから、軽いに越したことはありませんよね。他の素材のクッカーに比べて、『チタンクッカー』は圧倒的に軽量です。エバニューのクッカーが、ULハイカーやULキャンパーの皆さんにも評価頂けている大きな理由のひとつだと考えています」
▲スタッキングももちろん可能。軽いからこそ複数のクッカーの持ち運びも容易
このキャンプブームで、ULキャンプがスタイルとして定着してきた中、このチタン製クッカーの特性が合致。多くのULキャンパーたちに注目されるようになりました。
登山シーンにおいては2005年に、アメリカを代表するアウトドア誌『バックパッカーズマガジン』のエディターズチョイスに「チタンクッカー」が選出されたことで一躍に人気クッカーに。
▲人気の「Ti 400FD Cup」(2420円)は低山ハイクでのコーヒーブレイクにもちょうどいい
また、2000年代にアメリカで“ULハイキング”カルチャーが誕生し、エバニューの「チタンクッカー」といえばULハイカーギア!というイメージがついたのもこの頃。
ULカルチャーが爆発的に広まっていったのが2010年ごろですから、日本のアウトドアブランドが世界のアウトドア文化を広める一助になったというのは、なんというか誇らしく感じます。
■江戸時代から連綿と受け継がれる技術が生み出す高い品質
数あるチタン製クッカーの中でもエバニュー製品を選ぶユーザーたちが口を揃えて言うのは、その品質の高さ。
国内製造の純チタンを使用し、開発時から変わらず新潟県燕市で生産。その仕上がりの良さ、クオリティの高さは、利便性はもちろんのこと、所有欲もしっかり満たしてくれます。ジャパンメイド、ジャパンクオリティ、アツいですよね。
▲チタン特有の質感もまた、“ギア”感があって良い
ただ、この高品質なクッカーを世に送り出すまで、試行錯誤の連続だったといいます。
「我々が目指したのは高価な一点ものではなく、“高品質”かつ“安定生産”が可能なチタン製クッカーでした。そのためには“プレス”での生産が絶対条件。ですが、チタンは非常に硬度の高く伸びにくい素材で、従来のプレス技法ではクラック(割れ)が発生しやすく、安定生産からは程遠い素材でした」
一般的に、金属加工の方法としては、“へらしぼり”と“プレス”の2種類があります。
“へらしぼり”は、高速回転させた金属板にヘラを当てて成形する方法で、職人の技術によりひとつひとつ手作業で行っていきます。これはまさに職人芸とも言える技法なのですが、それゆえに安定した生産や品質のキープが難しいという特徴があります。
▲このクッカー底、曲面の美しさ。これを“プレス”で実現したのがすごい
一方で“プレス”は一枚の金属板に金型を押し当て、名前の通りプレスをすることで成形する加工技術。へらしぼりに比べて、加工速度が早く、品質も安定しやすい特徴から、大量生産を可能にする技法です。
「“へらしぼり”を使えば、クッカーを作ることは技術的には可能でしたが、1点5万円の高価なワンオフ品になってしまいます。それでは広くたくさんの方に使って頂けません。そこで、創業時からお付き合いのある職人たちに声をかけて、チタンクッカーのためのプレス技術の開発をスタートしたんです」
あまりにも失敗が続き「採算が合わないが良いのか」と職人から話があったことも。それでも諦めたくないと開発を続けたのだそうです。職人たちがその熱意に応えるように、これまでに蓄積された金属加工のノウハウと技術をすべて出し切り、ようやく完成にこぎつけました。
▲2024年で創業100周年のエバニュー。日本の登山シーンを初期から支え続ける
「職人のみなさんはとにかく頑固者ばかりで、技術も仕上がりも妥協はできない。弊社としてもユーザーの命を預かるアイテムですから、譲れない。ですので、開発に至るまで職人さんたちと何度もぶつかりあったと聞いています」
■焦げやすい?チタンなのに錆びちゃう?意外と知らないチタンの常識
軽くて、かっこいい、そんな「チタンクッカー」ですが、唯一の弱点は調理の難しさでしょうか。
これはエバニューの「チタンクッカー」だけでなく、チタン製クッカーすべてに共通することですが、チタンには“軽くて丈夫”というだけでなく、“熱伝導率が低い”という特徴もあります。簡単に言えば、熱が伝わりにくいという性質。
▲チタン製クッカーで上手に調理するコツは、とにかく弱火
例えば、熱伝導率が高いといわれるアルミクッカーは、バーナーで熱せられた箇所から、次第にクッカー全体に熱が行き渡ります。一方、チタン製クッカーは熱の広がりが抑えられてしまうので、バーナーで熱せられた箇所だけが熱くなっていってしまうんです。
そんな調理が苦手気味な「チタンクッカー」ですが、上手に使うコツは“とにかく弱火”だと、仲さんは言います。
「当たり前といえば当たり前なんですが、もうとにかく弱火で使ってください。みなさんが思っている弱火よりもさらに弱火。バーナーギリギリのところを狙って火力調節をした上で、とにかくよくかぎ混ぜつつ、匂いを嗅ぎながら調理を行えば、チタンクッカーでも上手に料理ができますよ。」
また、使用上の注意点を聞いてみたところ、意外な答えが。
「パッキングの際に、よくクッカーの中にガス缶をしまいがちですが、これをやめることでクッカーがより長持ちしやすくなるんです」
チタン製クッカーって錆びないって聞いたのに、なぜか内側に円形のサビが付いちゃってるんだけど、なんて経験をしたことがあるのは私だけじゃないはず。これ実は、ガス缶のサビがチタンに移ってしまっているんだそう。仲さんによると「ガス缶は鉄なので、使用後に濡れたままにしておくとすぐに錆びてしまうんですね。そこからもらいサビしてしまうと、本来錆びないはずのチタンにもサビが移ってしまいますし、これはどうやっても落ちません」とのこと。
また、クッカーの中にガス缶をいれることで、クッカー内部に細かな傷もつきやすくなるため、いずれにしてもクッカーとガス缶は別に持ち運び、収納しておくのが良いでしょう。
* * *
「チタンクッカー」開発の時点で70年近く燕市の職人たちと協業を続けていた、その長い2人3脚があったからこそ、そして信頼関係があったからこそ実現したチタンの安定加工。業界初のチタン製クッカーの誕生には、そんな職人たちとの絆がありました。
最後にエバニューの「チタンクッカー」の中でもお気に入りを仲さんに聞いてみました。
▲ULハイカーから大人気の「Ti 400FD Cup」(左)と仲さんお気に入りの「Ti 570FD Cup」(右)
「個人的にここ最近お気に入りの「チタンクッカー」となると『Ti 570FD Cup』(3190円)ですね。食事時のちょっとした煩わしさを抑え、口当たりと水切れもよくなりました。目盛りもインスタントヌードル用の330ml、アルファ米用の160mlを取り付けました。自分でも使っていてかなり便利です」
人気の「Ti 400FD Cup」をアップデートしたギアで、サイズアップだけでなく細かく使用感の向上を図っているにもかかわらず、重量増加は5gに抑えられているという逸品。開発には自身の毎週末の登山経験が生きているといいます。
歴史もさることながら、実際にフィールドに出る人が作っているからこそ、痒いところに手が届く。そんなアイテムになるんのではないでしょうか。
>> エバニュー
>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR
<取材・文/山口健壱>
山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)
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