捨てるのがもったいない…スーパーの従業員が売れ残りの「弁当」「総菜」を無断持ち帰り 法的リスクは? 弁護士に聞いてみた
スーパーやコンビニエンスストアでは、弁当や総菜が売れ残ることがあります。多くの店では、従業員が持ち帰るのを禁止しているようで、こうした売れ残りの食品は、廃棄されるのが一般的です。
もし従業員が「もったいない」という気持ちで、廃棄予定の食品を黙って持ち帰った場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
窃盗罪に該当する可能性
Q.スーパーやコンビニの従業員が、売れ残った弁当や総菜などの食品を黙って持ち帰った場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
牧野さん「スーパーやコンビニの従業員が売れ残った食品を軽い気持ちで持ち帰ると、思わぬ犯罪になるかもしれないため、注意してください。売れ残った弁当や総菜などの食品は、廃棄処理された物であっても、法的には立派な『財物』で、占有権は依然として店にあります。
スーパーやコンビニの従業員が売れ残った弁当や総菜などの食品を店の許可なく黙って持ち帰ったり、食べたりした場合、他人の財物の窃取(占有を奪うこと)となり、『窃盗罪』が成立する可能性があります。窃盗罪の法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
ただ、実際には、よほどの悪質なケース以外は、窃盗罪で刑事事件とされることはないでしょう」
Q.店舗のごみ捨て場に置かれた食品を黙って持ち帰った場合はどうでしょうか。食品がごみ捨て場に置かれた時点で、店側の占有権は喪失するのではないでしょうか。
牧野さん「店舗のごみ捨て場に置かれている段階では、捨てられた食品の占有権は依然として店舗側にあると解釈されます。そのため、他人の財物の窃取となり、窃盗罪が成立する可能性があります」
Q.店側に黙って持ち帰った食品を他人に無料で提供する、もしくは転売した場合、法的責任がより重くなるのでしょうか。他人に食品を提供した後に食中毒が発生した場合はどうなるのでしょうか。
牧野さん「大量に持ち帰った食品を他人に転売して対価を得るような行為を長期間にわたって続けた場合には、悪質であるとして窃盗罪が成立する可能性が高くなるでしょう。
また持ち帰った食品を他人に提供後、食中毒が発生した場合、腐っていることに注意すれば気付けたのに気付けなかったという過失があれば、民事では、食中毒の被害者に対して、発生した損害を賠償する責任が生じる可能性があります。
この場合、食中毒になった人に対しては治療費や慰謝料を支払う必要があるほか、販売元の店舗が一定期間の休業を余儀なくされた場合、営業していれば確実に売り上げていた金額を支払わなければならなくなる可能性があります」
Q.事前に店の責任者から許可をもらえば、従業員は売れ残った食品を持ち帰っても問題ないのでしょうか。
牧野さん「事前に店の責任者から許可をもらえば、基本的には、売れ残った食品を持ち帰っても、民事責任、刑事責任は発生しないでしょう。ただし、転売して利益を得ようとする場合は別です」
Q.スーパーやコンビニの従業員が売れ残った食品を黙って持ち帰って、裁判に発展した事例・判例があれば、教えてください。
牧野さん「スーパーやコンビニの従業員が売れ残りの食品を黙って持ち帰った事例ではありませんが、大阪府堺市の定時制高校の男性教員が2019年12月、生徒への支給時に余った給食のパンと牛乳を4年間にわたって持ち帰り続けたとして懲戒処分を受け、依願退職した事例があります」