(写真左:小野隆一朗選手、右:西脇翔太主将)

2023年度の帝京大学駅伝競走部は三大駅伝の出場権を1つも持たない状態でスタートを切った。「このままじゃ、駅伝競走部って名乗れないよね」という中野孝行監督の言葉を杞憂に終わらせたのは6月17日、第55回全日本大学駅伝関東地区選考会。帝京大学は6位に入り、本戦への出場権を獲得した。西脇翔太主将はこの1人のミスも許されない過酷な選考会を振り返り、「駅伝じゃないけど、駅伝ができた」と振り返った。

後日、西脇主将にこの言葉の真意を訊いた。
「このチームの良さでもあるんですけど、大事な大会になったときの一体感っていうか、そういうのをものすごく生で感じた。襷は繋いでいないけど、『これこそ駅伝だな』と」

「駅伝じゃないけど、駅伝ができた」
計らずも絶妙なタイミングで西脇主将の言葉に象徴される出来事が再び起こった。

チームの主軸・小野隆一朗は9月にコロナウイルスに感染。思うような結果を出せないまま、苦しんでいた。刻一刻とエントリーメンバー発表の12月11日が近づいてくる。チームメイトの状態は良い。焦りがあったのか、小野は11月19日の10000m記録挑戦会で自信を取り戻すことができなかった。序盤、積極的なレース運びを見せたものの、自己ベストに遠く及ばない29分21秒という結果。小野の実績は十分だが、このままでは16人のメンバーに入れるかどうかも微妙なところだった。

ここで、中野監督は小野が練習では問題なく走れていたことを見て勝算のある賭けに出た。小野を箱根メンバーで構成される伊豆大島選抜合宿に参加させず、12月2日の日体大記録会10000mに出場させたのだ。

「タイムよりも順位を狙っていけ。そうすれば、おのずとタイムもついてくるぞ」
中野監督からのアドバイスを受けた小野は期待に応えた。ラストチャンスだったかもしれない試合で28分36秒68。自己ベストを12秒ちょっと更新して復活をアピールすることに成功した。

合宿中のチームメイトも心配だったのだろう、小野のレースをビデオ通話でリアルタイムにチェック。「行け!」「頑張れ!!」と声援を送りながら、観戦したという。

まさに『駅伝じゃないけど、駅伝』だった。

会心のレースのあと、小野は合宿中のチームメイトに対し、「箱根は任せろ!お前らも合宿頑張れ」と言い放ったという。『世界一諦めの悪いチーム』帝京大学駅伝競走部に最後のピースがはまった瞬間だった。