ナイキ 、卸売を再開するも小売店とのパワーバランスに変化
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。ナイキ(Nike)が今年、卸売小売業者での販売をひっそりと再開してから数カ月が経過し、アスレチック小売店の勢力図がまたしても変化しつつある。
デザイナー・シュー・ウェアハウス(Designer Shoe Warehouse)の親会社であるデザイナーブランズ(Designer Brands)は、ナイキは11月上旬にすべての販売チャネルで完全に復活してから、実店舗とオンラインの両方で急速にトップブランドになったと、決算発表で述べた。メイシーズ(Macy’s)は11月、10月にナイキの商品が75店舗とオンラインに入荷された後、良好なスタートを切ったと報告した。一方でアパレル小売のヒベット(Hibbett)は、共同のロイヤルティプログラムを10月後半に開始し、ナイキとの関係をさらに拡大した。
卸売からの撤廃がもたらしたもの
ナイキは近年、自社のD2C戦略を推進するためにサードパーティーの小売業者から商品を引き上げたことで、小売業者との関係は複雑になっていた。ナイキの財務責任者マシュー・フレンド氏は、同ブランドが小売パートナーの「約50%から撤退した」と、2021年に述べた。
この動きは、卸売業者のトラフィックと収益に劇的な影響を及ぼした。フットロッカー(Foot Locker)や、DSW、ダンハムズスポーツ(Dunham’s Sports)、オリンピアスポーツ(Olympia Sports)などのブランドは、ナイキのD2C戦略の影響を受けた。フットロッカーのシェアは昨年2月、その年に販売するナイキの商品が減ると発表したときに35%近くも減少し、これは約9億5000万ドル(約1350億円)の市場価値に相当した。DSWでは、2020年の売上の7%がナイキによるものだった。
しかし、ナイキは思っていたよりも卸売業者を必要としていたのかもしれない。
卸売の流通経路を絶ったことで、ナイキの在庫管理能力は大きな打撃を受けた。2022年9月にナイキの在庫は44%ほども膨らんだ。また、9月の最初の四半期決算レポートでは、2年ぶりに収益が予測値を下回った。第4四半期の収益は前年同期比2%増の129億ドル(約1兆8300億円)だった。
「同社のビジネスは実際に打撃を受けた」と、小売コンサルタンシー企業のスパーウィンクリバー(Spurwink River)でアドバイザーを務めるマット・パウエル氏は語る。「ナイキは、取引を打ち切ったすべての小売業者に置き換わることができ、そのビジネスをすべてNike.comで獲得できると考えていたが、そうはならなかった」。
ナイキ復活を熱望する小売企業も
ナイキは現在、卸売に関して180度の方針転換をした。そして、これは多くの小売業者にとって良いニュースとなった。
調査企業ガートナー(Gartner)のディレクターアナリストを務めるカッシー・ソチャ氏は、小売業者が自社の在庫にナイキが戻ってくることを熱望するのは、それによるトラフィックと収益の増加を考えれば驚くにあたらないと語る。「ナイキのような人気ブランドを扱っていれば、常にトラフィックを増やす大きな要因となる。卸売業者はもろ手を広げてナイキの復帰を歓迎した」と同氏は述べた。
実際のところ、小売業者はナイキが自社の販売チャネルに戻ってくることを熱望している。アスレチック小売業者のフットロッカーは、ナイキは2020年時点で購入の75%を占め、現在も70%を占めていると以前に述べた。3月には、ナイキとの関係を「再活性化する」と語った。
パワーバランスの変化
しかし、ナイキの最初の行動によって、ナイキとマルチブランド小売業者のパワーバランスが変化したのも事実だ。
パウエル氏は、ナイキが卸売業者に対して「すさまじい」交渉の影響力を保有してきたものの、現在はその影響力が以前ほどではない語る。ナイキの商品に対する需要がほどほどであることから、小売業者は必ずしも先を争ってナイキを招き入れることに躍起になっているわけではないと付け加えた。買い物客が自由裁量品を購入することを躊躇しているのも、売上低迷の一因かもしれない。ナイキ最大の市場である北米における第1四半期の売上は、前年同期に比べて2%低下し、この地域における買い物客の慎重な消費行動が浮き彫りになった。
ナイキは、在庫を一掃する必要から、卸売パートナーを再構築し、一部はさらに拡大した。デザイナーブランズ(同社のDSWの店舗は、ナイキが切り捨てた小売業者のひとつだ)は第4四半期に、女レディース、メンズ、キッズ向けのスポーツウェアの品揃えを「新たに強化されたナイキとの関係」の一部として拡充すると語った。メイシーズも、2年間の中断のあとでアパレルやアクセサリーの品揃えを拡大する。
ナイキは、顧客を自社のウェブサイトに誘導する代わりに、共同のロイヤルティプログラムパートナーシップを拡大しており、人々がサードパーティーの卸売業者で買い物をするよう奨励してきた。ヒベットに加えて、ナイキはパフォーマンス専門小売業者のプロ:ダイレクトスポーツ(Pro:Direct Sport)とJDスポーツ(JD Sports)と共同のロイヤルティプログラムを開始した。このロイヤルティプログラムは2021年にディックススポーティンググッズ(Dick’s Sporting Goods)とともに開始されたもので、買い物客がこれらの卸売業者からナイキやジョーダン(Jordan)の商品を購入すると、買い物客に新たな特典や体験を与えるものだ。
ひとつのブランドに依存しない
ナイキは小売業者との関係を修復しようとしているかもしれないが、多くの小売業者は特定のひとつのブランドだけに依存してはいけないということを学んだと、サカーナ(Circana)のフットウェアおよびアクセサリー業界アナリストを務めるベス・ゴールドシュタイン氏は述べた。たとえばフットロッカーは、ホカ(Hoka)やオン(On)などの若いブランドを置くためのスペースを店舗内に作った。オンはすでに420店舗で販売され、ホカも前の四半期からすでに50店舗に増えたとフットロッカーは11月に発表した。また、フットロッカーは3月、ナイキによる売上を55%から60%程度に減らすことにも取り組んでいると語った。
「小売業者はひとつのブランドだけに強く依存しないようにしている。消費者の嗜好が変化したことや、サプライチェーンの課題もあり、多様化という考え方全体が、多くの理由から好ましいものと受け止められている」と、ゴールドシュタイン氏は述べている。
[原文:As Nike reintroduces wholesalers, it loses its previous leverage]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:戸田美子)
Illustration by Ivy Liu
