健康のためにはどんなことに気をつければいいのか。ウォーキングコンサルタントの犬飼奈穂さんは「ジムに通って筋トレを続けている人が増えているが、筋肉が固まった状態で体を大きく動かしても、関節や筋を痛めるだけ。まずは筋肉をゆるめ、可動域を広げることを意識してほしい」という――。

※本稿は、犬飼奈穂『背中をゆるめると健康になる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■なぜ筋トレを続けても効果が出ないのか

ジムや自宅で日常的に筋トレをしている人は、「背中を十分に動かしている!」という自信があるかもしれません。チェストプレスやベンチプレスなどのトレーニングマシンは、いかにも上半身の筋肉をしっかりと動かし、鍛えているようなイメージです。

筋トレ以外にも、定期的にテニスをしたり、ランニングをしたり、ゴルフをしたりと、「しっかりと運動をしている」人は、背中の筋肉が十分に柔らかい状態なのでしょうか?

残念ながら、そうではありません。例えばチェストプレスで腕をガシガシと前後に動かし、胸や腕、背中の筋肉を大きく動かしているつもりでも、実は思ったほど筋肉が動いていないという人が多いのです。

なぜならば、筋肉をゆるめていないからです。筋肉が固い状態でどんなに激しく動かしても、筋肉の伸縮性がなく、可動域が狭まっているため思うように縮みません。筋肉の伸長もしません。場合によっては筋を痛めてしまいます。ですから、激しく動かす前にまずは背中の筋肉の緊張を取ってください。

■がんばる筋トレは逆効果になる

筋肉には、力を入れているときに固くなり、力を抜いたときに柔らかくなるという性質があります。

まず心がけてほしいのは、体に力を込めて何かをがんばることを、一度やめることです。がんばる人ほど、筋肉が固くなっていることが多いからです。

かくいう私もいわゆる“スポ根世代”で、「力いっぱいがんばることが良いことなんだ!」とずっと思い込んできました。ジムや姿勢改善のインストラクターからも、肩甲骨をグッと寄せて胸を張り、がんばって「良い姿勢」をキープするよう、繰り返し指導されてきました。

でも、人間にとって、力を入れ続けることは決して自然な状態ではありません。疲れる動作や姿勢は長続きしませんし、力を込めていることが原因で体に余計な負荷をかけ、不調を訴えている人も実際に多いのです。

■固まった筋肉が疲れ、コリを引き起こす

筋肉は、ゆるんだり縮んだりすることで、ポンプのような働きをして、血液やリンパ液を流しています。細胞のすみずみまで酸素や栄養を届けたり、老廃物や余分な水分を回収したりするのに、筋肉の動きはとても重要です。

ところが、体に力を込めて筋肉が緊張した状態が続くと、筋肉が弾力性やしなやかさを失ってしまいます。筋肉は一時的に「固い」状態から、常時「固まった」状態になります。

こうなると、自分ではリラックスしているつもりなのに、筋肉はゆるまず、固いままなのです。筋肉のポンプ作用が働かなくなると、血液やリンパ液の流れが阻害され、酸素や栄養の運搬・老廃物の排出が滞ります。こうして、疲れやすさやコリ、痛み、不快感などの不調が発生します。

写真=iStock.com/SummerParadive
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また、筋肉が固まって収縮すると、固くなった筋肉に骨が引っ張られてしまいます。骨は本来の正しいポジションから外れてしまうので、スムーズに動くことができなくなり、動きも制限されます。

■激しい筋トレをしても関節・筋を痛めるだけ

筋肉をゆるめてあげると、関節の可動域(動かせる範囲)が広がり、引っ張られていた骨も自然と元の位置に戻ってくれます。

本来あるべき場所に骨や筋肉があると、とても機能的に動かせますし、体もラクになります。スポーツでも仕事でも、力が抜けているときのほうがいつも通りのパフォーマンスができます。

私が「がんばらないでほしい」とお伝えしているのは、このような理由からです。

冒頭で挙げたジムのチェストプレスで鍛えることができる主な筋肉は、大胸筋(だいきょうきん)(胸の筋肉)・上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)(腕の後ろ側の筋肉)・三角筋(肩の筋肉)です。

背中の大きな筋肉である広背筋をゆるめることで、広背筋と「対」になって伸び縮みする大胸筋が動きやすくなりますし、肩まわりもゆるみ、骨が本来の位置で機能的に動かせるようになります。

運動は決して悪いことではありません。筋肉は使わないと固くなってしまうのも事実です。でも、「激しく大きく」動かしても筋肉はゆるみません。ぜひ「ラクに小さく」動かすことも意識してみてください。

■ストレッチでは固まった筋肉はゆるまない

私は、背中の筋肉をゆるめるための簡単な動作をみなさんに紹介していきますが、いわゆる「ストレッチ」とは少し異なります。

軽いストレッチは筋肉をゆるめるために良いのですが、痛いのをがまんして、思い切り筋を伸ばすようなストレッチは、今すぐやめてください。ストレッチで筋肉は柔らかくなりません。むしろ、筋肉が固い人ほど、無理に伸ばすとさらに固くなってしまいます。

固くなった筋肉を無理に伸ばしたり、伸ばしたまま静止させたりすると、筋肉に大きな負荷がかかります。筋線維が傷ついてしまい、修復する際にさらに固くなるからです。

そもそも、なぜ、人の体は固くなってしまうのでしょうか? 筋肉をずっと動かさずにいたり、逆に負荷をかけすぎたりすると、筋肉が縮みっぱなしの状態になってそのまま伸縮性を失います。

ストレスや脳の疲労、栄養不足や睡眠不足などでも筋肉は固くなります。こうして柔軟性が低下してこわばった筋肉が、関節の動きを制限してしまいます。これが、いわゆる「体が固い人」の状態です。

柔らかな体を手に入れるためには、固くなった筋肉をゆるめ、関節の可動域を広げることが大切です。

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■筋肉のやわらかさと猫背の関係

「猫背」を例に説明します。

猫背は背中が丸まり、肩が内側に入ってしまっている状態です。これを改善しようと、多くの人は、肩甲骨をグーっと寄せて、力ずくで胸を張るようなストレッチをします。丸まっているのを逆方向に伸ばすような動作ですね。

でも、残念ながらこれで猫背は治りません。猫背も、筋肉が固くなることで引き起こされているからです。

大胸筋という胸の筋肉が固くなって縮まると、腕の骨が内側に引っ張られます。腕は内側にねじれるので、巻き肩になります。固くなった胸や腕の筋肉は、背中の筋肉を前に引っ張ります。すると、背中の筋肉はどんどん前に引っ張られながら固くなっていきます。

筋肉が固くなると、周囲の骨が筋肉に引っ張られてしまいます。骨は本来の位置に戻れなくなります。これが、猫背の状態です。

犬飼奈穂『背中をゆるめると健康になる』(プレジデント社)

筋肉が固まった状態でどんなにストレッチをして筋肉を寄せても、骨が正しいポジションに戻ってくれることはありません。筋肉が固くなることで、関節の可動域が狭くなっているからです。

巻き肩や猫背を改善するには、胸や背中の筋肉をゆるめることが必要です。筋肉をゆるめることで、肩甲骨の可動域が広がって肩が開くようになります。がんばって時間を作って、わざわざストレッチをするよりも、歩きながら全身の筋肉を動かしたり、座りながら小まめに筋肉を動かしたりするほうが、効果的にゆるめることができます。結果、可動域も広がります。

■10秒で筋肉がゆるむ「腕上げウォーク」をやってみてほしい

それでは、さっそく背中をゆるめていきましょう。デスク作業やスマホ操作などの合間に、10秒だけ、背中をゆるめることを考えてください。この10秒が、とても効果的なのです。

固くなった背中をゆるめるには、激しく大きな動作ではなく、小刻みで小さな動作が必要です。筋肉は、「ゆらす」、「細かく動かす」、「緊張させて解放させる」などの動作でゆるめることができます。

例えば、イスに座ったとき、フニャ〜ッと背中を丸めます。これだけでも「緊張させて解放させる」という動作になります。長時間同じ姿勢でいたり、動かさない状態が続いたりすると筋肉は固くなります。だからこそ、日常のすきまに、10秒だけゆるめることを習慣にしていただきたいと思います。

肩甲骨の周囲を中心に背中の筋肉をゆるめ、体の重心を上げる10秒ほぐしをご紹介します。背中や太もも、お尻の筋肉など、体の「後ろ側」の筋肉を意識して行いましょう。

出所=『背中をゆるめると健康になる』

【1】 両手の人さし指と親指を立てた状態にする。
【2】 手の形をそのままにして腕を下ろし、右脚を前に出す。
【3】 前に出た脚と逆の左手を天井に向けて引き上げ、そのまま3秒キープする。手は、肩甲骨の下からぐっと引き上げるイメージで行う。
【4】 【2】と同様に、今度は反対側の左脚を前に出し、右手を天井に向けて引き上げ、そのまま3秒間キープする。

【3】と【4】と繰り返しながら歩くと、より効果的です。この時、体が横に曲がったり、お腹が前に出たりしないように気をつけましょう。短時間でも、とても心地よく筋肉をほぐすことができます。

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犬飼 奈穂(いぬがい・なほ)
ウォーキングコンサルタント
歩き方コーチ。「ORO(オーロ)ウォーキングスタジオ」代表。「オーラをまとう歩き方レッスン」主宰。愛媛県松山市出身。「正しい歩き方」ではなく、「心地よい歩き方」を探求し、これまでに述べ6000人以上に指導し、肩こり・腰痛、猫背、坐骨神経痛など、体が抱える数々の悩みを改善してきた。開催する講座やセミナーは1000回を超える。
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(ウォーキングコンサルタント 犬飼 奈穂)