「初めて愛した人は、特攻隊員でした──」小説投稿サイトで公開され、2016年に文庫として刊行された汐見夏衛氏による『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』。SNSを中心に「とにかく泣ける」と話題になり、シリーズ累計発行部数は85万部を記録。現代の女子高生・加納百合と、特攻隊員・佐久間彰の時を超えた切ない恋物語が描かれている。

水上恒司●みずかみ・こうし…1999年5月12日生まれ。福岡県出身。2018年にドラマ『中学聖日記』(TBS系)で俳優デビュー。2019年に『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』(FBS福岡)でドラマ初主演を、2020年に『弥生、三月-君を愛した30年-』で映画デビューを果たす。2021年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』への出演をきっかけに、現在放送中の連続テレビ小説『ブギウギ』にも出演中。X/Instagram

 

この世代を問わず泣ける小説が、ついに12月8日(金)に実写映画で公開。百合役・福原遥さんとW主演を務める彰役は、戦争作品に縁があるという水上恒司さんだ。戦争に対する強い思いがあるからこそ、演じるうえで生じた葛藤、福原さんとともにした覚悟、そして映画に興味を持つ若者たちへのメッセージなど赤裸々に語った。

 

【水上恒司さん撮り下ろし写真】

 

映画『あの花』における水上恒司の葛藤

 

──テーマが「戦争」ということで、オファーを受けた当初はどんなお気持ちでしたか?

 

水上:高校3年生で野球部を引退した後、演劇部の顧問にスカウトされて1番最初に演じたのが、舞台『髪を梳かす八月』での特攻隊員役でした。また長崎の高校に行ったこと、親族が広島にいることも合わせて、僕は戦争というものに触れられる機会が多かった学生時代を送ってきました。だからこそ、戦争に対する思いが強い故に、映画『あの花』を引き受けるうえでは葛藤を抱えました。

 

──葛藤、といいますと?

 

水上:今回は、百合と彰のラブストーリーです。決して戦争を蔑ろにはしていませんし、時代背景もしっかりと描かれてはいますが、残酷な部分はあえて描かれていない。じゃあ僕の戦争に対するこの思いは? と、彰を演じる上では不要となってしまう自分の思いに、どう折り合いをつけるか悩みました。だから僕の思いは、このような取材などで少なからず発言していきたいと思いました。

 

──彰の演技には不要だと判断した、水上さんの思いについてぜひ聞かせてください。

 

水上:まず前提として伝えたいのが、あの時代を僕は……想像しがたいですよね。戦争の資料や、特攻する前に終戦になって生き残った方々のインタビューを拝見していくと「とんでもない時代だったんだな」って……。簡単に言葉にできないというか、語れないというか、僕はそれを見て知ることしかできないので。それから日本に生まれて良かったと思うことはたくさんありますが、あの時代に生きていた方々のように「国のために何かしなければ」という感覚が、僕には想像できないわけですよ。

 

現代の多くの若者がそうじゃないかなと思います。国のためにというより、家族や大事な人のためにという、もっと細分化している気がします。だから僕は「国のために命を懸けて突っ込んでいく彰」を想像することが難しかった。そして、やっぱり彰は、本当はもっと生きたかったのではと思ってしまったんです。夢もあって、大事な人が目の前にいて。生きたい気持ちを置いといて「それより僕は国のために、やらないといけないことがあるんだ」というのが、あまりに健気であり、悲劇であり……。

 

──戦争の残酷さとして “彰の本音をどこまで表現するか”というところで、一つ葛藤があったのですね。

 

水上:はい。ただ彰が言いたかったことは、百合が言ってくれている。男性が優位にあった時代に、女の子が堂々と「戦争に意味があるの」と言う姿に、彰は衝撃を受けたでしょう。彰が本当は世の中に叫びたいことを、百合がずっと叫んでくれていたから、彰は百合に惹かれたんでしょうし、救われたんだろうと思いました。

 

──彰が見せなかった思いは、百合が表現してくれたと。

 

水上:それから戦争の残酷さは僕が表現しなくても、ラブストーリーとしての作品が表現してくれると思いましたし、完成した作品を見てそう思いました。彰は特攻隊員として潔い部分しか見せませんが、演じていて「あっ、僕はこの子ともっと生きていきたい」と彰が思ったであろう瞬間に出会ったんですね。思わず心で泣いて、そんな自分を責めたくなるような瞬間に。それは百合の天真爛漫な真っ直ぐさを目の当たりにしたからなんです。「おかしいものはおかしい」という百合の感覚は現代ならではで、百合が抗えば抗うほど、戦争の残酷さが表れてきました。

 

──百合と彰のラブストーリー自体が、水上さんが表現したかった思いも表しているのですね。

 

水上:ただやっぱり、彰から百合に対しての思いは隠していますよね。一緒にいたかった、添い遂げたかった、もっと苦難を一緒に乗り越えたかった……。説明しすぎてもチープになってしまうので、見ている人に伝わったらいいなと思って演じました。彰の思いを、想像してくれたらうれしいです。

 

「『何もしない』のと、『あえてしない選択をする』のは全く違う」

 

──脚本を読んだ際、彰の魅力をどこに感じましたか?

 

水上:「赦し」ですかね。ちょうどここ数年、赦しって能力がないとできないし、心に余裕がないとできないことだと感じていました。あるシーンで仲間の特攻隊員が、当時としては受け入れがたい行動をとるのですが、彰はその行動を責めなかった。赦した彰は魅力的ですし、彰の役作りをしやすくなった部分でもあります。

 

──水上さんは学生時代、仲間と一緒に野球に打ち込まれていましたよね。彰と重なる部分もあったのではないでしょうか。

 

水上:重なる部分より、自分にはないからこそ目指すべき部分を多く感じました。僕は人のために、あんなに言葉をかけられるほどできた人間ではない。自分の思いはさて置き、今目の前にいる子を元気づけようと思ったり、逃げようとする仲間を肯定しようと思ったり。「俺だって苦しいんだよ」とか、「俺はお前と行きたいよ」とか絶対あるはずなのに、「僕は行かないといけないんだ」と笑うのは、能力がないとできないと思いました。

 

──そんな彰の役作りに関して、成田監督からは「彰だけ別世界にいるように」と言われたとか。

 

水上:たしか“人間味のない彰”という役作りを、僕が成田さんに提案したんです。彰は達観しすぎていて、人間味がなかった。すると撮影の途中で成田さんが、わざわざそう伝えに来てくださったんです。うれしかったですね。それで極めて無駄なアウトプットをしないことを目指しました。派手な言動をすればするほどキャラは立つので、人によっては「彰は何もしていない」ように見えることも想定していますが、「何もしない」のと、「あえてしない選択をする」のは全く違うと思っています。

 

──水上さんが考えに考えた結果の、彰という役なのですね。

 

水上:作品を作るうえで、彰のことを最も考えたのは僕だと思っています。それから「彰は普通の人とは違う」とは分かっていたものの、その「普通」が難しいとも悩みました。普通って、人によっても時代によっても違いますよね。よく「普通の女子高生がタイムスリップしちゃった!」なんてありますけど、その普通が難しい! 先に普通と設定されているのが、役者としてしんどいところです。

 

「『戦争を知ってほしい』という僕の願いです」

 

──全体を通して、しんどい役だったことが伝わってきます。精神的に苦しくなってしまう瞬間がありそうですが。

 

水上:それはないですね。僕は人殺しの役もやったことがありますが、役にそれほど引っ張られないです。自分自身とくっつけてしまうと、これから先も芝居できないと思うんです。それよりも、やっぱり自分の戦争に対する思いを表現できないことが苦しかった。「これで伝わるかな、間違って伝わらないかな」という苦しみがありましたね。あ、誰のせいでもないですよ、ただ僕が勝手に苦しんでいるだけです(笑)。

 

──そのように苦しくなった際、誰かに話はしたのでしょうか。

 

水上:はい。作品に携わっている方々は、みんな僕の思いを知っています。「僕が思いを伝えたうえで、作品であえて表現しない」のは、「伝えていなくて表現しない」のとは全く違うことなので。僕の思いを聞こうという姿勢を貫いてくださったスタッフの方々には、感謝しかないです。

 

──2021年のドラマ『ウチの娘は、彼氏が出来ない』(日本テレビ系)以来2度目の共演となる福原さんとは、どのようにコミュニケーションをとったのでしょう。

 

水上:矢面に立つのはW主演の僕ら2人であり、戦争というテーマを扱っている責任と覚悟もあり、「これじゃ伝わらないよね」「こうしたほうが、作品が言いたいこと、百合が言いたいこと、彰が言いたいことが伝わるよね」と、ずっと会話していました。同じ立ち位置だったからこそ、同じ熱量でお話することができた同志だと僕は思っています。

 

福原さんが自分の役と同じように、僕の役のことも考えてくださったからこそ、僕もそれに応えたかった。今回、すごく良い関係性のまま撮影を終えることができたと思います。前回の共演では、福原さんは1つ年上で、芸歴もはるか先輩なので「今日、何食べました?」「はぁ、そうですか!」くらいの会話を敬語でしていました(笑)。

 

──百合と彰のシーンでは、映画のメインビジュアルでもある、百合の花が一面に咲いた丘でのシーンが印象的でした。当時の撮影の思い出はありますか。

 

水上:役者の永遠の呪いみたいなものですが、あのシーンでは福原さんと、この作品における演技を振り返っていました。もちろんその時のベストを尽くしているつもりでも、見てみたら「違ったな」ということは多くあります。それでも作品は世に出ていってしまう。あのシーンでお互いが本音を吐露し合えたことで、あらためて心してかからないといけないと思いました。

 

──お二人の並々ならぬ覚悟が伝わってきます。さて2023年、海外では新たに戦争が起きてしまいました。若者が戦争映画に興味を持つことも増えるかと思いますが、あらためてメッセージをお願いします。

 

水上:映画『あの花』は、「戦争を知る」入り口を広げています。今の子たちは、僕の学生時代とも全く違う青春を謳歌されていると思いますが、この作品が、今起きている情勢も含めて学んでいくきっかけの1つになればいいと思います。「戦争を知ってほしい」という、僕の願いです。「これを見て、こう思ってください」というのはないです。ただ知るきっかけになってくれれば、それだけで僕は、今この時にこの作品を公開する意義になると思っています。

 

──ちなみに、水上さん自身が戦争を知ったきっかけは何だったのでしょう?

 

水上:何だったんでしょうね。僕は小学2年生の時には、広島の原爆ドームの絵を描いて学校に提出していました。戦争について、人から教えられた経験はないんですよ。当たり前のように平和学習をしてきました。その中で、もし自分が戦争を経験した当事者だったら、憎しみや怒りがあふれ出してしまって、戦争のことを伝えられないだろうと思いました。こうして平和に生きている人間だからこそ、当事者たちの代わりに伝えていかなければと思っています。

 

──ありがとうございました。最後にGetNavi webということで、水上さんが今ハマっているモノについて聞かせてください。

 

水上:パナソニックの「LAMDASH PALM IN(ラムダッシュ パームイン)」です。これ(手のひら)くらいのひげ剃りなんです。通常のひげ剃りは、これ(両手を広げる)くらいじゃないですか。それがとても小さくなって、でもパワーは大きいのと変わらず、充電も2週間もつんです。これは革命です、パナソニックさん!

 

──映画『あの花』の現場でも使われていたのですか?

 

水上:もちろんです。小さいので剃りやすいんですよ。男にはちょうど良い剃り具合っていうのがね、あるんですよ。大変使いやすく、すごく良いです!

 

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』

12月8日(金)全国公開

 

【映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
主演:福原遥、水上恒司
出演:伊藤健太郎、嶋粼斗亜、上川周作、小野塚勇人、出口夏希、坪倉由幸、津田寛治、天寿光希、中嶋朋子/松坂慶子
主題歌:福山雅治「想望」(アミューズ/Polydor Records)
原作:汐見夏衛 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)
監督:成田洋一
脚本:山浦雅大 成田洋一
製作:「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/ano-hana-movie/

 

(STORY)
初めて愛した人は、特攻隊員でした──。親や学校、すべてにイライラして不満ばかりの女子高生・百合(福原遥)。ある日母親と喧嘩をして家出をし、近所の防空壕跡に逃げ込むが、朝目が覚めるとそこは1945年、戦時中の日本だった。偶然通りかかった彰(水上恒司)に助けられ、彼の誠実さや優しさにどんどん惹かれていく百合。だが彰は特攻隊員で、程なく命がけで戦地に飛ぶ運命だった―― 。

 

撮影/映美 ヘアメイク/Kohey(HAKU) スタイリスト/川崎剛史