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マッツ・ミケルセン。今もっと洋画・海外ドラマファンを魅了する俳優のひとりといって過言ではないだろう。成熟した赤ワインのように深みある、あの佇まい。歳を重ねるごとに刻まれるような、あの色気と余裕。柔らかく見えるのに、私の心に穴をあけて貫通しそうな、あの視線。そして、数々の映画での名演。『007/カジノ・ロワイヤル』、「ハンニバル」や『アナザーラウンド』。『ローグ・ワン』『ドクター・ストレンジ』『ファンタスティック・ビースト』にも出演してくれたおかげで、誰にでも名が通じる稀有な存在。ゲーム「DEATH STRANDING」によって、ゲームファンにも広く認知されるようになった、唯一無二の俳優。

その異名は“北欧の至宝”だ。デンマークはコペンハーゲンが誇る国宝級の魅力。至宝たる所以は、はるばるユーラシア大陸を超え、ここ日本にも優しい風になっていつも届いている。

しかし、“北欧の至宝”という見事な表現は、一体どのように誕生し、そして今のように広まったのだろうか。ネット上における“北欧の至宝”のルーツを探った。

ネット上の「北欧の至宝」の初出

まずはGoogle検索を駆使して、“北欧の至宝”が初めて言及されたWeb記事を探してみよう。Googleで「期間指定」を利用すれば、任意の期間に絞った検索ができる。ひとまずアタリをつけて、2015年中の言及を調査してみる。マッツ・ミケルセンが主演映画『悪党に粛清を』で初来日を果たした年だ。すでに「ハンニバル」で人気を不動のものとしており、「“北欧の至宝”マッツ・ミケルセンが初来日」とのニュース記事が確認できる。

おそらく“北欧の至宝”が一気に拡散されたのは、この初来日のタイミングだったようだ。2014年、2013年時点でも映画メディアやブログでいくつか言及されているが、2015年以降に大幅に数が増えている。

2012年に遡ると、ついに初出と見られる言及を発見。11月9日付掲載の映画メディアの記事に、「“北欧の至宝”と絶賛される名優マッツ・ミケルセン主演、北欧の映画界を牽引するトマス・ヴィンターベアがメガホンを取った魂を揺さぶる衝撃のヒューマンドラマ『偽りなき者』(原題:THE HUNT)が2013年3月、日本公開」と記されている。翌10日には別の媒体にも「主人公のルーカスを演じるのは、北欧の至宝と謳われる名優マッツ・ミケルセンだ」と載っている。

再び期間検索を続けると、2012年11月9日以前にはミケルセンが“北欧の至宝”と言い表されたページがヒットしない。よって、おそらくWeb上で公式に“北欧の至宝”と言及されたのは、『偽りなき者』のリリース記事が最初だったと見て間違いないだろう。

THE RIVERでは、『偽りなき者』で当時日本配給を務めたキノフィルムズに取材を申し入れたが、すでに当時の担当者が離職しているために詳細不明とのことだった。

X(Twitter)での初出

X(Twitter)での初言及を調べてみよう。まずは映画『偽りなき者』の公式アカウントを探して、初めて“北欧の至宝”とした投稿(ツイート)を調べてみると、。「“北欧の至宝”マッツ・ミケルセン主演「偽りなき者」2013年3月ロードショー」とのみ記されている。

映画媒体「クランクイン!」さんのアカウントでは、これよりも早い11月11日に「“北欧の至宝”マッツ・ミケルセン主演「偽りなき者」2013年3月ロードショー」と投稿されている。これ以前にミケルセンについて“北欧の至宝”と記載された投稿は見当たらないので、こちらが記念すべき“北欧の至宝”初代投稿聖地ということになろう。

デンマークの至宝

残存する映画『偽りなき者』当時の公式Webサイト を訪問してみると、『Introduction』コーナー内に「主人公のルーカスを演じるのは、“デンマークの至宝”と謳われる名優マッツ・ミケルセン」と記されていることが確認できる。初期の頃は“デンマークの至宝”との表記揺れがあり、次第に“北欧の至宝”が主流になったようだ。

そこでキーワードを“デンマークの至宝”に切り替えて再びWeb検索してみると、映画媒体による2012年5月27日付の記事が一件だけヒット。ミケルセンがマーベル映画の悪役として交渉中と伝える記事の中で、「デンマークの至宝とも言われる演技派の性格俳優マッツ・ミケルセン」と言及されている。

Xにて「デンマークの至宝」を遡って調べてみると、一般のファンの間で2010年ごろから密かに言及されていたことがわかる。つまり、ミケルセンを“至宝”とする呼び方はファンの間で自然に発生したもののようだ。

なお『偽りなき者』以前に、海外のメディアで“至宝(英語:treasure、デンマーク語:skat)”と言及された記事はオンライン上では見当たらない。この呼称が海外ファンの間にも知れ渡ったきっかけの一つは、ミケルセンと交友のある小島秀夫によるYouTubeチャンネルでが2017年に掲載された際、「北欧の至宝」が「Denmark's National Treasure」と訳されたことのようだ。

以上のことから、マッツ・ミケルセンの“北欧の至宝”との異名は、次のように発生し、そして広まったものであると推測できる。

2010~2012年ごろ:ファンの間で「デンマークの至宝」「北欧の至宝」と密かに呼ばれるようになる。 2012年11月:映画『偽りなき者』宣伝で「北欧の至宝」とのキーワードが採用され、映画メディアの間にも広まりを見せる。 2015年5月:映画『悪党に粛清を』での来日の際に大々的に広まる。

『偽りなき者』公開から10年以上が経ち、"北欧の至宝"のキャッチフレーズはすっかりお馴染みに。ミケルセンは名実ともに、まさに至宝と呼ばれるに相応しい俳優となった。この愛称は、ファンによって自然に生み出され、そして作品の宣伝や、たくさんのファンたちによって大切に育てられた、10年モノの熟成品だった、ということだ。

「」では、今年5月開催の「大阪コミコン2023」から間髪入れずの連続来日に。“北欧の至宝”と呼んで敬愛してくれる日本のファンのことを、ミケルセンもきっと嬉しく思っているのかもしれない。

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