利用爆増なのに「公的関与」切れない理由とは。

国鉄時代に「切り離された」第三セクター化路線


四日市と津を短絡する伊勢鉄道(画像:写真AC)。

 名古屋駅から和歌山県南部へ走る、JR特急「南紀」。実は途中で、JRではない鉄道路線を走ります。

 それは三重県の第三セクター「伊勢鉄道」です。四日市と津の2つの都市を、近鉄と並行して最短距離でむすびます。もともとはJRの前身である国鉄の「伊勢線」でしたが、開業後わずか14年で第三セクターへ転換し、今に至るという歴史を持ちます。

 伊勢・新宮方面へはJR関西本線・紀勢本線経由だと、内陸の亀山まで大きく回り道することになります。それでは所要時間などでライバル近鉄に太刀打ちできないので、伊勢鉄道を経由してスピーディに運行しているのです。名古屋から松阪・伊勢市・鳥羽方面をむすぶ快速「みえ」も、やはり伊勢鉄道経由です。それぞれ、伊勢鉄道内を通過するごとに、相応の運賃が伊勢鉄道へ支払われています(逆に伊勢鉄道はJRへ車両使用料を支払う)。

 しかし、ここだけJRではないというのは、客としてはわざわざ別に運賃を払う必要があったり、JRの乗り放題きっぷ「青春18きっぷ」が使えないなど、何かと不便です。

 それとは別の問題で「伊勢鉄道の利用状況が良いのに、なぜわざわざ自治体が関与しつづけないといけないのか」という側面から、11月29日の三重県議会で問題提起がなされました。

将来的に検討もあり得る!?

 質問をしたのは「草の根運動いが」の稲森稔尚 議員です。「そもそも国鉄から切り離されて第三セクターに移行したのは、国鉄末期の当時、輸送密度が低かったことなどが原因。しかし現在の輸送密度はコロナ前のピーク時で1日あたり4000人以上あって、公的関与する理由がもはやないのではないか。JR東海と経営統合すべきではないか」と、県に対し説明を求めました。

 一見勝之 三重県知事は、「たしかに収支率でいうと、伊勢鉄道は第三セクターのなかでは上位3位に入るくらいだったかと。しかし、この路線は日本鉄道建設公団によって重厚(高規格)に作られたこともあって、減価償却がかなりのもの」としたうえで、「JR東海は経営状態から『輸送量が減っている路線から原則切り離さざるを得ない』としているくらいで、経営を引き継ぐというのはなかなか難しいかと」と返答しました。

 稲森議員は「名松線も、もう廃止かと言われていたのを、自治体ががんばって、引き続き運行できている。伊勢鉄道の件でも、県で課題やメリットをしっかり分析して、真摯に話し合っていってほしい」としました。

 知事は「現在、関西本線のほうで、同様に存続に向けて取り組みを進めているところ。JR東海に対しあっちもこっちもというのはなかなか難しい。ただ、さまざまなことを検討していくのは必要であると思っています」と話しています。

 ここ10年、「伊勢鉄道はJRに統合すべきでは!?」という"直球"の質問は、三重県議会でも上がっていません。SNS上でも「JRになってくれるのはありがたい」「F1観戦の時、1枚のきっぷで住むのは便利」など、様々な意見が巻き起こっています。


※誤字を修正しました(12月6日11時45分)。

【実際の動画】三重県知事 「伊勢鉄道のJR統合」に向けて「検討は必要と思う」