岸田首相の経済政策にいまだ “効果” は見えない

「円の実力、53年ぶりの低水準 家計に負担20万円増」。日本経済新聞8月30日付の1面にショッキングな見出しが踊った。

 記事によれば、ドルやユーロなどさまざまな通貨に対する円の総合的な購買力を示す指標が、53年ぶりの低水準に沈んだという。要因はデフレや金融緩和で、物価上昇率などを加味した円の実力を表す「実質実効為替レート」が1ドル=360円の固定相場制だった53年前と同じになったというのだ。

 ちなみに、円の実質実効為替レートが最も高かったのは1995年4月。当時と比べると今の円の購買力は6割下落したとされている。

「実質実効為替レートは、日本円が持つ本当の実力を示すもの。このレートが低水準になったということは、日本円の力、ひいては国力が低下したことを意味しています。

 日本はバブル崩壊以降、ゼロ成長が続いており、経済水準を1.5倍から2倍に拡大させた諸外国との差が顕著となっています。簡単にいうと、日本人の稼ぐ力が3分の2から半分に低下したということであり、日本人は以前と比較して貧しくなり、モノをたくさん買えなくなっているのです」

 こう語るのは経済評論家の加谷珪一氏。この先、国民生活にどのような影響が出るのだろうか。

「このまま何もしないと日本人の生活はさらに貧しくなります。たとえばiPhone。いまでも高いモデルだと15万円以上しますが、ここからさらに日本円が下落すると、20万円を突破することになります。日本の大卒初任給は20万円程度ですから、月給分を注ぎ込まないとiPhoneを買えなくなります。

 一方、米国人の初任給は50万円を超えていますから、彼らにとってiPhoneは特別高いものではありません。このようにして、パソコンやスマホ、食料など、輸入するものが次々と高くなり、私たちの生活は苦しくなっていきます」

 この状況を脱するには、「経済を成長させる以外に方法はありません」と加谷氏。

「企業のIT化、経営の透明化、女性など人材の積極登用、国民のリスキリングなどが必須とされていますが、日本の場合、そのどれも実現できていません。

 政府もこれらの4項目について取り組んではいますが、企業や労働者からの反発が大きく、あまり成果をあげていないのが現実です」

 訪日外国人が高級ホテルに泊まり、高級寿司店で舌鼓を打つ。一方で日本人はワンコインで昼食を済ませ、仕事が終われば真っ直ぐ帰宅。希望が持てない日本になっている。