FIFA女子ワールドカップで、なでしこジャパンがベスト8へ進出したが、気になるのは苦戦するWEリーグなど、今後の国内女子サッカーだ。世界的に女子サッカーは大きなブームを迎えており、今大会優勝のスペインやベスト4進出の開催国オーストラリアなどは空前の盛り上がりなのだが......。各国の現状と日本との差を、長年女子サッカーを取材してきたライターにレポートしてもらった。


女子W杯で優勝のスペイン。国内リーグが空前の盛り上がりだ

【史上最高の大会になるのが確実な今回の女子W杯】

 史上初の南半球での冬開催となったFIFA女子ワールドカップだが、オーストラリアの気候は穏やかだ。決勝戦の舞台となったシドニーは最高気温が20℃近くにまで上がる。

 市内を歩くと、いたるところで女子サッカーのビジュアルが目に入る。多様性をイメージしたカラフルなフラッグ、しなやかな動きを捉えた選手のビジュアル......否が応でも気分が高揚する。

 マチルダズ(オーストラリア女子代表の愛称)が登場した準決勝。チームカラーに身を包んだ若いグループ、カップル、ファミリーが多数、スタジアムやファンフェスタ会場に足を運んでいた。カメラを向ければ、誰もがにこやかにポーズをとる。


女子W杯開催地オーストラリアの様子 photo by Ishii Kazuhiro

 大会を勝ち進むにつれて膨らんだ、マチルダズの公式インスタグラムのフォロワーは48万を突破。あっという間にサッカルーズ(オーストラリア男子代表の愛称)のフォロワー31万を追い抜き引き離していった。

 FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023は史上最高の大会になるのが確実だ。チケット販売枚数はグループステージ終了時点で170万枚を突破。当初目標の130万枚を大きくクリアし、オーストラリアでの開催試合の1試合あたりの入場者数は3万人を超えた。

 女子サッカーは世界的なブームに入った。欧州では女子サッカーの人気が沸騰。2021−22シーズンに女子エル・クラシコに9万人以上が集まり全世界で話題となったスペインをはじめ、各国で熱狂が止まらない。

 では、日本はどうだろう。なでしこジャパン(日本女子代表)は、優勝したスペイン女子代表にグループステージで圧勝している。各国のメディアが「最も強く、最も魅力的なチーム」と報じた。

 しかし、日本国内に目を向けるとWEリーグは苦戦中だ。2022−23 シーズンの1試合あたりの入場者数は1,401人にとどまる。強さと反比例し、なぜ、ここまで大きな差が開いてしまったのだろう。

【スペイン女子サッカー躍進の理由】

 まずは、今大会優勝の、スペインの女子サッカーが躍進した理由について見てみよう。

 異なる立場の2人の意見を紹介する。まずはリーグ側。リーガF(スペイン女子プロサッカーリーグ)のペドロ・マラビア・サンチス戦略本部部長だ。ラ・リーガ(男子リーグ)がリーガFと密接な関係を築き、マーケティング面をリードし始めてからスペイン女子サッカーの本格的な躍進が始まったという。

「クラブが『2つのトップチームを持つ』という意識が重要です。日本では『トップチーム』というと男子を指すと思いますが、男子も女子もトップチームなのです。当然クラブの価値は2倍になり、結果的にクラブが得をする」(サンチス氏)

 クラブ側には少し違った意見もある。話してくれたのはビジャレアルCFに勤務する佐伯夕利子氏。佐伯氏によれば、競技力が高まったことも大きいという。多くのラ・リーガのクラブが既存の女子チームを吸収合併し、保持するノウハウとリソースを女子チームに共有したからだ。そして、リーガFの表明する考えがすべてではないと考える。

「本音と建前がある。綺麗ごとだけで話をしていても女性スポーツの発展はない」(佐伯氏)

 本音とは、リーガFの全16チームが初年度から3年間にわたりスポーツ庁を通じて『次世代のEU基金』から多大な助成を受けていることだ。それ以外にも民間企業からの支援など、いくつもの財源から女子サッカーに資金が投じられている。

「スペインはEUのお荷物と言われないように、国を挙げて欧州先進国に価値の標準を合わせるべく、人権をはじめとする社会の仕組みをアグレッシブに大変革してきました。そこまでしないと欧州で認めてもらえないという、焦りがあったのだと思います。

 時代は変わり、私たちスペインのサッカー界では『我々のビジネスはいまやブランドビジネスではなくなった。レピュテーション(より良いあり方)ビジネスである』と言うようになりました」(佐伯氏)

 社会に大きな影響力を持つスペインのサッカー界はレピュテーションの推進を強いられた。それがサンチス氏の言う「クラブが『2つのトップチームを持つ』意識」につながったと考えられるのだ。スペインでは「女子サッカーが躍進するのは当たり前」という空気が生まれ、世間の女子サッカーへの関心がさらに高まっている。

後編「日本の女子サッカーは何が問題なのか」>>