久保建英はソシエダ2年目でどう進化したのか 2戦連続MVPもチームが勝ちきれない理由
レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)で20年近くにわたり強化部長や育成部長などあらゆる役職を務めたミケル・エチャリが、久保建英の昨シーズンを振り返ってこう洩らしていた。
「特記すべきは、集中力が極めて高い点だろう。ボールに関わっている時も、関わっていない時も、常にプレーにコミットしていることが素早い動きを可能にしている。技術的にも戦術的にも非常にクオリティが高い。その"コンビネーションの巧みさ"を生かして成長できる」
現在ラ・レアルの指揮をとるイマノル・アルグアシル監督も現役時代、指導していただけに、エチャリの言葉は説得力がある。アルグアシル監督自身も久保について「とても才能のある選手で、気持ちも強い。技術だけでなく戦術的に知性を感じさせる。すばらしい選手に囲まれながら、あらゆるポジション(フォーメーション)に適応している」と話しおり、核心は符合している。
集中力があってこそ、久保は成長が見込める。チームは開幕から2試合連続で終盤に追いつかれるドロースタートだが、彼自身は2試合連続でラ・リーガ公式のゲームMVPを受賞。1得点1アシストと格の違いを見せつつある。
久保はどこまで進化するのか。その一方、チームが勝ちきれないわけとは?
8月19日、ラ・レアルは本拠地にセルタを迎え、前半は優勢に試合を進めている。
セルタ戦で先制点をアシストした久保建英(レアル・ソシエダ)
久保は攻撃の中心だった。とにかくボールが集まる。ブライス・メンデスとのショート、ミドルパスだけでなく、バックラインからのロングパスも入る。3分、ロングフィードを右サイドで受け、コントロールひとつで抜け出すと、ドリブルに入りかけたところで相手はたまらずファウル。イエローカードにも等しい反則だった。
21分、先制点のシーンはその既視感があった。センターバックのイゴール・スベルディアからのロングパスは久保に通らなかったが、続けてもうひとりのセンターバックのロビン・ル・ノルマンからのロングパスを、久保が右サイドで受ける。マーカーを翻弄するように縦に切り込むと、利き足ではない右足でゴールを横切るクロスを放り込み、ファーのアンデル・バレネチェアがヘディングで合わせ、ネットを揺らした。
【ダビド・シルバ不在だけではない不振の理由】
「前半、久保は(左サイドバックの)マヌ・サンチェスを叩きのめした。ゴールをアシストするなど、まさに悪夢だった」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は久保を高評価している。
もっとも、後半はチームのペースダウンに引きずられた。セルタが5バックに変更。ラ・レアルの攻撃を分断したのは確かだった。
昨シーズンまでのラ・レアルは、ダビド・シルバを中心に「相手より多く得点を取る」という姿勢を90分間、保つことができた。そのなかで久保も躍動していた。今シーズンはダビド・シルバのケガによる引退で、相手のダウンを奪いながらも、ノックアウトできずに一発を浴び、ドローに持ち込まれるという試合展開が続いている。
終盤、久保を下げて5バックに変更し、逃げきろうとした采配は、そのせいだろう。
「すばらしい前半だったが、後半はとても悪かった。ボールをたくさん失ってしまい、ストレスになっていた。追いつかれた形だが、もっと早く同点にされていてもおかしくなかった」
アルグアシル監督がそこまで認めるほど、後半は悪い流れだった。各紙が最高点をつけたGKアレックス・レミーロのファインセーブ連発がなかったら、負けていても不思議ではない。
苦戦の理由は、ダビド・シルバ不在だけではないだろう。
久保自身は成長を示し、昨シーズンよりもプラスアルファの攻撃力を見せている。しかし、コンビネーションに関しては足りない。ダビド・シルバは別格だったとしても、波長が合っていたアレクサンダー・セルロートが去り、同じ左利きのミケル・メリーノはケガで戦線を離れているのだ。
カルロス・フェルナンデスは万能FWだが、ゴールへの迫力が足りない。ウマル・サディクはケガ明けで、まだ周りと合わず、"眠った竜"のまま。ベニャト・トゥリエンテスは現時点ではまだ物足りない。負傷から復帰し、そろそろ"全開"のはずのミケル・オヤルサバル、モハメド・アリ・チョも不振。新加入のアマリ・トラオレはすでにポジティブな貢献をしているが、連係面では手探りだ。
チーム全体で、昨シーズンのようには配線がつながっていないのだ。
「開幕したばかりで、選手の中には90分間戦える状態ではない者もいる」
アルグアシル監督が言うように、今は我慢の時だろう。
久保を中心にどこまで勝ち点を稼げるか。主力が復調し、ポルトガル代表FWアンドレ・シルバが戦列に戻ったら、陣容は整う。ロシア代表アルセン・ザハリャンとの契約も発表された。そのプレースタイルは日本代表の鎌田大地にも近く、トップ下の選手としてあらゆる才覚を備えるアタッカーだ。
久保は優れた選手と肌を合わせるたび、その集中力でさらなる進化を遂げる。そこにチームの熟成も追いついてくるはずで、悲観する必要はないだろう。
8月25日、ラ・レアルは敵地でラス・パルマスと戦う。