「佐々木麟太郎はプロで通用するのか?」「今大会で最も評価を上げた打者は?」スカウトに訊いた
スカウトが語る2023甲子園の逸材〜打者編
3人合計233発──高校通算140本塁打の花巻東・佐々木麟太郎、62本塁打の広陵・真鍋慧、31本塁打の九州国際大付・佐倉侠史朗。下級生時から騒がれた3人のスラッガーが登場した今大会。3人とも期待されたホームランは出なかったが、この大会で最もスカウトから注目を集めた打者は誰なのか。
甲子園ではノーアーチに終わった花巻東のスラッガー・佐々木麟太郎
「ドラフト1位確定」の評価を得ているのが佐々木だ。甲子園ではチーム打撃に徹し、長打は出ていないが、なんといっても桁外れのパワーがある。
「歴代の高校生のなかでもスイング力はトップクラス。バッティング練習も見ましたが、『えぐい』のひとこと。先輩の大谷翔平(エンゼルス)より打球を飛ばしています。スイングスピードと打球速度はプロの主力にも引けをとらない。間違いなくドラフト1位です。大学進学の話もありますが、プロに行ったほうがいい」(パ・リーグスカウトA氏)
「スイングスピードはすごいですよ。プロの一軍に入ってもトップクラスでしょう。ティー打撃やフリー打撃を見た人は間違いなく『化け物だ』と言うレベル。惚れ惚れします。どの方向にもホームランを打てるのも魅力ですね」(セ・リーグスカウトB氏)
「細かい技術よりも、とにかくスイングがすごい。トレーニングをして、誰もがあのスイングができるようになるかといったらそうはならないでしょう。すべて80点の選手より、ほかが60点でも100点のものがある選手のほうが魅力です」(パ・リーグスカウトC氏)
「愛知での招待試合を見ましたが、驚きました(6月3、4日に東邦、愛工大名電、中京大中京、至学館と対戦。4試合で17打数7安打12打点。3試合連続の4本塁打を記録)。あれだけのバッティングがあれば、ファーストしか守れなくてもいい。外国人とも勝負できます」(セ・リーグスカウトD氏)
184センチ、113キロの巨体とあって、守備、走塁に課題がある。初戦の宇部鴻城戦ではファーストゴロを弾く場面があったが(記録は内野安打)、視察していたスカウト陣の目にはどう映ったのだろうか。
「ノックでは守備がよくなったと思いましたが、やはりゲームになるとね......。(ノックなど動きが)決まったことをやるのはできるが、試合での対応力はまだまだ。自分で動けるようにならないとね」(セ・リーグスカウトB氏)
「普通の選手より守備範囲は狭いけど、それはしょうがないよね(苦笑)。ただ、練習して徐々に動けるようにはなっていますよ」(パ・リーグスカウトC氏)
【真鍋慧、佐倉侠史朗の評価は?】真鍋は、広島大会では打率.250と不振。甲子園では初戦の立正大淞南戦でセンターから逆方向に大きなフライを飛ばしたものの、敗れた慶応義塾戦では最終打席で送りバントを試みて失敗するなど不完全燃焼に終わった。
「どちらかというとライナー性の打球が多く、中距離打者だと思うけど、神宮大会での大きな一発を見ているからね。スラッガーになりうる素材は魅力。柔らかさがあるし、とんでもない空振りはない。バッティングは"大外れ"はないように感じます」(パ・リーグスカウトA氏)
「バットコントロールはいいし、素直にバットが出る。しっかりボールを打つ構えができているし、スイング軌道もいい。木製バットでも苦労しないタイプでしょう。ただ2年生の時から考えると、もっと成長していてほしかったなと......現時点では3位くらい、という感じでしょうか」(パ・リーグスカウトC氏)
「甲子園ではこすった打球が多く、ホームランが出そうな雰囲気はなかった。もっと『オレのバッティングを見てくれ』という気持ちがほしかったですね」(セ・リーグスカウトD氏)
厳しい声はあったが、打撃の評価は悪くない。ただ、佐々木同様に守備、走塁を指摘する声があがった。
「スローイング自体は悪くないんだけど、体にキレがない。プロでは外野手かもしれないですね」(セ・リーグスカウトB氏)
「プロではホームランバッターではなく、15〜20本くらいの打者だと思いますから、ファースト以外のポジションを守れないと苦しくなるでしょうね」(セ・リーグスカウトD氏)
佐倉は3人のなかで、唯一、初戦敗退。自身も単打1本に終わった。
「バットの軌道はいいし、柔らかさもある。佐々木、真鍋よりも一軍の打席に立つのは早いかもしれません。みんな見た目で長距離砲と言っていますが、アベレージ型でしょう。ただ、あの守備力だとファーストしか守れない。ファーストはホームランが打てないと厳しいポジションですから、プロとなるとどうか」(セ・リーグスカウトB氏)
「少し体が締まった印象を受けました。バッティングも確実性が上がった感じがします。元気があって愛嬌もある。大砲はどこもほしいから、育成なら......という球団はあるかもしれません」(パ・リーグスカウトC氏)
甲子園で2試合連続本塁打を放った履正社・森田大翔
甲子園ではインパクトを残しきれなかった3人に対し、評価を上げた選手もいる。それが履正社の森田大翔だ。初戦の鳥取商戦、2回戦の高知中央戦で2試合連続本塁打。高校通算34本塁打に伸ばした。
「打球の角度がいい。大阪大会から甲子園まで5本塁打は立派なもの。春に比べて技術は上がっているし、急成長は評価に値する。守備も足は動くし、脚力もあるからプロでもサードはできそうですね」(パ・リーグスカウトA氏 )
「うまく打つようになりましたね。甘い球を逃さないで、一発で仕留める力がある。打席での雰囲気もやってくれそうな感じが出ている。右投げ右打ちだし、ドラフトにはかかるでしょう」(セ・リーグスカウトD氏)
このほか、スカウトが注目したのは3人の遊撃手。なかでも評価が高かったのが、上田西の横山聖哉。181センチ、82キロと大型ながら守備の動きはよく、打っても高校通算30本塁打。投手としても140キロ台後半をマークするポテンシャルの高さが魅力だ。
「スケール感がある。すでにプロの体です。プロでもショートをできる守備力もあるし、バッティングもいい。高校で指名する野手は将来のレギュラーを期待しますから、技術を叩き込む自信があるチームは上位で獲るかもしれません」(セ・リーグスカウトB氏)
「捕ってから早いし、肩も強い。プロでもショートができることを証明しました。バッティングもツボに来たら大きいのが打てる。大成するには少し時間がかかるでしょうが、面白い素材です」(パ・リーグスカウトC氏)
「今大会のショートではナンバーワンでしょう。足はそこまで速くないですが、走攻守そろっている。長打の打てるショートとして上位指名する球団もあるかもしれません」(セ・リーグスカウトD氏)
東海大相模からの転校生として話題になった東海大熊本星翔の百崎蒼生も一定の評価を得た。
「攻守にアグレッシブさがあります。高校生はあれぐらいガツガツ感があっていい。バッティングはいいので、セカンドを守れたら戦力になるでしょう。東海大甲府の時はショート、日本ハムでセカンドのレギュラーになった渡辺諒(現・阪神)とかぶりますね」(パ・リーグスカウトA氏)
「瞬発力がありますよね。バッティングはリストが強いし、パンチ力もある。元気もあるし、高い評価をする球団もあるでしょう」(セ・リーグスカウトB氏)
東北勢初の日本一に輝いた昨年からレギュラーを張る仙台育英の山田脩也は本人がプロ入りを希望していることもありチェック対象となった。
「春からよくなっているとは思います。右投げ右打ちですし、守備のセンスもあるので獲る球団はあるかもしれません。ただバッティングは非力ですし、物足りない。もっと特徴がほしいですね」(パ・リーグスカウトC氏)
【沖縄尚学の主砲・仲田侑仁に熱視線】冒頭の3人に代表されるように、スラッガータイプはどの球団もほしい。今春のセンバツで満塁本塁打を放ち、今夏の慶應義塾戦でも一発を放った沖縄尚学の主砲・仲田侑仁のバッティングをビデオに納める球団が目立った。
「自分の間合いがあって、しっかり待てるのがいい。今回は足を肉離れしていたようですが、それでもプロに行きたいと強行出場した気持ちは評価できます」(パ・リーグスカウトA氏)
「体は大きいですが、動ける。外角の変化球に対応できていなかったのは不安材料ですが、パワーはあります。じっくりファームで育てたい選手です」(セ・リーグスカウトD氏)
高校通算24本塁打の八戸学院光星のショート・中沢恒貴は逆方向に放り込める長打力が売り物。甲子園では不発も、「育成なら」とリストに残す球団はあった。
「インコースのさばきは悪くないし、逆方向にもいい打球を打てる。バッティングのセンスはあります。ただ、スローイングに不安が多い。脚力やバネもあるほうではないので、プロでショートとしては厳しいかもしれないですね」(セ・リーグスカウトB氏)
「ヤクルトの山田哲人みたいな感じがあります。バッティングはいいです。守備や走塁にもっと興味を持ってほしいね」(パ・リーグスカウトC氏)
大阪桐蔭の松尾汐恩(現・DeNA)、聖光学院の山浅龍之介(現・中日)、九州国際大付の野田海人(現・西武)ら昨年豊作だった捕手だが、今大会は人材難。「バッティングが成長していてびっくりした。スローイングに力もあるし、4年後は3位以内の期待ができる」と高評価だった仙台育英・尾形樹人は大学進学希望。そんななかスカウトから名前が挙がったのが、浜松開誠館の新妻恭介だ。
「素材はいい。野球選手らしい体つきをしています。スローイングの球筋がすばらしいし、キャッチングもいい」(パ・リーグスカウトA氏)
「いい肩をしていますね。バットも振れるし、リストも強い。初戦でホームランを打ってアピールしましたよね。十分、プロにかかるレベルだと思います」(セ・リーグスカウトD氏)
このほか大学進学予定だが、聖光学院の遊撃手・高中一樹には「私のなかでは、今大会のナンバーワン遊撃手。将来が楽しみ」(パ・リーグスカウトC氏)、徳島商の森煌誠からバックスクリーンに本塁打を放った智辯学園・松本大輝には「長距離砲として期待したいですね」(パ・リーグスカウトA氏)という声があった。
大会前から冒頭で紹介した3人に注目が集まったが、森田のように甲子園の活躍によってスカウトの評価を上げた選手もいる。将来、この世代からどんな選手がプロで活躍するのか楽しみでならない。