谷口彰悟「センターバックこそゲームメーカーである」パスを出す時は「各停」「急行」を意識
【連載】
谷口彰悟「30歳を過ぎた僕が今、伝えたいこと」<第6回>
◆【連載・谷口彰悟】第1回から読む>>
◆第5回>>「自分にはもう、あとがない」日本代表招集に抱いた危機感
日本代表の6月シリーズ、谷口彰悟は2試合とも先発フル出場を果たした。エルサルバドル戦では開始1分で代表初ゴールを決め、ペルー戦では終盤まで零封に抑えるなど守備ラインを統率。攻守において存在をアピールした。
次のワールドカップに向けて動き出した日本代表での活動において、6月シリーズは新たな課題も見つかったという。エルサルバドル戦とペルー戦、センターバックで起用された谷口が意識したこととは──。
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谷口彰悟は最終ラインから攻撃の一歩を探る
現代サッカーにおいて、センターバックこそがゲームメーカーである。
僕自身は今、そんな考えや思いを持ってピッチに立っている。
開始早々の1分に、自分自身が日本代表初ゴールを決めた6月15日のエルサルバドル戦は、3分に相手に退場者が出たこともあり、6-0で勝利した。
そのエルサルバドル戦で、センターバックとして、まず意識したのはパススピードだった。
自分はその場にいることはなかったが、3月シリーズのウルグアイ戦、コロンビア戦を見て感じていたのは、チームとして攻撃のテンポがなかなか上がっていかないことだった。その理由は、ピッチにいるみんながまだ、どこか考えながらプレーしていたところがひとつ、後方でのボール回しがスムーズに機能していないところがひとつ、あるように映った。
それを改善するためには、攻撃の始点となるセンターバックが、パススピードを上げる必要がある。うしろからチーム全体のプレーテンポが上がるように促し、どんどんチームを動かしていくことで、攻撃のテンポアップを図れるのではないだろうか、と。
また、僕自身はスピードのあるパス1本で、相手を置き去りにできると考えているため、なおさら後方にいる自分から出すパススピードは重要で、こだわってもいた。
なによりカタールワールドカップで、このパススピードの重要性を痛いほど実感した。ピッチに立つことができたスペイン戦では、彼らの速いパススピードを目の当たりにし、それを完遂できる技術力の高さを体感した。
相手センターバックであるパウ・トーレスから鋭いくさびのパスがスパッと入り、それを受けた選手がワンタッチで落としてつないだり、ピタっと止めてターンしたりして、スペイン代表は攻撃を繰り出していた。それこそが世界のスタンダードだと肌で感じることができたし、僕自身もそこに基準を定めるようになった。
パウ・トーレスが好例なように、現代サッカーにおけるセンターバックは守るだけでなく、チーム全体にテンポを出すパススピードの強弱とパスの質が基本的な能力として求められている。
そのうえで、次に意識したのは、パスをつける位置だった。ピッチの中なのか、それとも外なのか。そして各停なのか、それとも急行なのか。ちなみに、中とはピッチの中央で、外とはサイド、各停は近くにいる選手にパスを出すことで、急行とはひとつ(もしくはふたつと)ポジションを飛ばした選手にパスを出すことを意味している。
中と外、各停か急行を含め、チームにとって効果的なパスを通すには、相手を見て状況を判断する必要がある。これは川崎フロンターレ時代も含め、常日頃から意識してプレーしているところなので、エルサルバドル戦でも、ペルー戦でも比較的できていたのではないかと感じている。
たとえば、センターバックが中央に縦パスを入れてこない、つけてこないとわかった対戦相手は、かなり守りやすくなるだろう。警戒すべき方向や注意するべき場所が、かなり限定できるからだ。
一方で、センターバックが中央に縦パスを入れてくることがわかると、相手は中央を警戒しなければいけなくなり、中を締める必要が出てくる。外だけでなく、中にも意識を向けさせることで、相手のポジショニングは少しずつ変わってくる。
1人ひとりのポジショニングは、1歩もしくは半歩の違いかもしれない。しかし、ピッチ全体に及ぶと1メートル、さらに2メートル......といった大きな違いとなり、相手チームの歪みとなっていく。
もちろん、中(縦)を通すパスは奪われる可能性もあるため、多少のリスクをともなうが、周りの理解やサポートがあるならば、相手が最も嫌がるところを狙う効果は絶大だ。中が狙えるのであれば中を、そして相手にも中を意識させたあとに外へと出すからこそ、サイドからの攻撃も効果を発揮する。
日本代表には(三笘)薫や(伊東)純也を筆頭に、すばらしい選手がサイドにもたくさんいるので、彼らを活かすためにも、相手に中を警戒させることは大事だと思っている。
また、そのために自分が考えているのが、相手を陥れる、欺くパスだったりする。
90分という時間を考えると、すでに外にパスをしてもいい状況にあっても、あえて中にパスを出すこともある。一度、相手に「嫌なところにパスを通してきたな」と印象づけることで、そのあとの相手の対応を操作することができるからだ。
中へのパスをフェイクやおとりにして欺き、「そこもあるぞ」と相手に思わせておいて、外を狙う。また、外と思わせておいて、中もしかりだ。
パスのスピード、パスの質、そしてパスを出す位置──パスのひとつひとつにこだわり、メッセージを届けられるところに、自分の持ち味もあると思っている。
開始早々の退場で相手が10人になったエルサルバドル戦でコンビを組んだ(板倉)滉とは、試合展開的にもカウンターに注意し、常にふたりでコミュニケーションを取りながらプレーした。
前半で4点を取ることができたように、大量リードを奪った試合では、ペースが落ちたり、マークがゆるくなったりするおそれがある。しかし、チームの強化を目的とした試合であるため、チームは最後まで攻撃の手を休めなかった。
そのため、守備では相手の選手たちと同数になることもあったが、うしろにいる選手たちで連係を図り、ゼロで終わろうと会話しながら、それを実行した。
続く6月20日のペルー戦も、僕はセンターバックとして先発出場することができた。ペルーはさらに力のあるチームで、FWのジャンルカ・ラパドゥラは常に最終ラインを突破する動きというか、オフサイドラインぎりぎりを狙う駆け引きを見せてきた。
そのため、やはりペルー戦でもコンビを組んだ滉とは、常にどちらが(相手を)見るか、またラインの上げ下げについても、口うるさいくらいにしゃべりながら、そして目を合わせながらプレーした。滉とはカタールワールドカップ最終予選でも一緒にプレーしているし、お互いの特徴やよさを理解している相手なので、やりやすさもあり、集中した守備ができたと思っている。
一方で、ペルー戦の83分に失点したシーンでは、自分が競り合って弾いたボールの場所が悪く、そのこぼれ球を拾われてシュートを打たれた。チームに対しては、セカンドボールに素早く対応していくことを求めなければいけないと思いつつ、個人としては、あの1本を自分の前にしっかりと弾くことができるかどうかが課題だと感じた。
たとえ、相手に激しくぶつかられようとも、自分の前にボールを落とすところは、自分自身に対して絶対的に求めていかなければならない。相手にぶつかられたプレーについても、さらに予測して半歩、一歩早く下がって、前に落とせるポジショニングを取ることができたら、あの失点は防げていただろう。
これはあくまで一例だけど、チーム全体を動かしていくプレーも含めて、自分自身への課題も多く感じ、見出し、そして糧とすることができた2試合だった。
前回のワールドカップでは、最終予選のさなかに日本代表に選ばれ、カタールでの本大会に臨んだ。しかし今回は、3年後にある2026年のワールドカップに向けて、直近では1月にあるアジアカップを見据えて始動したチームの活動に参加できていることの喜び、幸せ、やり甲斐をあらためて感じている。
キャプテンである(遠藤)航も言っていたが、僕ら日本代表は2026年のワールドカップでの優勝を目標にしている。どうすれば、そこに近づくことができるのか。森保一監督が率いた前回大会での財産を活かして、再び3年後を目指して活動しているチームに当初から関われている責任も実感している。
また、大袈裟や綺麗事に聞こえるかもしれないけど、そこには日本代表だけでなく、日本全体のサッカーレベルを向上させたい、日本人の力や価値を世界に示したいという思いもある。
6月シリーズの2試合で得ることができた課題を、クラブでのプレーで改善し、また9月にある日本代表の活動へとつなげていくことができればと思う。再び日本代表に選ばれるために──。
◆第7回につづく>>
【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2022年末、カタールのアル・ラーヤンに完全移籍。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。