仙台育英・尾形樹人が持つ無形の財産「世代ナンバーワン」より「勝てる捕手」を目指す
尾形樹人(みきと)は「高校ナンバーワン捕手」を狙える存在なのではないか。仙台育英の試合を見るたびに、そう思っている。
身長181センチ、体重84キロの体躯に、低い軌道で伸びていく二塁送球。昨夏は2年生にして甲子園優勝捕手に輝いた。ただし、チーム内には投手陣を中心にタレントがひしめき、尾形が下位打順を打っていることもあって注目度はさほど高くない。
初戦の浦和学院戦で2ランを含む3安打を放った仙台育英の尾形樹人
ただし、尾形本人にとっては堀という壁は高く感じていたようだ。仙台育英は今春のセンバツ準々決勝で、堀を擁する報徳学園に延長10回タイブレークの末に4対5でサヨナラ負けしている。
「堀くんとは2月くらいから連絡をとり合ってライバル視していたんですけど、対戦してみて今の自分のレベルでは追い越せないと感じました。夏までに攻守にバランスを上げないといけないなと」
尾形が感じた堀のすごさとは何か。そう尋ねると、尾形ははにかみながら答えた。
「スローイングはもちろんなんですけど、関西人特有の強気な姿勢というか、『オレが引っ張ってやる』という感じが格好いいですね」
【浦和学院戦で2ランを含む3安打】そして今夏、尾形は言葉どおり攻守にスケールアップした姿を見せる。
8月6日の浦和学院との1回戦は19対9という乱戦になったが、尾形は高校通算16号となる2ラン本塁打を含む3安打3打点と活躍。コンスタントに強い打球を打てるようになっており、鮮烈な印象を残した。
尾形は宮城大会決勝でも4安打6打点と固め打ちを見せている。6月の東北大会決勝で八戸学院光星に2対3で敗れたあと、仙台育英はチーム全体の課題である打撃面を強化するため徹底的に振り込んだ時期があった。数週間にわたり、練習は打撃のみ。そこで尾形は自分の形をつかんだという。
「バッティングはとにかく(重心を)後ろに残して、ためたものをそのままぶつけるイメージです」
スローイングも進化の跡がうかがえた。春までは右腕を横振りする特徴的な使い方をしていたが、今夏は腕を振る位置が高くなっていた。本人に聞くと、これも堀の影響だという。
「堀を見て負けられないなと思って。リリースする位置が低すぎると、ボールがシュートして思ったところに届かないので形をつくろうと考えました。動画を見ると今も自分の投げたい位置で投げられていないんですけど、ボール自体はいっている実感があります」
浦和学院戦では、仙台育英自慢の湯田統真(ゆだ・とうま)、郄橋煌稀(こうき)の両右腕が計9失点を喫したこともあり、捕手としては「最悪です。育英に入ってこんなに点をとられたのは初めて」と吐き捨てた。
【経験という無形の財産】それでも、尾形の技術的な成長は十分にアピールできたはずだ。「高校ナンバーワン捕手を十分狙える位置にいるのではないですか?」と尋ねると、尾形は少し考えてからこう答えた。
「夏までに(打撃と守備の)どちらも上げることはできましたが、『世代ナンバーワン』というより『勝つキャッチャー』になるのが一番なので。一戦一戦、勝っていきたいです」
同じ質問を須江航監督にもしてみると、「前から何度も思っていますが、狙えます」と即答した。
「尾形がいるだけで仕事をしてくれるので、チーム構成はラクになりますよ。ディフェンス能力に関してはスローイング、キャッチング、ブロッキングと何のストレスもなく見ていられます。バッティングは、今日はたまたま打てたところもありましたけど、バントやエンドランもうまい選手です。木のバットに変わっても重宝されると思いますよ」
そして、尾形には経験という無形の財産がある。全国制覇の経験に、今夏で甲子園出場3回目という大舞台での経験。そして、数多くの好投手をリードした経験だ。
湯田のウイニングショットであるスライダーは時に140キロ台で鋭く変化する。「捕るほうも大変なのではないですか?」と聞くと、尾形は「そうですね」と苦笑しながらこう続けた。
「でも、1年生の頃からずっと、たくさんのピッチャーのボールを受けてきたので。もう体に染みついています。慣れですね」
夏の甲子園が終わる頃、U−18日本代表の選手リストに尾形の名前は入っているだろうか。仙台育英の夏が長くなればなるほど、その存在感は増していくはずだ。