ピッチャーの価値はストレートの速さで決まるわけではない。もちろん、体の大きさでもない。大事なのは、ヒットを打たれても点を与えないことだ。

 大会3日目の第2試合、前橋商(群馬)を7対1で下したクラーク国際(北北海道)のエース・新岡歩輝は、粘り強いピッチングで勝利を呼び込んだ。

「クラーク国際にとって甲子園初勝利。初戦という大きな壁を突破できて最高にうれしいです。ランナーを出しても、いつもどおりのピッチングをすることができました。佐々木啓司監督に1勝をプレゼントできてうれしい」


3種類の投球フォームと多彩な変化球を駆使するクラーク国際のエース・新岡

 身長173cm、体重72kgの新岡はそう言って笑った。被安打は10。何度もランナーを背負いながら1失点で切り抜けた。

「8回くらいから足が攣りそうだったんですが、あまり気にせずに投げました。ランナーが三塁にいる時は、クイック(モーション)じゃなくて足を上げて投げられるので、ランナーのことは気になりません」

 9回に142キロのストレートを投げ込んだが、新岡の武器はスピードだけではない。

「球種がいくつあるのか、自分でもよくわかりません(笑)。変化球は8つくらいかな? 同じ球種でも投げ方や角度によって、曲がり方が変わってくるので」

 中学2年まではアンダースロー。中学3年でサイドに、高校でスリークォーターに変えた。現在は、その3種類のフォームを使い分けて相手打者を翻弄する。

「自分がひとりで1試合を投げ切らないといけなくなって、過去の経験を生かして投げるようにしました。(その時々で)プレートの位置を変えながら投げるようなったのは、この夏の北北海道大会準決勝から。いろいろな工夫をしないと、9回を投げ切ることができないので」

 創部10年目で甲子園初勝利を挙げたクラーク国際の2回戦の相手は花巻東(岩手)だ。ここには高校通算140本塁打を放った佐々木麟太郎がいる。

 青森県つがる市出身の新岡は佐々木との対戦経験がある。

「高校では対戦したことはありませんが、中学2年の時に対戦して、試合は負けました。自分が投げて、フォアボールを出した気がします。(佐々木は)ものすごく迫力がありました。小学校の時にも見たことがあるんですけど、球審よりも体が大きくて(笑)。その印象が強いですね」

 佐々木はその頃よりも大きく、たくましくなっている(身長184cm、体重114kg)。1回戦の宇部鴻城(山口)戦では3安打を放った。

「変化球でかわそうとしても、思い切って振ってきそう。しっかりとインコースの厳しいところを、逃げないで強気で攻めていきたい。

(花巻東打線に)一発でとらえられることはないだろうと思っています。抑えないといけないという気持ちも、抑えられるという自信もあります」

 140キロのストレートと8種類の変化球を持つ新岡。相手バッターの特徴を見極めながら、プレートの位置を変え、3種類の投球フォームを駆使する。

 左バッターにサイドスロー、アンダースローは通用しにくいというのが定説だが、新岡は気にしない。

「もともと、自分の課題は左バッターを抑えることでした。インコースを強気で攻めるようになってから、抑えられるようになりました。左バッターの時でも、横からや下から投げることがあると思います」

 新岡はエースであり、攻撃の核となる三番打者であり、チームをまとめるキャプテンでもある。

「新チームが始まった時は『過去イチ弱いんじゃないか』と言われるくらいだったし、はじめは自分勝手な人が多かったんです。でも、ヤンチャっぽい選手が集まったほうが逆に強くなるんじゃないかという思いはありました。一戦一戦、チームがまとまってきて、一体感がますます強くなっています」

 甲子園初勝利で勢いを得たクラーク国際が、「岩手から日本一」を目標に掲げる強敵に挑む。