三笘薫とブライトンの今季を占う 飛び交う移籍情報のなかカギを握る選手とは
8月11日のバーンリー対マンチェスター・シティ戦で開幕した2023−24シーズンのプレミアリーグ。12日にはブライトンがルートンタウンをホームに迎える。
昨季の覇者マンチェスター・シティはチャンピオンズリーグ(CL)も制し、プレミアリーグのステイタスまで高める貢献をした。
同チームについて語る時、まず取り沙汰されるのは監督だ。ケビン・デ・ブライネ、アーリング・ハーランド、ルベン・ディアスではなくジョゼップ・グアルディオラになる。監督こそが最大のスター。監督中心のチームである。
三笘薫所属のブライトンは、言ってみればその小型版と言うべきチームだ。日本ではブライトンと言えば、真っ先に三笘の存在がクローズアップされる。三笘報道に躍起になるあまり、ブライトンのサッカーの魅力は二の次になっている。仕方ないと言えば仕方ないが、このチームも最大のスターは監督だ。昨季収めた6位という成績は、ロベルト・デ・ゼルビ監督なしには語れない。
昨年9月、デ・ゼルビは、ブライトンの監督を3シーズン務めてきたグレアム・ポッターの後任として招かれた。2018年、39歳の若さでサッスオーロ(セリエA)の監督に就任。3シーズンを過ごした後、ウクライナのシャフタールに渡ったが、ロシアのウクライナ侵攻を受け1年で退団。ブライトンの監督に就任したのはその約2カ月後だった。
三笘の入団とそれはほぼ同じタイミングである。何を隠そう、こちらも三笘を通してそのサッカーに目を奪われたというのが正直なところだ。
プレシーズンのラージョ・バジェカーノ戦に出場した三笘薫(ブライトン)
グアルディオラと共通する点はサッカーのコンセプトが攻撃的という点だ。両ウイングがサイドに大きく張る4バック。
グアルディオラがバルセロナでプレーした現役時代、攻撃的な同チームに対して、イタリアのチームはカウンターで対抗するのがお決まりの構図だった。
バルサはその術中によく嵌まった。しかし、自らのスタイルを頑なに守った。グアルディオラは選手としては1度しか欧州一に輝けなかったが、監督としては昨季の優勝で3度目を数える。攻撃的サッカー陣営を代表する成功者の座に上り詰めた。
【出ていかれたら困るカイセド】
その陣営のひとりとして注目を浴びているデ・ゼルビはイタリア人だ。イタリアのセリエAには守備を重視する監督が多く、ズデネク・ゼーマン(出身はチェコ)など例外的に攻撃的な監督が過去に何人か存在したが、歴史を振り返るとデ・ゼルビは希少な存在に見える。しかも現在まだ44歳だ。グアルディオラより8歳若い。
今季開幕を前に、昨季まで所属したアレクシス・マック・アリスターがチームを去った。4200万ユーロ(約67億円)でリバプールに引き抜かれていった。リバプールはさらにモイセス・カイセドにも食指を伸ばしており、移籍は近いと言われている。三笘も例外ではない。マンチェスター・シティがほしがっているという情報がしきりに飛び交っている。
実際、グアルディオラは国立競技場で行なわれたプレシーズンマッチの横浜F・マリノス戦(7月23日)後の会見で、あえてその試合に関係のない三笘のプレーに触れ、讃えていた。
三笘もさることながら、昨季マック・アリスターとともにブライトンの中盤を支えたカイセドがチームを離れれば、戦力ダウンは必至だ。マック・アリスターはカタールW杯を制したアルゼンチンの中心選手。世界的に高い知名度を誇るが、それに比べ、同W杯のグループリーグで消えたエクアドル代表のMFは、知名度で落ちる。
しかし、どちらに出ていかれたら困るかと言えば、カイセドになる。まさにチームのヘソとして、昨季は圧倒的な存在感を発揮した。
現在までに、マック・アリスター以外でチームを去ることが決まった選手は、GKロベルト・サンチェス(→チェルシー、スペイン代表)、DFレヴィ・コルウィル(→チェルシー、イングランドU−21代表)、FWジェレミー・サルミエント(ウェスト・ブロムウィッチ、エクアドル代表)、FWデニス・ウンダフ(→シュツットガルト)らになる。
一方、加入する主な選手はMFジェイムズ・ミルナー(←リバプール、元イングランド代表)、MF兼FWモハメド・クドゥス(←アヤックス、ガーナ代表)、FWジョアン・ペドロ(←ワトフォード)、DFイゴール(←フィオレンティーナ)、MFマフムート・ダフード(←ドルトムント、元ドイツ代表)らとなる。
【90年代のフォッジャを想起】
出入りを計算した時、カギになるのはやはりカイセドになる。残留すれば戦力アップ。昨季の6位よりさらに上が狙えそうなムードになるが、移籍すれば戦力ダウンは否めない。
それでもデ・ゼルビ監督の評価は、成績の大幅な落ち込みさえなければ揺るがないはずだ。翌シーズンには、選手以上に飛躍している可能性もある。それほど昨季のブライトンはいいサッカーをした。英国のサッカー史に爪痕を残した。プレミアリーグ6位という成績以上の、イングランドのみならず欧州全土にまで響き渡る斬新なサッカーを展開した。
もちろんカイセドに加え、三笘までチームを去ることになれば、肝心のサッカーの魅力そのものに影響が出る。左右のウイングが大きく開くサイドアタックが敢行できなくなれば、なにより支配率に影響が出る。ウイングを経由しない真ん中中心のパスワークに陥れば、ボールを奪われた時、リスクが増大する。反転速攻を浴びやすい、粗野な攻撃的サッカーに陥る。
ブライトン級のクラブがプレミアで長年にわたって上位を維持することは難しいだろう。ここ何年かに限った話だと思われる。想起するのは1990年代にセリエAで中位まで上り詰めたフォッジャだ。監督は先述のゼーマンで、守備的サッカーがスタンダードなイタリアで話題を集めた。
フォッジャは数年で失速。以来、セリエAに返り咲くことはできずにいる。だがその一時の、華々しくも痛快な快進撃は、いまだ多くのファンの記憶に鮮明に刻まれている。筆者もしかり。これまでインタビューしたなかで、ゼーマンほど緊張した監督はいない。
攻撃的サッカー陣営の系譜を語る時、横綱格をヨハン・クライフだとすれば、ゼーマンは小結あたりにはランクされる名前だ。グアルディオラとデ・ゼルビの関係も、現在はそれぐらいだと思われる。三笘が両者の関係に絡むことはあるのか。目を凝らしたい。