大谷翔平がMLB史上初の偉業達成 山本昌は「ケガさえなければ、5、6年は今と変わらないパフォーマンスを見せてくれる」
二刀流の大活躍で世界中の野球ファンを魅了し、MLB史上初となる2年連続2ケタ勝利&2ケタ本塁打を記録した大谷翔平(エンゼルス)。まさに選手として絶頂期にある大谷だが、来年7月に30歳を迎える。はたして今後、プレースタイルを変える必要はあるのだろうか。とくに気になるのはピッチングだ。NPB史上最年長となる50歳まで現役を続けた山本昌氏に聞いた。
MLB史上初の2年連続「2ケタ勝利&2ケタ本塁打」を記録した大谷翔平
打ってはすでにメジャートップの40本塁打を記録(日本時間8月10日現在、以下同)、投げては先発ローテーションを守って10勝をマークするなど、今季の大谷翔平選手はパフォーマンス的にもメジャーの最高峰にいます。もはや、僕が論じるような選手ではなくなってしまいました(笑)。
日本ハムでプレーしていた頃は、正直、ピッチャーとしてよりバッターとしての評価のほうが高かったです。ある球団関係者から「今、パ・リーグでバッティングが一番いいのは大谷だ」と聞いていました。
2018年に渡米して、今季で6年目。日本でプレーしていた頃と比べると、バッティングもよくなっているけれど、ピッチングのほうが成長の度合いで言えば大きいと思います。
スピード自体は日本ハム時代から165キロを投げていましたが、球質がよくなりました。ストレートだけでなく、"スイーパー"と言われるように曲がり幅の大きなスライダーもあれば、鋭く落ちるスプリットもある。また、ツーシームも威力を発揮しています。質の高い球種がいくつもあるから、バッターにとっては厄介なピッチャーです。
メジャー1年目の2018年シーズン終了後に右ヒジの手術(トミー・ジョン手術=側副靱帯再建術)を受けましたが、それからもうすぐ5年が経ち、感覚的にも馴染んできたのでしょう。投げるほうも、今がピークに近いのではという活躍を見せています。
そんな大谷選手ですが、来年30歳を迎えます。ふつうの投手なら下り坂に差しかかってくる年齢です。僕自身、成績のピークは30歳前後でした。29歳を迎えた1994年、中日で29試合に先発して19勝を挙げることができましたが、いずれもキャリア最高の数字でした。それ以降もなんとか粘り、通算32年間プレーすることができました。
僕の場合、もともと球が速くなかったこともあり、30歳を超えてもとくに何かを変えたわけではありません。もちろん、体のケアには気をつけていましたが、同じピッチングスタイルで50歳まで投げ続けました。
【投打とも底が見えない】プロ野球をはじめ、スポーツ界は日進月歩で進化しており、選手の置かれる状況はあらゆる面で昔とは違います。とくに医療や食事、トレーニング、そして摂生を含めた考え方など、年々アップデートされ、選手寿命も伸びています。
これはよく知られている話ですが、大谷選手はそうした面でも超一流です。野球で最高のパフォーマンスを発揮するために、私生活からストイックです。「生活のすべてを野球に向けている」という話を関係者から聞きますし、以前取材させてもらった時もそのような話をしていました。ですので、来年30歳を迎えるからといって、いきなりパフォーマンスが落ちるようなことはないでしょう。
それどころか、打者でも投手でもまだ底が見えません。成績が落ち始めるとしても、3年後とかではないでしょう。ケガさえなければ、あと5、6年は今と変わらないパフォーマンスを見せてくれるのではないでしょうか。仮に「20年後も今と同じ活躍をしろ」と言われたら、それはさすがに厳しいかもしれませんが......(笑)。
そんなことを想像させるくらい、大谷選手の活躍はメジャーでも突き抜けています。バッティングではリーグトップの本塁打数(40本)に加えて、打率(.3059/リーグ3位)、打点(83/リーグ3位)でも上位につけていますし、ピッチングでも勝利数(10勝/リーグ6位タイ)、防御率(3.17/リーグ4位)、奪三振(165/リーグ3位)などすばらしい数字を残しています。
ひとつ心配があるとすれば、ケガだけですね。二刀流として前例のないほど激しいプレーを続け、ほとんど休みなく戦い続けているので、それだけ負担はかかっています。もしケガをした場合、「じゃあ、二刀流はどうする?」という話が出てくるかもしれません。でも、こればかりは野球をしている限り、誰にでもあり得る話です。逆に言うと、ケガくらいしか不安がないというのは、あらためてすごいことです。
投打ともに圧倒的な成績を残しているので、正直「いつパフォーマンスが落ち始めるのか?」を予想するのは本当に難しいです。おそらく、40歳を超えたあたりでしょうか......それでも11年後の話ですからね(笑)。
パフォーマンスが落ちていくとしても、体力や気力が衰えるということではなく、"伸びしろ"がなくなるという次元の話かもしれません。それほど大谷選手は今も成長を続けていますし、アメリカでプレーしてからの進化も凄まじい。今後もまだまだ伸びていくような気がしますね。