PayPalがアメリカドルのレートと固定したステーブルコイン「PayPal USD」を発表、大手金融機関では初めての動き
PayPalが2023年8月7日に、アメリカドル建てのステーブルコインであるPayPal USD(PYUSD)を発表しました。主要な金融機関として金融当局の規制と監視を受けている企業が発行するステーブルコインはこれが初めてです。
PayPal Stablecoin | US Dollar Cryptocurrency | PayPal US
https://www.paypal.com/us/digital-wallet/manage-money/crypto/pyusd
https://newsroom.paypal-corp.com/2023-08-07-PayPal-Launches-U-S-Dollar-Stablecoin
McHenry Statement on PayPal Announcing Launch of Payment Stablecoin | Financial Services Committee
https://financialservices.house.gov/news/documentsingle.aspx?DocumentID=408945
発表によると、PayPal USDはドル預金、短期米国債、そのほかの現金に準ずる資産によって100%裏付けられており、ドルと1対1で引き換えることが可能とのこと。
これによりアメリカのPayPalユーザーはPayPal USDで買い物をしたり、誰かと取引をしたり、別の仮想通貨を購入したりできるようになります。
PayPal USDはイーサリアム上で構築されており、発行元はブロックチェーンを専門とするテクノロジー企業のPaxos Trust Companyです。PayPalとPaxos Trust Companyは2020年から仮想通貨取引サービスで提携しているほか、Paxos Trust Companyは以前BinanceブランドのステーブルコインであるBUSDを発行していた実績もあります。ただし、BUSDはBinanceに対する規制当局の監視強化のあおりを受けて、2023年2月に新規発行が停止されています。
アメリカの下院議員で、ステーブルコインの法制化を目指して超党派のステーブルコイン規制法を議会に提出しているパトリック・マクヘンリー氏は、PayPal USDのローンチを受けて発表した声明で、「今回の発表は、ステーブルコインが明確な規制の枠組みの下で発行されれば、21世紀の決済システムの柱になる有望なものであるという明確なシグナルです。ステーブルコインがその可能性を最大限に発揮するためには、明確な規制と強固な消費者保護が不可欠です。だからこそ、議会が包括的なデジタル資産規制、特にステーブルコインに対する規制を規定した法律を制定することが、これまで以上に重要なのです」と述べました。
ステーブルコインは法定通貨、多くの場合はアメリカドルと価値が同じになるように設計されたデジタル通貨です。しかし、ステーブルコインの安定性は必ずしも保証されておらず、これまでの発行額が最大のステーブルコインであるテザーでさえ、倒産が危ぶまれている中国企業に多額の融資をしていたことから取り付け騒ぎが起きるとの懸念が報じられたことがあります。
また、2022年5月には無担保型ステーブルコインのTerraUSD(UST)の価格とドルとの間に大きな差が生まれ、TerraUSDを支えていた仮想通貨のLUNAの価値も事実上ゼロにまで下落して、Terraのシステム全体が崩壊する大きな事件が発生しました。
価格が99.99%下落した仮想通貨の「Terra(LUNA)」に一体何があったのか - GIGAZINE
こうした背景を踏まえて、PayPalはPayPal USDの透明性の維持に力を入れています。PayPalによると、発行元のPaxos Trust Companyは2023年9月からPayPal USDの準備金を構成する商品を概説する「月次準備金レポート」を公開するほか、準備金の価値に関する公的第三者証明書も発行するとのこと。この証明書は独立した第三者の会計事務所が、アメリカ公認会計士協会(AICPA)が定めた認証基準に従って作成するものであるとされています。
PayPalの社長兼CEOのダン・シュルマン氏は、「デジタル通貨への移行には、デジタルネイティブであり、かつドルのような法定通貨と簡単に接続できる安定した手段が必要です。責任あるイノベーションとコンプライアンスへの当社の取り組み、そして顧客に新しい体験を提供してきた実績は、PayPal USDを通じたデジタル決済の成長に貢献する上で欠かせない基盤となるでしょう」と話しました。