欲しいのは18きっぷ愛好家だけ? 静岡県内の東海道本線に「快速がない」ワケ JR東海の答えは
青春18きっぷ愛好家などから、しばしば「東海道本線の静岡県区間にも快速がほしい」という声が聞かれます。確かに同区間に定期の快速列車はありません。なぜでしょうか。JR東海にその理由を尋ねました。
「あったらいいな、静岡快速」
2023年6月18日、JR東海道本線で臨時急行「ラブライブ!サンシャイン!!」号が2本運行されました。浜松駅発、途中は掛川駅と静岡駅に停車して沼津駅着。かなりの俊足ぶりでした。
ほかにも同線では、JR東海のイベント「さわやかウォーキング」に連動する形で、臨時列車「快速さわやかウォーキング」号が運行される場合があります。そしてこのような列車が運行されるたび聞こえてくるのが、「こんな快速列車があったら良いのに」という声です。青春18きっぷのシーズンにも、「東海道本線の静岡県内区間にも快速がほしい」という声が高まります。
JR東海道本線を行く313系電車。静岡県内の同線には定期列車としての快速はなく、浜松駅以西の新快速も、県内では全駅に停車する(画像:写真AC)。
2023年7月現在、同線の東京〜神戸間のうち事実上の快速運転がされるのは、東京〜熱海間、豊橋〜岐阜間、米原〜神戸間で、静岡県内の熱海〜新所原間には、定期列車としての快速がありません。唯一、三島〜静岡間の下りで、金曜または休日の前日に限り設定されるだけです。ほかにホームライナーがありますが、乗車整理券が必要になるため「快速といえば自由席」のイメージとは異なります。なぜ、東海道本線の静岡県内には定期快速がないのでしょうか。
JR東海に理由を尋ねると、以下のような回答が得られました。
「静岡地区の東海道本線につきましては、お客様のご利用の多い駅が連続しております。快速列車を設定しても、停車する駅が多くなると予想されるため、到着時間の短縮には大きく寄与いたしかねます。通過駅の乗車機会が減少することにもなり、快速の運転は総合的に判断して、お客様へのサービス向上には繋がらないという考えから、現在の列車体系とさせていただいております」(JR東海)。
愛知県区間には新快速があるワケ
静岡県が公開している駅の乗車人員データを見ると、新幹線停車駅以外の駅は主要駅で数千人になるものの、そのほかの駅では差があります。乗車人数が3桁台の駅もあれば、1000人台、2000人台、3000人台、4000人台と別れます。快速停車駅の設定として、どの利用者数で線引きをするか悩みどころです。
また、データは公開されていませんが、すべての駅の乗車客が静岡駅や浜松駅で降りるのではなく、1000人〜2000人台の駅の利用者が3000人〜4000人台の駅で降りるという傾向がある場合、3000人〜4000人台の駅だけを結ぶ快速列車にはさほど需要がないともいえます。
JR東海は2021年3月から、東海道本線のすべての駅でIC乗車券「TOICA」に対応したので、乗客の動向はしっかり把握した上で「快速は不要」という判断をしているようです。
東海道本線の静岡県内区間(赤丸)と、東海道新幹線の停車駅(青丸)(地理院地図を元に筆者作成)。
一方、愛知県内区間では新快速が頻繁に運行されていますが、この理由もJR東海に尋ねてみました。
「お客様のご利用状況を鑑み、特定の区間に限った速達化ではなく、運行区間全体の速達性が向上するように新快速を導入しています」(JR東海)。
新快速といえば、新幹線「こだま」停車駅の三河安城駅には停まりません。これも、新幹線を利用する客が、同駅周辺の駅をまんべんなく利用しているという状況を把握しているからだと思われます。
ちなみにIC乗車券を元にしたデータでは、青春18きっぷの利用区間を反映できません。こういった状況を考えると、実は静岡県内の東海道本線利用者の不満は小さく、青春18きっぷ利用者のうち、静岡県を通過する利用者にとっては不満がある、という構図も見えてきます。
JR東海、静岡県内区間にも注力
最後に、JR東海の静岡県区間の取り組みについて尋ねました。主に5点あるそうです。
(1)新駅設置:2001年「愛野駅」、2020年3月「御厨駅」
沿線自治体からの要請を受け、利用状況、交流人口の増加等を考慮し設置。
(2)ダイヤの最適化
静岡駅の発車本数は国鉄時代に比較して大幅に増加している。さらに毎年3月のダイヤ改正で、時間帯や区間ごとの乗車率を元に、ダイヤと編成両数を見直す。2023年3月のダイヤ改正では、東海道本線と新幹線の乗り換え時間を見直した。
(3)多客期の臨時列車や増結
年末年始や大型連休など利用者数が増える期間のほか、沿線でコンサートやスポーツイベントを開催する日などにピンポイントで増発や列車の長編成化を実施。たとえばコロナ禍前の2019年に行われた「袋井遠州花火大会」では、34本の臨時列車を設定した。
東海道本線静岡県内区間の1日平均乗客数(静岡県統計年鑑 運輸・通信)より。
(4)沿線地域の活性化の取り組み
「ラブライブ!サンシャイン!!」号、「島田ぼんぼり祭り」号、「藤枝 藤まつり」号、「菊川 de 逢える」号などのイベント列車、沿線各地のイベントと連携したさわやかウォーキングの開催などを実施。多くの人が沿線各地の魅力ある自然、歴史、文化等に触れられる機会を増やすなど、関係する自治体や地元の協力を得ながら、積極的に沿線地域の活性化に取り組む。
(5)積極的な車両投入
313系を投入し、国鉄車両からの置き換えを完了。今後は名古屋、静岡都市圏に最新型の315系を投入予定。
筆者(杉山淳一:鉄道ライター)としては、現在の東海道本線静岡区間は、大手私鉄の無料優等列車に匹敵する駅間距離と所要時間だと感じます。たとえば静岡鉄道の静岡清水線は、新静岡〜新清水間で合計15駅ありますが、これに対してほぼ同区間で並行する東海道本線の駅は、わずか4駅しかありません。
つまり、現在の東海道本線静岡区間は十分に快速なのです。今後、地域の要請などで中間駅がたくさん増えたとき、改めて快速列車が設定されるかも知れません。