日本から直行便が出ているグアムとハワイ。この2か所を起点に南太平洋の島々を結ぶ「アイランド・ホッパー」という航空路線も開設されています。日本人にはあまり馴染みない路線ですが、このたび体験してきました。

ユナイテッド航空が週3往復

 太平洋の真ん中には、ミクロネシア連邦やマーシャル諸島共和国など、無数の島で構成された国がいくつもあります。なかでもミクロネシアは、戦前には日本の委任統治領だった時代背景から、当時は日本の行政機関が置かれていました。加えて太平洋戦争中には、日米の激戦地となった島でもあります。このエリアは、歴史的に見ても日本とかかわりの深い地域でといえるでしょう。

 そうした島々を経由してグアムとハワイを結ぶ航空路線が存在します。この路線は島々を縫うように着陸と離陸を繰り返しながら飛行するので、「アイランド・ホッパー」と呼ばれています。

 筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)は今年(2023年)の6月、この路線を飛ぶ便に搭乗する機会があったので、その様子を振り返りながら紹介いたします。


グアム空港で出発を待つアイランド・ホッパーの155便。背後はグアムを出発するホノルルへの直行便UA200便(細谷泰正撮影)。

 ミクロネシアを飛ぶ「アイランド・ホッパー」には、グアムからハワイ・ホノルルへ向かう東行きと、その逆を飛ぶ西行きの2種類があります。

 東行きのユナイテッド航空155便は、グアムを飛び立つと、ミクロネシアのチューク、ポンペイ、コスラエ、マーシャル諸島のクェゼリン、マジュロを経由したのちホノルルへに向かいます。

 一方、西行きの154便はその逆で、ホノルルを発つと同じ空港を逆側から経由してグアムに向かいます。この航空路は1968年にコンチネンタル・ミクロネシア航空によって開設されたため、すでに55年の歴史があります。

 就航当時、長距離の洋上路線に用いられる旅客機には、エンジン3基以上を装備していることが必須だったため、この路線には3発機のボーイング727型が使用されました。その後、エンジンの信頼性が飛躍的に向上したため、双発機でも長距離の洋上路線が運航可能になりました。

 これを受け、現在は経済性に優れたエンジン2基のボーイング737-800が用いられています。航空会社はコンチネンタル航空を吸収合併したユナイテッド航空で、運航は週3往復です。

ブレーキ加熱が心配、なぜ?

 この便の特徴は4名の客室乗務員の他、パイロット4名と整備士1名が同乗していることでしょう。

 客室乗務員は、西行き東行きともに途中のマジュロで交代しますが、パイロットは4名全員がホノルルとグアムの全区間を同乗します。ボーイング737の操縦室は2人体制ですが、交代要員のパイロットは客室のビジネスクラス最前列に待機していて、途中のマジュロで交代します。

 整備士は、エコノミークラスの客室最前列に搭乗して、途中の経由地では毎回地上に降りてパイロットと一緒に機体の点検を行います。これは、ジェット旅客機にとって過酷な運航を離島で繰り返すために採られている措置です。


ポンペイ空港周辺の風景(細谷泰正撮影)。

 アイランド・ホッパーの経由地の滑走路はジェット機の運航にはぎりぎりの長さのため、着陸と同時にエンジンの逆噴射とブレーキをフルに使用して機体を停止させる必要があります。そのため、ブレーキの過熱が懸念されます。

 その対策として経由地のどの空港でも消防車が待機しており、万一の際にはブレーキ部分に放水できるようスタンバイしています。ちなみに、経由地の滑走路はマジュロ空港が2400mで最も長く、ポンペイ空港とアメリカ軍基地でもあるクェゼリン空港が2000mです。

 その他の空港はおよそ1800mですが、滑走路の至近には海が迫っており、ゆえに滑走路の両端にあるオーバーラン部分が全くない空港もあります。そのような空港への着陸に際してパイロットは相当なプレッシャーを感じているに違いありません。離陸時も滑走路のほぼ全長を使っていたのが印象的でした。

アメリカ軍基地に発着するケースも

 途中に立ち寄る空港での滞在時間はおよそ50分間です。駐機位置に停止するとタラップが横付けされます。バリアフリーのタラップで階段ではなくスロープ式です。その空港で降機する乗客以外は機内に留まることが義務付けられます。

 乗客の降機が終わると保安係が機内を見回り、機内に残された全ての手荷物の持ち主が搭乗していることを確認します。持ち主が不明の手荷物は機外に運び出される仕組みです。

 保安検査が終わると新たな搭乗客を迎えて搭乗口のドアが閉まります。客室内のこうした動きと並行して機外では貨物の出し入れ、機体の点検、燃料補給が手際よく行われ、出発の準備が整えられます。


人力で動かせるスロープ式タラップ(細谷泰正撮影)。

 なお、一部の空港では引き続き搭乗する乗客も保安検査の後、機外に出ることが可能ですが、飛行場自体がアメリカ軍基地になっているクェゼリンでは、機外に出ることはもちろん、窓から外の景色を撮影することも禁止されています。

「アイランド・ホッパー」の機内を見回すと、利用者のうち観光客が占める割合は低く、ほとんどの乗客が島民、もしくはクェゼリンの軍関係者のようでした。搭乗率は全区間を通して高いため、ユナイテッド航空では今年2月から毎週1便を追加して週3便体制で運航を始めたほどです。

 なお、このとき新たに加わった東行きの133便、西行きの132便は、途中のコスラエとクェゼリンには立ち寄らず、ポンペイからマジュロに直行するルートで運航されています。

 経由地はどの空港も巨大なサンゴ礁に囲まれており、空の上からの景観はまさに絶景です。今回の訪問地はマーシャル諸島でしたが、この「アイランド・ホッパー」を利用してミクロネシアの日本統治時代の遺構を巡るのもよいのではないでしょうか。