バスのドライバー不足が深刻化の一途をたどっています。相次ぐ路線廃止や減便の理由は、採算性よりも乗務員不足によるもので、黒字事業も切り崩しながら運営する状況。職種としての魅力を取り戻す取り組みも少しずつ進んでいます。

「乗務員不足」で街の路線バス12%減便

 2023年7月5日付の北海道新聞で、北見市の北海道北見バスが7日から、平日に路線バス65便の減便を行うという報道がなされました。同社が平日に運行する路線バスは524便で、今回の減便はその12%にあたります。減便の理由は乗務員不足です。退職者などの補充が追いつかず、通常のダイヤを確保するのに必要な乗務員が確保できないため、減便せざるを得ないということです。


路線バスの減便・廃止が相次いでいる。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 かつては路線バスが減便あるいは休廃止となる理由は、利用者が減少して収支が悪化し、採算が取れなくなったからでした。しかし近年の減便・休廃止は、明らかに「乗務員が回らないから」という理由にシフトしています。

 乗務員不足は地方に限った問題ではありません。大都市圏を含む全国で路線バスの減便、系統廃止、土休日の運休、最終バスの繰り上げ、高速バスの減便・休廃止などが行われています。もはや、稼げるところに力を入れて稼ぐことすら、何かを犠牲にしないと対応が難しくなっているのです。

 筆者が公共交通政策に関わっている山口市で市内のバス3社に調査をかけたところ、現状のサービスを維持するために必要な運転者は178人のところ、現在12人不足しているという結果が出ました。

どうしてここまで… 深刻化した乗務員不足 2つの背景

 乗務員不足の傾向自体は1990年代ごろから見えてはいましたが、ここまで深刻になったのは最近10年ぐらいのことでした。そこには大きく2つの背景が存在しています。

 ひとつは全体的に高年齢化が進んだことです。2000年代には多くの事業者で乗務員の平均年齢が50歳代になってきます。そして、バスがまだ成長傾向だった1970〜80年代に採用された年齢層が順次定年を迎え、退職していくときには、新たな乗務員のなり手がなかなかいない状況になっていました。

 もう一つの背景が、営業バスに必要な大型二種免許保有者が大きく減少しているということです。警察庁の運転免許統計(2021年度)によると、年齢階層別の大型二種免許保有者数では70〜74歳が最多で、保有者の6割以上が65歳以上の高齢者となっています。40歳未満の保有車が5%にも満たないほど、若年層が大型二種免許を取得しなくなっているということが言えます。

バス事業者はどんな手を打ってきたのか そして壊滅的に

 何とかこの状況下で乗務員を確保するため、バス事業者は2000年代ごろを境に、普通免許保有者を採用して会社負担で大型二種免許を取得させる「養成制度」を多くの事業者で始めました。また、近年は順次定年も65歳へと延長されていますが、定年退職後も再雇用で乗務員を続けてもらうケースが多く、特に地方では70歳代の乗務員も珍しくはなくなり、60歳以上の乗務員の割合は23%ほどになっています。

 女性乗務員の採用も積極的に進められてきました。2022年7月末現在の女性運転者数は乗合が236事業者1388人で、貸切の約200事業者357人と合わせると1745人が活躍していますが、全運転者に占める割合は2%程度に過ぎません。やはり営業所施設をはじめとする就業環境整備が追いついていないことや、バス乗務員の勤務の特性から子育て等との両立が難しいといった状況が反映していると思われます。

 そしてコロナ禍が乗務員不足に拍車をかけました。

 乗務員自身の感染などはごく僅かでしたが、2022年ごろには家族の感染等で濃厚接触者になって出勤できないケースも続出、利用者も減少したことでモチベーションも下がり、退職者が続出したという現実がありました。


熊本のように地域の路線バスの“共同経営”を実施し、サービス維持を目指す動きもある(画像:photolibrary)。

 貸切バスについてはコロナ前、定着率はともかく乗合よりは充足していたのですが、コロナ禍で仕事がなくなって、一時帰休や場合によっては解雇といった状況の中、離職者が急増しました。ようやく需要が回復傾向を見せている2023年には貸切バスの乗務員不足も顕著になっています。

 ではなぜ乗務員のなり手が集まらないのでしょうか。根本的には“職業的魅力”の欠如と言えるでしょう。

賃金アップにメドも?

 輸送人員の減少による収入減を人件費の削減でカバーしようとした1990年代までの効率化の流れの中で、バス運転者の給与レベルは下がるところまで下がってしまいました。地方によって差はありますが、おおむね全産業平均に比べて民営バスの賃金レベルは、年収ベースで30〜80万円ほど低いのが現実で、人命を預かる仕事にもかかわらず、それに見合った収入が得られないため、バスの運転がどうしてもしたい愛好者以外バス運転者をめざさなくなっています。

 したがって大型二種免許取得の意欲も醸成されず、制度としては2022年の道路交通法一部改正で大型二種の年齢要件が19歳以上、普通免許取得後1年以上に引き下げられましたが、19歳の新採用も急速には進みそうもありません。

 バスを運転できる人はトラックの運転ができますから、本来最も活躍してほしい30〜40歳代の運転者は子育てなどにお金がかかるため、より稼げる運送、ダンプ・ミキサーなどの業界に流れて行く傾向にあります。

 つまり給与レベルや待遇が上がれば、一定程度若年層の採用の可能性が上がり、離職に歯止めがかけられると考えられます。現在その原資を確保すべく、ここ20数年行っていなかった運賃改定が各地で進んでいますが、あわせて国レベルでも地域の足を支える担い手の確保という観点から、環境整備や免許取得などについての支援策が望まれます。

 待遇面では“働き方改革”の一環として、2024年4月に自動車運転者の労働時間等改善基準告示が改正され、拘束時間や休息時間について見直しがなされます。これにより乗務員の労働環境は改善されますが、1人あたりの運転時間が短く、連続休憩時間が長くなるので、現状の要員数のままでは乗務員不足に拍車がかかる恐れもあります。

 中には、乗務員の離職率が低い、つまり比較的充足度が高い事業者もあります。一概には言えませんが、そのような事業者はやはり職場(営業所など)の雰囲気がよく、現場の声がトップまで風通しよく伝わっているようです。

 バス乗務員は確かに勤務が不規則で人の命を預かる責任の重い仕事ではありますが、地元で働けて、地元の役に立てるという魅力をもった職場でもあります。事業者サイドも、そこをアピールするとともに、プロの運転者としての高い資質が身につき、誇りが持てるような職場の環境や教育体制の構築などを行う必要があるでしょう。