オールブラックスXVに27-41で敗れた日本代表。攻守両面で課題の見える一戦となった【写真:JRFU】

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オールブラックスXVに27-41で敗れ2連敗

 ラグビー日本代表は15日、熊本・えがお健康スタジアムで行われたオールブラックスXVとの「リポビタンDチャレンジカップ2023」第2戦に27-41で敗れ、2連敗となった。ノートライの6-38で敗れた第1戦よりは見せ場もあったが、攻守両面でいまだ熟成途上というチーム状態を今回も感じさせた。第1戦で世界最先端のラグビーを見せられたオールブラックス(ニュージーランド代表)予備軍からは、今回も試合運びや戦況の読みなどで学びがあった。これからのテストマッチ、そして8強突破に挑む9月開幕のワールドカップ(W杯)フランス大会で、世界最強の2軍チームからの教訓を、どこまでチーム力に変えられるかも課題になる。(取材・文=吉田 宏)

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 6年ぶりの火の国・熊本での代表戦だったが、観衆は1万9586人。少し寂しいスタンドを、実戦お披露目の新ジャージーの15人も熱狂させることはできなかった。ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)が、試合後の会見でこうゲームを総括した。

「たくさんミスをしてしまったので 最終的に負けてしまいました。相手もすごくクオリティの高いチームなので、そういうミスをしてしまうとトライされてしまう。自分たちにとってはすごくいい経験になりました。7か月、代表として試合をしていなく、2試合目なので、今後どんどん良くなっていくと思います。まだW杯まで7週間あります。いい練習はできていると思うし、チームとして学んだものもたくさんある。ミスなどを減らしていくことが課題だと思います」

 ノートライに終わった第1戦に比べると、後半追い上げての通算3トライには熊本のファンも沸き返ったが、勝利の気配は遠かった。ジョセフHCが指摘したように、このNZ代表予備軍は高い個人技をベースにした実力のあるチームだ。だが、そんな世界の個の力に、組織で対抗して日本が奇跡の躍進を遂げたのが2019年W杯。強みである“組”の力は、いまだに実力が上の相手を倒すほどには機能していない。

 開始9分のオールブラックスXVの先制トライはPR(プロップ)ジャーメイン・アインスリーの力強い縦突進で日本の防御が集められたところを、左に大きく展開されてFB(フルバック)ルーベン・ラブが防御を振り切り、素早いパスで繋がれ仕留められた。日本も12分にPGで3点を返したが、1分も経たずに第1戦でも何度も防御を崩されたSO(スタンドオフ)スティーブン・ペロフェタにFW(フォワード)とBK(バックス)の間隙を突かれて、そのまま飛び込まれた。

試合巧者のオールブラックスXVが効果的なトライを連発

 この一連のスコアで、オールブラックスがゲームで重視している秘訣が脳裏に思い浮かんだ。これは埼玉パナソニックワイルドナイツを率いるロビー・ディーンズ監督から聞いた話だ。過去にカンタベリー・クルセイダーズをNZ最強チームに鍛え、オールブラックスのコーチングスタッフも務めた名将は、世界最強軍団がゲームを進めるなかで重視していることをこう語っていた。

「彼らは試合中でもスコアすることを強く意識し、集中する時間帯がある。それは対戦相手がスコアした直後や、自分たちがスコアした後。それと前後半の開始直後や前半終了前だ」

 ラグビーのような流動的にゲームが展開する競技では、いつ何時でもチャンスがあればトライやゴールが欲しいはずだが、ロビーさんが指摘する時間帯は単なる点数だけではなく、相手が受ける精神的なダメージが大きいという点で、より意味のあるスコアになるというのだ。名将は「例えば相手がトライを取りたい時に、逆に自分たちがトライすれば、心理的には自分たちの奪った5点と、相手が取ろうとして逃した5点と合わせて10点分の効果がある。キックオフ直後や前半終了直前も、同じように相手にダメージを与えることになる。オールブラックスというチームは、そのような相手の心理も考えながらプレーしているチームだよ」と笑顔で語っていたが、前半12分の一撃は、まさに“オールブラックスの掟”通りの効果倍増のトライだった。

 同じ現象は、25分の日本の初トライ直後にも見られた。FB松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス)のスピードで奪ったトライにチームもスタンドも盛り上がるなかで、NZ代表キャップ「18」を持つオールブラックスXVのSH(スクラムハーフ)ブラッド・ウエバーは、スクラムからこちらも18キャップのCTB(センター)ジャック・グッドヒューを突っ込ませて、そこに集まった日本防御が次の展開ができない素早さで、CTBビリー・プロクターにラストパスを送って、瞬殺でトライを取り返した。これが前半30分の出来事だった。

 ロビーさんの指摘は前半終了直前と、後半キックオフ直後にも起きている。前半残り2分という時間に、オールブラックスXVが自陣22メートルライン内から日本の不意を突くように、左に大きく展開して一気にインゴールを陥れた。後半3分には、日本のCTBディラン・ライリー(埼玉WK)が無造作に上げたキックを捕球したFBラブが、自分の蹴り上げたパントを自らキャッチ。間髪入れずにグラバーキックを蹴り込むと、それに反応したWTBのAJ・ラムが足にかけ、そのまま追走、捕球してインゴールに飛び込んだ。

37歳の堀江翔太が見出したポジティブな要素

 オールブラックス予備軍が演じた相手の隙を突いて、相手が対処できないスピードで振り切るアタックこそ、日本代表がやりたい攻撃であり、防御に目を向けると、相手の仕掛けてくる素早い展開をフィールドのメンバーが把握し、より多くの仲間が共有して動くことも十分ではなかった。試合ごとにゲーム主将を入れ替えるなど、戦況を判断し、情報を逐一発信するリーダーが試行段階ということが祟ったとも考えられるが、2か月後の本番へ向けて最強の予備軍からもらった重要な宿題と考えていいだろう。

 もちろん、先へ向けた収穫も見えたゲームでもあった。2019年W杯以来の先発でプレーしたHO堀江翔太(埼玉WK)は、連戦を終えてチームのポジティブな要素をこう指摘する。

「やろうとしたことは選手みんなが結構明確に理解し始めているので、すべてが悪い感じじゃなかった。ここ繋げればとか、個人のスキルがもっと上がれば(良くなっていく)ということじゃないですか? 相手にカウンターから突破される部分は、まだ練習していない部分。そこらへんのコミュニケーションはでき上がっていないが、自分たちがやろうと取り組んできたディフェンスやアタックは結構向上していると実感しています」

 37歳のベテランの言葉からも、チームがいまだ熟成途上だと感じさせるが、6月の浦安合宿でしごかれたタックルでの1対1のヒットの強さなどには手応えを掴んでいるようだ。第1戦と同様に、日本の攻撃が相手防御にスローダウンさせられる場面もあったが、前半25分の松島のチーム初トライでは、テンポのいい連続攻撃で相手防御が不十分になったエリアを突いた。テンポさえ作れれば、仕留められるという感触はある。

 後半14、19分にはWTB(ウイング)セミシ・マシレワ(花園近鉄ライナーズ)が連続トライをマークして決定力を印象づけたが、本人は「内側の選手たちが仕事をしてくれたおかげで 僕は外側でボールをもらってトライラインを越えることができた」とチャンスボールを回したFWとインサイドBKの貢献を指摘する。11分から登場して攻撃をテンポアップさせたSH(スクラムハーフ)流大(東京SG)も「途中からの出場だったので、チームにエナジーを加えたかった。僕が火を点ける役だったが、みんながついてきてくれた。特にFWが前に出てくれたので、そのおかげだと思う」と光明を感じ取っている。

 チームの戦術を見ると、3-12で迎えた前半16分に敵陣ゴール前のPKで2度連続でスクラムを選択している。W杯では間違いなく確実に3点を得るPGを選ぶ状況で、トライを狙ってきた。しかもスクラムの真後ろにSOとFBが近い距離で縦に並ぶ特殊な陣形も2度使ってきた。これは明らかに、これからの戦いに備えたシミュレーションと考えられる。試行段階の実戦では、勝敗よりも戦術のテストという意味合いもあるのだろう。

試合データから見える日本の良い兆候と課題

 データを見ると、アタック時のキックとパスの割合も、オールブラックスXVが1、2戦と大差がなかったのに対して、日本はキック1回に対して6.4回パスしていた第1戦から、第2戦は8.6回とパスを増やしている。重視してきたキックを多用していない。手の内をすべて出し尽くさない試合運びが、数値からも推察できるゲームだった。まだ致命的な突破は許すが、タックル成功率が第1戦の81%から87%に向上(XVの第2戦は85%)しているのは、良い兆候と判断したい。

 しかし、データの中には、日本の課題もしっかりと示されている。第2戦ではボールキャリー(ボールを持って走った回数)は日本の101、オールブラックスXVの98とほぼ同数に対して、防御を破ったラインブレークは日本が5回、XVは8回と差が出ている。相手ボールを奪い取るターンオーバーも日本が2、XVが5と上回られ、敵陣22メートルライン内に攻め込んだ時のトライ率も、XVの3.1(1回の侵入で平均3.1点を獲得)に対して2.3と得点力で相手に及ばなかった。

 強みの攻撃面ではまだ修正点が多いのは明らかだ。防御も、組織的な完成度という意味では熟成中と、ともに完成度を高めていく必要があるのは間違いない。残されたサモア代表(22日)、トンガ代表(29日)、フィジー代表(8月5日)との3試合で、どこまで仕上げていけるのか。ジョセフHCの「まだ7週間ある」という言葉を信じながら、チームの熟成を試合ごとに確かめていくしかない。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。W杯は1999、2003、07、11、15年と5大会連続で取材。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。