爆発を起こした現場のビル、3日後の様子(写真:筆者撮影 ※一部加工しています)

7月3日の午後3時過ぎ。東京・港区新橋3丁目にある雑居ビル2階で爆発があり、4人が重軽傷を負うなど大惨事となった。詳しい原因については現在も捜査が続いているが、漏れたガスに引火したことによる爆発が指摘されている。

私たちの生活にガスは欠かせない。今回の事故を教訓にガスの取り扱いについて、あらためて学ぶべきこととは――。

何が起きたかわからなかった

爆発から3日経った東京・新橋の現場を訪ねた。新橋駅から徒歩3分。爆発した2階の店舗の窓は外され、路上から店の中がめちゃめちゃになっている様子がわかる。天井部分も壁も一面黒くすすけていた。


めちゃめちゃになっている2階店舗(写真:筆者撮影 ※一部加工しています)

現場のビルは1971年に建てられた。地上8階地下1階建て。2階部分だけでなく、内装工事が行われていた3階は外壁が黒くすすけてしまっている。道路を挟んだ向かいのビルの窓ガラスも、爆風の影響だろうか割れていて、白い大きな紙で目張りされていた。

現場近くの飲食店員は、筆者の取材に「(爆発のとき)ものすごい轟音がして一瞬何が起こったのかわかりませんでした」と話した。

筆者が訪れた時間は昼過ぎで、道行く人たちが次々と足を止めてスマートフォンでビルを撮影している。報道陣も数社おり、所轄署の警察官2人が警戒に当たっていた。

衝撃的な爆発事故が発生したのは、7月3日午後3時過ぎ。警視庁の発表によると、爆発が起こったのはカフェバーで、店長ら4人が重軽傷を負った。警視庁は爆発の原因を調べているが、カフェバーの店長は「たばこに火をつけたら爆発した」という趣旨の供述をしているという。

またその後の調べで、爆発したカフェバーの上の階(3階)では、水道関連の内装工事が行われており、内装工事にあたっていた業者が「床の部分に出ていたガス管の栓を工具で回した」と話しているという。

この「工具でガス管の栓を回した」という供述に注目するのが、元警視庁警察官でセキュリティコンサルタントの松丸俊彦さんだ。

「蓋がされていたガス管の栓を工具で開けるなどして、結果的にガス漏れを引き起こしたのであれば、内装業を請け負った業者、および作業者個人も業務上過失致傷、ガス事業法違反の刑事責任を問われる可能性がある」

実際にどのように爆発に至ったのか。

松丸さんの警視庁への取材によれば、爆発当日の午前9時ごろから3階部分で水道関連の内装工事が始まり、午後1時ごろに終了したという。その間に、作業者が床に出ていたガス管の栓を工具で回したとみられる。

作業者は「ガス管とはわかっていたが、ガスが通っているとは思わなかった」とも供述しているという。

3階の工事が終わった約2時間後。2階のカフェバーの店長がたばこに火をつけたところ爆発した。カフェバーの関係者がガスのにおいを感じていたという報道もある。いずれにせよ、3階床下のガス管から漏れたガスが2階に充満し、たばこの火に引火して爆発したと考えられる。

ガスのにおいはしなかったのか?

ここで注目すべきは、3階で作業に当たっていた作業者が、ガスのにおいなどを感じていなかったから、工具でガス管の栓を回してしまった可能性が高い、ということだ。

家庭や店舗などには都市ガスやプロパンガスが利用される。

都市ガスはメタンが主成分で空気よりやや軽く、プロパンガスはプロパンとブタンが主成分で空気より重い。いずれのガスも本来は無臭だが、私たちに供給されるガスは事故防止のためににおいがつけられている。

このビルの場合、3階部分は室内でにおいが感知されなかった可能性が高いことから、空気より重いプロパンガスの可能性がある。今後の捜査で爆発の原因や状況が徐々に明らかになっていくだろう。

実は、工事の際のガスの取り扱いについては、大手ガス会社のホームページには、建築業者に宛てた「工事のためのガス供給を停止する方法」で具体的な注意事項が明記されている。


(「東京ガスネットワーク ホームページ」より一部抜粋)

このほか、解体や内装工事の際には、ガス管を敷地の境界部分から切断する「地境切断」と呼ばれる措置を、ガス会社に行ってもらわなければいけない、となっている。要するに、工事の際のガスの取り扱いは、通常の供給停止措置よりもかなり厳格に行う必要があり、ガス会社の立ち合いも必須ということなのだ。

松丸さんは内装業者がガス会社へ事前に連絡や相談をしていたかどうかについて、「行われていなかったのではないか」と疑問を呈したうえでこう主張する。

「ガスのようなにおいがしたという証言が2階の関係者から出ているが、『ガスのにおい』と通報するかしないかを、個人に頼るというのはよくない。2階の店舗はガスの契約をしていなかったということだが、このビルのいずれかの階でガスを使っているのであれば、ビルの権利を所有する管理者は、ビル全体にガス検知器を設置する必要があった」

これに対して、爆発の研究・安全対策が専門の桑名一徳・東京理科大学教授は、雑居ビルのガス検知器の設置について問題点を指摘する。

「もしガス検知器を設置していたとしても、内装業者がガスのにおいに気づいていなかったとしたら、ガス検知器も作動しなかったはずです。床下配管でガスが漏れた場合は、3階のガス検知器はすぐには鳴らなかったでしょう」

2階の店舗はそもそもガスの契約がなかった。そういう意味では2階にガス検知器を付ける根拠がない。ガスの契約もないのに検知器だけ付けるのかという話になるからだ。

「ガス会社に通報がいく連動式の検知器を、ガス契約がないところに設置する根拠が必要になり、コスト面などで管理者も二の足を踏んでしまうかもしれない」としたうえで、桑名教授は今回の爆発については、「内装業者だけの問題と言い切れない」と話す。

「今回、内装業者が栓を開けてしまったとすれば、そもそも危険性の認識が薄かったということになりますが、問題はそれではなく、システム(仕組み)で防ぐことができたかということです」

「システムで防ぐ」とはどういうことなのか。

「例えば、ガスの配管を赤く目立たせ、危険である印をつけるよう義務付けるといった考え方があります。そうすればガスが通る配管は見たらすぐわかる。作業する人も簡単には触らないでしょうし、触ってしまったら事業者に連絡がいくかもしれないと、警戒感を高める効果があるでしょう」

爆発は防げなかったのか?


多くの人が通る路地にある雑居ビル。ガスの異臭に気づいた人が通報していたら…(写真:筆者撮影)

今回のガス爆発の報道に接して、桑名教授は強く感じたことがある。

「3階でガスが漏れて2階で充満したということですが、爆発までに2時間ほどあったわけです。その間、周囲でガスのにおいに気づいた人は本当にいなかったのか、疑問です。もしかしたら、現場の近くを歩いていた人の中にガスのにおいを感じていた人がいて、その人が通報していたら、この爆発は防げたかもしれないのです」

今回の爆発は1回だったが、ガスの充満が続いていたら2回目、3回目の爆発が起こる可能性があった。

「爆発があったらまずは一刻も早くそこから離れるべきです。その際、爆発した場所と反対方向に逃げることが重要です。そのほか、普段から飲食店などの店舗に入る際は、非常口だけでなく、出入り口以外にほかの出口があるかどうかも確認しておくことが必要です」(松丸さん)

工事関係者に限らず、私たちはガスの取り扱い、爆発事故から身を守るためには、何に気をつければよいのだろうか。


ガスの元栓(写真:yukiotoko/PIXTA)

「ガスはガス管を通って供給されているので、ガス漏れを感じたらすぐに閉められるよう、ガスの元栓の位置を常に確認しておくことが大事です。屋外などに設置されていることが多いガスメーターでガス供給が管理されている場合もあるので、ガスメーターの設置場所も確認しておくとよいでしょう」(桑名教授)

生活に欠かせないガス。一方で扱い方を間違えると今回のような大惨事を引き起こす。私たちも当たり前のように使っているガスについて、今一度その取り扱いについて考えてみてもよいかもしれない。

(一木 悠造 : フリーライター)