山陽新幹線で運行を続ける500系(写真:のりえもん/PIXTA)

JR西日本が運行する500系新幹線の行き先表示器がバージョンアップして、フルカラーLEDに置き換えられた。

行き先表示器は各車両の側面のドア付近に設置され、行き先のほか、種別(「こだま」など)も表示する。フルカラーLED化の状況についてJR西日本に確認したところ、「現在運行している500系のすべての編成(6編成)で実施・完了している」という。

新幹線のバージョンアップといえば、近年ではN700系において安全・安定性能の向上を目的としてブレーキ性能を改善したり、定速走行装置を搭載したりしたことが記憶に新しい。これに対して今回の500系はフルカラーLED化以外に改造した箇所は「特にない」ないという。

N700系のバージョンアップと比べたら、500系の行き先表示器のフルカラーLED化など小さな変化にすぎない。しかし、500系の今後を占ううえでは重要な変化といえる。

「世界最速」ギネスブックに記載

500系は戦闘機のコックピットを思わせる鋭角的なロングノーズが特徴で、鉄道ファンの間ではひときわ人気が高い。JR西日本が時速300kmでの営業運転を実現するために開発し、1編成16両の列車が9編成製造された。

運行開始は1997年3月。まず、山陽新幹線・新大阪―博多間で運行が始まり、同年11月には東海道新幹線への乗り入れも実現し、東京―博多間を最短4時間49分で結んだ。山陽新幹線区間における最高時速300kmでの営業運転は当時、フランスの高速鉄道TGVと並び世界最速タイだった。

しかし、2007年にN700系が登場すると500系の出番は徐々に減り、2010年には東海道新幹線から撤退した。


東京駅乗り入れ最終日の500系「のぞみ」。ホーム上は多くのファンで埋まった=2010年(撮影:今井康一)

その後は、初代新幹線0系の後釜として、山陽新幹線「こだま」として運行することとなった。山陽新幹線の区間は東海道新幹線の区間よりも乗客が少ないことから、9編成中8編成において、1編成の車両数は16両から8両へと短縮された(残る1編成は廃車)。8両編成化の工事は2008年から2010年にかけて実施され、パンタグラフが変更されたほか、一部車両の車内には子供向けの模擬運転席も設置された。

こだまでの運用が始まってから10年あまりを経て、500系8編成のうち2編成が廃車された。現在も走り続けているのは6編成にすぎない。初登場から26年経っていることもあり、その6編成もそろそろ引退するのではないかという観測もある中での行き先表示器のバージョンアップである。

フルカラーLEDの行き先表示器は従来よりも見やすいが、だからといって、変えなくてはいけないというものでもない。部品の調達や作業の手間を考えれば、そのコストは決して安くはない。もし設備投資として行われたのであれば、今後数年間にわたって減価償却費として費用計上される。もし引退が迫っているのであれば従来のものを使い続けていていいはずだ。

行き先表示器をバージョンアップしたということは、500系の引退は当分の間はないということか。JR西日本の長谷川一明社長にこの点について聞いてみると、行き先表示器のフルカラーLED化と車両運用期間の関連性については明言しなかったものの、「500系はいずれ引退するだろうが、こだまでならまだ使える」として、しばらく使い続けることを明言した。

乗ってもらうには「コラボが必要」

現在、山陽新幹線のこだまは700系も走っているが、「わざわざ500系を選ぶお客様もいる」と長谷川社長は述べる。それだけ、鉄道ファンの間で人気が高いのだが、それが、乗車率として目に見える実績を出しているかというと、そこまでではないようだ。「500系単体では多くの人には乗っていただけない。エヴァンゲリオンやハローキティのようなコラボレーションが必要だ」。

2015年にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」とコラボした列車を走らせた。車両外観を「エヴァンゲリオン初号機」をモチーフとしたカラーリングに全面塗装し、大好評を博した。2018年にはサンリオのキャラクター「ハローキティ」とコラボした新幹線が世界中で話題に。ピンクと白のカラーリングの列車が現在も山陽新幹線区間を走行する。

そのハローキティ新幹線もデビューから5年。500系との新しいコラボ列車が登場してもいい頃合いかもしれない。ハローキティ新幹線は山陰デスティネーションキャンペーンに合わせて投入されたが、もし次のコラボ新幹線が登場するとしたら、やはりデスティネーションキャンペーンの時期に合わせるのだろうか。いずれにしても500系の引退がまだ先の話ということであれば、これからも500系をさまざまな施策に活用できる。世界の高速鉄道の歴史に残る名車であり、ぜひそれにふさわしい施策を行ってもらいたい。


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(大坂 直樹 : 東洋経済 記者)