タワー横ではじまった路上ライブに人々が足を止め歌に聞き入っていた(写真:松原大輔)

新宿歌舞伎町の新しい顔である東急歌舞伎町タワー

このタワーの敷地内を、路上ライブができるようミュージシャンに開放する準備が進められている。禁止場所での無許可の路上ライブとは違い、歌舞伎町のど真ん中でルールを守り堂々と演奏ができる場所となる。

今回は、この歌舞伎町タワーの新たな取り組みに関して追ってみた。

*この記事の第1回目:新宿駅南口「路上ライブ"禁止でも聖地"」驚く現実

*この記事の第3回目:「路上ライブを公認!」"柏ルール"に学ぶ3つの視点

東急歌舞伎町タワーの敷地内を「路上ライブ」に開放

エンターテインメントビル、東急歌舞伎町タワー(以下、タワー)。今年4月にオープンして連日のように多くの人が訪れている。

これまで歌舞伎町にはあまり来なかったであろうファミリー層や海外からの人たちも多い。そんなタワーが新たな取り組みを見せている。

タワーの敷地内で今年7月以降、路上ライブができるようミュージシャンに開放することを計画中なのである。

これはかなり画期的な取り組みであろう。

歌舞伎町という日本有数の繁華街のど真ん中であるのはもちろん、インバウンドで多くの外国人観光客も押し寄せているこの場所で歌うことは、ミュージシャンにとっては大きなアピールの場となるのは間違いない。

そして、タワーには大型のライブホールZepp Shinjuku(TOKYO)があり、深夜帯にはナイトエンターテインメント施設としての営業も行っている。

将来的に、この場所から「Zepp Shinjuku」(TOKYO)に立つミュージシャンが現れるといった夢もあるだろう。

この路上ライブプロジェクトを推進するのは、東急とタワーを運営するTSTエンタテイメントからなるプロジェクトチームだ。

チームは1年以上前から準備に取り組んでいた。まずは東急の貴島邦彦氏に話を聞いた。

「東急歌舞伎町タワーは“好きを極める”をコンセプトにしているのですが、その中でも若手のアーティストが育っていく仕掛けができないかなということで、このプロジェクトが立ち上がりました。

もちろん新宿南口のことも知っていましたが、もっと大きな枠組みで歌舞伎町自体のブランド価値を音楽の力で上げて、音楽が好きな人がさらに集まってくる街づくりができないかと考えています」

「地域の皆様がどう感じているか」が一番

すでにトー横のシネシティ広場では、歌舞伎町商店街振興組合と一緒に行っている公認路上ライブイベントである「Kabukicho Music Live」を定期的に行い、今年6月からは数度にわたり路上ライブの実証実験を行ってきた。


シネシティ広場では定期的に音楽イベントが行われている(写真:落合由香さん提供 )

6月上旬に行われた実証実験では音量の確認や場所、通行の妨げにならないかなど、様々なデータがとられ検証がなされていた。

最初の実証実験では、実際すぐに警察が駆け付けたり、近隣の居酒屋からクレームが入るなどスタッフがその対応に追われていた。

タワーの敷地は東急及び東急レクリエーションの私有地であるがそこから出れば道路となるため、人が溢れ歩行者の通行を邪魔してはならない。

また、タワー内のホテルの宿泊客への配慮はもちろん、周辺ビルの居酒屋やカフェなどへの対応もあり、やはり簡単にはいかないだろう。

「音量も都の規定がひとつの基準になることはもちろんそうなのですが、『地域の皆様がどう感じているか』というのが一番だと考えています。この街を盛り上げていくという意味でも地域の皆様と一緒にやっていくという意識でおります」

同チーム・小野寺響平氏の話からは、タワーが都の音量基準はもちろん、周辺の人々に受け入れられるための路上ライブの環境づくりを目指していることがうかがえた。

同時に実証実験からは、同チーム北村隆裕氏も確かな手ごたえを感じていた。

「ほぼ告知なしでも凄く人が集まっていました。特に海外の方は喜んでくださっていたので、新しい音楽の発信地になるのではと可能性を感じています」

確かに、ほぼ出演者のSNSだけで大々的な告知がなかったにもかかわらず、通りかかった多くの人たちが音楽に聞き入り、楽しむ姿が見受けられた。外国人観光客の姿も非常に多かった

「新宿南口の問題ももちろん知っています。今、南口でやっているミュージシャンに限らずですが、なんの心配もなく歌えるこの場所で思う存分歌ってほしいです」

貴島氏はそう期待を寄せた。

そうなのだ。今現在、この場所における一番のメリットというのは、やはりタワーの公認を得られることにあるだろう。

ミュージシャンが感じた「タワーでの路上ライブ」

「まさかこんな歌舞伎町のど真ん中で路上ライブができるとは思ってもいませんでした。新宿駅南口でも路上ライブをやっていますが、やはり注意されて途切れたりもしますし、(警察を)常に気にしながら演奏するのもいやですしね。だからこういった公認で堂々と歌える場所ができるのは本当に嬉しいです」

路上ライブの実証実験で歌ったシンガーのアノエリカさんは、こう語ってくれた。加えて、ここでも「たくさんの人に聴いてもらえる」という手ごたえと、日頃の路上ライブにはない歌舞伎町の独特な雰囲気も感じたという。

たくさんの人が集まり、リスクなく歌うことができる。さらには歌舞伎町の独特の空気感がミュージシャンを際立たせれば、この場所は大きなチャンスを得るための場所になるだろう。

それこそ、繰り返しになるが無名の若手ミュージシャンが「Zepp Shinjuku」(TOKYO)へつながる道をいっきにつかみ取れる場所となるかもしれない。

実際、タワーのプロジェクトチームは今後、そういったミュージシャンたちを集めた音楽イベントをこのタワーで定期的に行っていく計画を立てている。


実証実験での路上ライブで素敵な歌声を披露したシンガーのアノエリカさん(写真:松原大輔)

新たな「音楽シーン誕生の地」となるか

まだ実証実験段階なので、実際にミュージシャンたちにこの場所が開放されれば、様々な問題も起こるだろう。まだまだ詰めなければならない課題はたくさんある。

ミュージシャンが歌うための方法もまだ検討中だ。

実証実験ではすでに活動歴のあるミュージシャンを招待した形となったが、今後、登録制にするのか、時間予約制にするのかなど、いま議論の真っただ中にある。

路上ライブの目的は、主に無名のミュージシャンが自らを売り込みアピールするためのものだ。

であるならば、より多くのミュージシャンに門戸が開かれることを願ってやまない。そして、このタワーの路上ライブから新たなスターミュージシャンが誕生してくれれば、こんなに素晴らしいことはないだろう。

この場所は、日本の音楽シーンを変える場所にも成り得るのではないだろうか。大げさかもしれないが、取材を通してそう期待したい路上ライブシーンがそこにはあった。

*この記事の第1回目:新宿駅南口「路上ライブ"禁止でも聖地"」驚く現実

*この記事の第3回目:「路上ライブを公認!」"柏ルール"に学ぶ3つの視点

(松原 大輔 : 編集者・ライター)