ホイールハウスまわりをブラックアウトしてリフトアップ感を演出。SUVテイストに仕立てている(筆者撮影)

軽自動車の市場が拡大する中、三菱自動車が2023年5月25日に「デリカミニ」を投入した。全高1830mmに達する「スーパーハイトワゴン」で、4WDに力が入っているのも特徴だ。

アウトドアを楽しむ層へのアピールを狙っているといい、SUVテイストがデザインに活かされている。開発者は「デリカらしい力強い走りを強調したかった」と言う。


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「デリカ」と聞けばピンとくる、三菱車ファンへの浸透を狙ったコンセプトだろう。せっかくのアセット(財産)を活用しない手はない。マーケティングの常道だ。

でも現在のデリカ、「デリカD:5」はデリカミニとは、コンセプトがあきらかに異なる。こちらは3列シートのミニバンだし、パワートレインはディーゼルだ。

ただし、未舗装路面を走破して家族とキャンプ場へ……といったイメージ訴求において、両車には共通点があるだろう。オーバーランダー(自動車でのキャンプを楽しむ人)がターゲットという点では、デリカD:5とデリカミニのコンセプトは近いと見えるのだ。

愛らしい顔つきがキャラクターを象徴

デリカD:5は、今の三菱自における旗頭的存在だけど、少なくともスタイリングの面では、デリカミニのほうが、より万人ウケしそうだ。

半円形のヘッドランプに、牙のように見えなくもない三菱車に共通のデザインテーマである「ダイナミックシールド」の特徴的なフロントマスクを持つ、デリカミニ。


「にらまられている感」のあるのフェイスが逆に信頼感を醸成か(筆者撮影)

三菱では、フロントマスクを動物に見立てて、「デリ丸。」という犬(のような)キャラを広告に使っている。なんで犬の“ような”というかは、「カレはデリカミニの化身。(犬かどうかは不明)」と、三菱自動車のwebサイトで説明されているからだ。

フロントマスクのイメージは、大小デリカで大きく異なる。デリカミニは、昨今の三菱車のなかでは、愛らしくもある顔つきで、それが「販売好調」(広報部)の理由ではないかと推測できる。


重心はそれほど低くないはずだが、見た目に反してコーナリングなどでも安定感がある(筆者撮影)

三菱の軽自動車には「eK」シリーズがあり、ヒンジドアの「ekワゴン」やスライドドアのスーパーハイトワゴン「ekスペース」、日産との共同開発でピュアEVの設定もある「ekクロス」……と、いろんなeKがある。

デリカミニは、SUVテイストのスーパーハイトワゴン「ekクロススペース」に代わって登場したクルマで、スライドドアと広い室内も、セリングポイントのひとつだ。

ekクロススペースのほうがデリカD:5に似た顔つきだったが、デリカミニのほうが三菱車らしい顔つきに見えるし、アウトドア訴求という開発におけるコンセプトも明快に思える。

ただし、三菱は「デザインだけが良好なセールスに寄与しているのではない」としている。クルマそのものに気合いが入っているのだ。1つはパッケージング。もう1つはエンジニアリングである。


広々とした空間に左右独立スライドのリアシートによるパッケージングの妙(筆者撮影)

専用開発の足回りは良好

ドライブトレインは、全車マイルドハイブリッド(MHEV)。小型モーターを使い、ごく低回転域から実用トルクが上乗せされるうえ、燃費にも貢献する。

エンジンはもちろん659ccの3気筒で、「T」グレードではインタークーラー付きターボチャージャーが備わる。はたして、これが十分にパワフルだから頼もしい。高速道路の追い越し加速で、力不足を感じる場面もなかった。

試乗したのは、4WDのほう。センターディファレンシャルギアにビスカスカップリングを使う方式で、ベースは前輪駆動だが、低負荷時でも100%前輪駆動になることはないという。

「未舗装路でも快適に、が念頭にありました」と、商品戦略本部で商品企画を担当する今本裕一マネジャーは、試乗会場で説明してくれた。

そのために、大径タイヤと専用ダンパーを新開発。4WDモデル専用に、15インチホイールと組み合わせた165/60タイヤを用意した。タイヤ自体の直径は579mmとなり、前輪駆動モデルに対して、16mmの拡大だ。


ベース車両となる「ekスペース」よりも明らかに車高が高い(筆者撮影)

16mmという数字では大きく感じられないけれど、エンジニアにはこのタイヤがボディ側と干渉しないように、ホイールハウス内に手を入れている。

「扁平率が55%(FWDモデル)から60%に上がっただけで、ハンドリングへの影響は大きく出る」と三菱のエンジニア氏。はたして、高速道路の車線変更時でも頼りなさを感じることはなかったし、未舗装路でも突き上げは感じられず(砂利道を走った程度だけど)、ハンドリングが損なわれていないのに感心した。

ダンパーの設定にしても、「縮み側を弱め、伸び側を強めました」(開発エンジニア)として、砂利道、一般道、高速道のどこでも印象が変わらないように努めたそうだ。実際、そのとおりの印象だった。

乗員の頭が揺れない、いわゆる“フラットな姿勢”が実現しているのだ。上質感のある乗り心地といえる。上手なセッティングだ。

エンジンは、3500rpmを超えるとことさら存在を主張しはじめる(つまり、うるさくなる)けど、それ以下であればノイズのレベルは低い。高速道路上でも、うまく騒音が“丸めて”あって、うるささが突出していない。

未舗装路を4WD車の焦点にしたのは、先にも触れたとおり、ターゲット層のキャンプへの嗜好が強いから。未舗装路(と積雪路)を考慮して、電子制御リミテッドスリップデフの働きをする「グリップコントロール」も4WDに搭載する。

片輪が空転しても、そこにブレーキ制御を行うことで、もう一方の車輪にトルクが伝達される。それによって、悪路での脱出力を高めているのだ。


スライド幅の大きいリアシート。後席のステップ高は400mm(2WDは370mm)で乗降性も良い(筆者撮影)

後席シートが左右それぞれ前後に320mmスライドする機能は、実生活でだいぶ役立つだろう。なにしろ、後ろに下げれば、前席と後席に座っている乗員のあいだにも、かさのあるものを載せられる。

後席に人が乗るなら、レッグルームはロールスロイス「ファントム」より広いほど。室内の天井高だって1400mmもあるから、窮屈さは一切ない。

ただし、フットレストはないので、法規的に問題がなければ自分で用意したい。毛足の長いカーペットに裸足を乗せる気持ちよさを味わえるのは“ロースルロイスの特権”みたいに言われているが、デリカミニで同様の楽しさを味わってもいいではないか。

ADASの制御も良好。買うならどのグレードか?

私が乗った4WDの「Tプレミアム」なるグレードは、「MI-PILOT(マイパイロット)」という高速道路同一車線運転支援機能を備えていた。設定した速度で、高速を延々と走っていくときに便利な機能で、先行車がいれば一定距離を保つし、カメラが車線を認識してカーブもきちんと曲がっていってくれる。


Tプレミアムの運転席まわり。シートはクッションに厚みがあり”いい感じ”だ(筆者撮影)

ただし、手放し(ハンズオフ)には対応していないので、しっかりとハンドルを握って運転姿勢を保つ必要がある。でも、十分にラクチンだし、それぐらいはやってもいいでしょう。

シートのクッションは厚みが感じられ、(そんな長時間ではなかったものの)オシリが痛くなることはなかった。純正ナビゲーションシステムを含めた操作類も、使い勝手がよい。

個人的には、プレミアム系グレードに用意されている後席ウインドウ用のロールサンシェードが、大変ありがたい。輸入車だと、プレミアムクラスでもオプションでしか用意されていないからだ。


上級グレードに標準装備される後席用のロールサンシェード(筆者撮影)

というわけでデリカミニ、全方位的によくできている。価格はノンターボの「G」2WDの180万4000円から、ターボ「Tプレミアム」4WDの223万8500円(今回の試乗グレード)まで。

装備や走り、そして小さなデリカというキャラクターを考えれば最上級グレードを選びたいところだが、「G」2WDでも十分にデリカミニの楽しさは味わえると思う。

<三菱 デリカミニ T Premium>
全長×全幅×全高:3395mm×1475 mm×1830mm
ホイールベース:2495mm
車重:1050kg
パワートレイン:659cc 直列3気筒ガソリン(マイルドハイブリッド)4WD
最高出力:47kW/5600rpm
最大トルク:100Nm/2400〜4000rpm
変速機:無段変速機
燃費:17.5km/L(WLTC)
価格:223万8500円

(小川 フミオ : モータージャーナリスト)