未成年がSNSを通じて権利侵害をしたとき、本人と親の法的責任は?(写真:show999/PIXTA)

今年1月回転寿司チェーン大手「スシロー」の店舗内で高校生の少年が醤油ボトル、湯呑み、寿司に唾液を付ける様子を撮影した動画がSNSで拡散されました。 

上記の件につき、3月22日付で、スシローの運営会社「あきんどスシロー」は少年に対して約6700万円の損害賠償を求める訴えを提起しました(その後の報道によると、あきんどスシローは、さらに賠償額を増額する予定と主張しているようです)。

迷惑行為、迷惑行為の撮影及びSNS投稿といった一連の行為が、事案によってはこれだけ多額の賠償請求訴訟にまでなることを考えると、未成年がSNSを通じて権利侵害をしたときの、本人と親の法的責任が気になるところですよね。

SNSを通じた誹謗中傷や迷惑動画の撮影及び投稿は、内容によっては権利侵害として民法709条の不法行為に該当します。

未成年によるSNSを通じた権利侵害について、本人と親の法的責任を確認しておきましょう。以下、民事上の法的責任について説明します。

未成年に責任能力があるかどうか

民法712条により、責任能力のない未成年は、他人に損害を加えた場合であってもその行為による賠償責任を負わない、とされています。

上記の「責任能力」があるとされる年齢は法律上定められていませんが、大体12歳前後が責任能力の有無の分かれ目となります。

未成年に責任能力があるときは、原則として、その未成年自身が法的責任を負い、親は法的責任を負いません。

当時13歳だった少年が、ネット上である弁護士に対する誹謗中傷行為をしていたとして、その弁護士がその少年を被告として損害賠償請求訴訟を提起した事案で、裁判所は、少年の責任能力を認め、40万円の賠償を命じました。

また、裁判所は、「被告は、本件各書込み当時、13歳の中学2年生であったものであるが、同年齢頃の未成年について、成人に比べ、社会経験の少なさ等から適切な判断をする能力において劣る面は否定できないと考えられる一方、弁護士という職業がどのような仕事を行っているかを抽象的に理解できる程度には成長しているとも考えられる。そして、少なくとも、本件において、被告がそのような理解すらできていなかったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件においては、被告の年齢が、慰謝料額に対して有意に作用する事情となるとまではいえない」と判断しています。

個別の事情にもよりますが、未成年の社会経験が成人と比べて少ないからといって、それを理由に慰謝料を減額してもらえるわけではない、という点には注意が必要です。

また、先ほど説明した通り、未成年に責任能力がある場合は原則としてその未成年自身が法的責任を負うのですが、例外的に、親の未成年に対する監督義務違反と損害の発生について相当因果関係が認められる場合には、未成年だけでなく、親自身も被害者に対して直接法的責任(民法709条の不法行為責任)を負うことがあり得ます(SNSに関する事案ではありませんが、過去に、責任能力がある未成年だけでなく、親の不法行為責任が認められた裁判例があります)。

次に、未成年に責任能力がないときは、民法714条により、未成年の監督義務者(通常は親)が、法的責任を負います。

同条は、例外的に、監督義務者が監督義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは監督義務者が法的責任を負わない、と定めていますが、このケースに該当する事情があることは、監督義務者(通常は親)側が主張かつ立証をする必要があります。

未成年が支払えないときはどうなる?

未成年によるSNSを通じた権利侵害について、未成年に責任能力がある場合には、原則として、未成年が法的責任を負います。

しかし、実際には、未成年には資産や収入がないことがほとんどです。未成年に賠償金を支払うだけの原資がない場合には、結局誰も支払いをしなくてすむのか?というと、そんなことはありません。

損害賠償を認める判決が出てかつそれが確定した場合で、任意の支払いをしなかった場合(又は裁判上の和解をしたのにそれに従った支払いをしなかった場合)、将来その未成年が就職等により収入を得るようになったときに本人の資産が差し押さえられる可能性があります。

でも、未成年が将来収入を得るようになった時点で、もう被害者の権利は時効で消滅しているのでは?という疑問もあるかもしれませんが、確定判決や裁判上の和解等によって確定した権利の消滅時効は10年と長いです(時効を中断する事由があると、消滅時効期間はさらにのびます)。

また、企業に対して不法行為責任を負う等損害賠償額が高額となった場合、自己破産ということも視野に入ってくるかもしれません。しかし、破産法により、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権とされています。この要件に該当した場合、自己破産をしても、その債務を弁済する法的責任から免れることはできません。

上記のとおり、未成年だけが法的責任を負う場合でかつ未成年が支払えない場合、将来本人が経済的に厳しい状況となる可能性があります。

親としては非常に悩ましいですが、親に法的責任がない場合であっても、家族で話し合い、親が代わりに支払ったり、支払金額や支払方法について被害者側と協議する、ということも、現実的な選択肢の1つにはなってくると思います。


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(宮川 舞 : 銀座数寄屋通り法律事務所 弁護士)