市場はFRBの利上げ見送りを歓迎、アメリカの株価も総じて順調だが、落とし穴はないのだろうか(写真:ブルームバーグ)

今後のアメリカの株式市場はどうなるだろうか。まずは6月の最重要イベントだったアメリカの連邦公開市場委員会(FOMC、14〜15日)の内容から振り返って見よう。ひとことで言うと最近では例をみないほど、チグハグな内容となった。

経済見通し上方修正でも金利据え置きの「チグハグFRB」

大方の事前予想通り、政策金利であるFF金利の誘導目標こそ年5.00〜5.25%で据え置きとなり、市場は好感した。だが、一方で同時に発表されたFRB(連邦準備制度理事会)高官による金利予想(ドットチャート)は、今年度の金利予想が3月時点から0.5%、2024年の見通しも0.25%、それぞれ引き上げられるという「タカ派的な内容」となった。

SEP(Summary of Economic Projections)と呼ばれている経済予測でも、今年度のGDPの成長率の予想が中央値で3月時の0.4%から1.0%に、インフレ指標となるPCEコア指数(エネルギーと食品を除いて算出した個人消費支出)も3.6%から3.9%にそれぞれ引き上げられた。一方で、失業率は4.5%から4.1%に引き下げられるという、かなり強気の見通し修正が行われた。

当局は3月にSEPを発表した時点で0.25%、さらに5月のFOMCでも0.25%の利上げを行ったことを考えれば、今回6月のSEPで見通しを大きく引き上げたのだから、追加利上げも行って然るべきだった。にもかかわらず、今回は利上げを見送った。

ジェローム・パウエルFRB議長は声明発表後の会見で、「利上げの見送りは一連の利上げペースの鈍化の流れに沿ったものであり、当局はここまでの一連の金融引き締めの影響を見極めるため、より多くの時間を確保することができた」と、利上げ見送りの意図を説明したが、素直に納得できる向きは少なかったのではないか。

パウエル議長会見時の報道陣とのやり取りを聞いていても、どこかチグハグな内容のものが多かった。

パウエル議長は前述した経済見通しと実際の金融政策との矛盾を取り繕うことに追われ、方針を正確に市場に伝えるだけの余裕がなかったような印象を受けた。

「インフレは一時的な要因によるもの」とかたくなに言い張り、必要以上に緩和策を進めていた2021年前半までや、4会合連続で0.75%の大幅利上げを実施、性急な利上げで市場を驚かせた2022年でも、その方針の是非は別として、少なくとも当局が何をしたいのかは明確に伝わっていた。今回はパウエル議長がこの先どのような方向に進んでいきたいのか、その意図がほとんど見えなかった。

FOMC後の市場の反応は見ての通りだ。発表があった15日の「金利見通しの引き上げ」を悪材料視したのはほんの一瞬だった。その後、一時的に株式市場は調整したものの、結局ナスダック市場は6月末に年初来高値を更新した。

結局、FRBの警戒をほとんど無視する形で投機資金の流入が続いているということであり、市場の過熱やインフレ再燃への警戒感を緩めていないパウエル議長が、そうした展開を歓迎するとも思えない。FRBが市場をコントロールできていないのは明らかで、相場の反転にわく市場とは裏腹に、かなり深刻な状況に陥っていると考えておいたほうがよいのではないか。

何が今の株高を支えているのか?

それにしても、FRBが11回ぶりに利上げを見送ったとはいうものの、10会合連続で合計5%の利上げを行ったにもかかわらず、株式市場が依然として力強い回復を続けているのは、どういうことなのだろうか。

ごく単純に言えば、それだけ市場には資金が潤沢に残っているということだろう。昨年春からFRBは積極的に利上げを行い、同時に量的引き締め(QT)を進めることで、市場から資金を吸収しようとしている。だが、それでも市場はまだまだジャブジャブの金(カネ)余り状態にあり、株式市場にもかなりの勢いでマネーが流入しているというわけだ。

コロナ禍で停止してしまった経済を立て直すため、2020年春以降に行われたFRBによる急速な利下げや記録的なペースでの量的緩和、そして過去に例のない政府の財政出動が、度を越した金余りの状況を作り出したのは間違いない。こうしたジャブジャブの金余り状態が株価を高止まりさせ、経済の落ち込みを食い止めているということなのだろう。

実際、市場がどの程度ジャブジャブな状態(過剰な資金が滞留している)なのかを正確に把握するのは難しい。ここでは代表的な指標である「マネーストック」を使ってこれを検証してみたい。

FRBによると、ベンチマークとされるM2(現金と預金の合計であるM1に、小規模の定期預金やMMFなどを加えたもの)は、4月時点で20兆6731億ドルとなっている。M2自体はFRBの利上げや量的引き締めの影響を受け、昨年4月から徐々に減少傾向が強まっており、昨年12月以降は前年比でもマイナスの状態が続いている。やはり、資金は市場から着実に吸い上げられているのである。

秋にかけて余剰資金減少の影響が出てくる可能性も

だが、コロナ禍の影響が出始めた2020年3月時点と比べた場合では、まだ当時の水準を30%近く上回る水準にある。一般にマネーの伸びは、GDPの伸びをやや上回る程度のペースとなるのが普通だから、資金供給過剰の状態が続いているということだ。こうした潤沢な資金が背景にあるのなら、投機的な買いの勢いが依然強く相場をしっかりと押し上げているのも当然だと言える。

問題は、こうしたジャブジャブの状態が、いつまで続くのかだ。FRBも政策金利に関しては方針もフラフラとしているが、量的引き締め(QT)に関しては今のところブレてはいない。6月のFOMC声明でも、現在のペースでの縮小を続けることを明確に記している。

つまり、FRBは市場からの資金吸収を継続することで、M2も減少、いつしか余剰資金は市場から消え去るのは不可避だということだ。問題は、余剰資金が消えるのがいつごろになるかという点だ。ウォール街では、早ければ今後秋にかけて、余剰資金減少の影響が市場に出てくるとの見方もある。

FRBの方針に変更がない限り、市場は遅かれ早かれ資金減少や資金不足という問題に、直面することになる。追加利上げの可能性や利下げ転換のタイミングに一喜一憂するのもよいが、一方で市場から着実に流出している資金の流れにも、しっかりと目を光らせておく必要がある。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(松本 英毅 : NY在住コモディティトレーダー)