『熱狂マニアさん』でも紹介された伊勢湾岸道・刈谷ハイウェイオアシス(筆者撮影)

高松道・津田の松原SA(サービスエリア)の「さぬき肉うどんバーガー」、東名・浜名湖SAの「うなぎいもモンブランソフトクリーム」、伊勢湾岸道・刈谷ハイウェイオアシスの「ふくやのこぼれ明太子フライドポテト」……。

6月24日(土)夜にTBS系列で放送された『熱狂マニアさん』は、全国のSA/PA(パーキングエリア)グルメの特集であった。名前を聞くだけでもおいしそうなネーミングのメニューが次から次へと登場し、食欲をそそる場面が繰り返された。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

『熱狂マニアさん』は、ほぼ2週に一度、あるテーマについてのマニアが数人登場し、その熱烈な“ハマり具合”に密着する番組で、最近では「餃子の王将」マニアや総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」マニアなどが特集された。

サービスエリア特集では、SA/PAのハンバーガーを求めて、クルマの運転ができないにもかかわらず、公共交通機関とタクシーを駆使して全国を駆け回る女性や、運送会社の管理責任者が自らトラックを運転して、SA/PAの豚汁自慢をする様子などが描かれ、その力の入れようやセレクトされた選りすぐりのグルメに目を見張った。

筆者もソフトクリームマニアとして出演

筆者もこの番組スタッフから声がかかり、全国ほぼすべてのSA/PAを実際に訪れていることから、食べる機会が多いソフトクリームに絞ったマニアとして出演することとなった。

スタッフによると、まず30人ぐらいの候補者をリストアップし、実際に話を聞いたうえで、8人のマニアに出演を依頼したとのこと。


筆者が最近食べた九州道・玉名PAの不知火はちみつソフト(筆者撮影)

筆者は、ほぼ丸1日かかったスタジオでの収録当日だけでなく、吉備SA(山陽道・岡山県)、めかりPA(関門道・福岡県)、上述の刈谷ハイウェイオアシス(愛知県)などでのロケにも同行したし、クルマを運転する様子や大学での授業まで撮影されて、事実関係のチェックや事前の情報提供なども合わせると、膨大な時間と手間をこの番組に提供した勘定になる。

この番組に限らず、ニュース番組の特集コーナーなどでも、近年急激に進化しているSAの施設や飲食・物販を紹介するのをよく目にするようになった。

この傾向は、SA/PAに限らず、道の駅、鉄道の駅のエキナカ、デパ地下など、あらゆる施設におよび、毎日のように、タレントがご当地グルメや最新メニューに驚きながら食レポする様子を見させられている。

食べることが嫌いな人はいないだろうし、どんなタレントも、食レポのうまい下手はあっても、「食べて何らかの反応をする」ことはできるもの。演じるほうにとっても見るほうにとっても、最もお手軽なコンテンツが「全国各地の食べ物」であるのだ。


「鬼平犯科帳」の世界を再現した東北道・羽生PA(上り)(筆者撮影)

これが、地域の地形や歴史に切り込むような番組だと途端に出演者の力量が問われるようになる。NHKの『ブラタモリ』は、地理や歴史のみならず地質にも造詣の深いタモリだから成り立つ番組であって、並みのタレントでは務まらないし、もっといえばスタッフの側の力量も問われる。

『ブラタモリ』は、ロケに入る前の事前取材に2〜3カ月はかけているだろう。筆者自身もNHKのドキュメンタリー番組を長年、手掛けてきたので、番組を見ればどのくらい準備に時間(とお金)をかけているのかはおおよそ推察できる。その意味でも、グルメをテーマにした番組は、「お手軽」なのである。

“チコちゃん”では壮大な調査を行った

『熱狂マニアさん』の放送1週間前となる6月16日(金)には、NHKの『チコちゃんに叱られる!』という番組でも高速道路のSA/PAが取り上げられた。

この番組のコンセプトは、身近にあるけれど、よくよく聞かれるとうまく答えられない疑問を視聴者やゲストにぶつけて、その答えを専門家に解説してもらうというもの。SA/PAの回では、グルメではなく「なぜ、高速道路のSA/PAの駐車マスは斜めになっているのか?」という疑問を解き明かすことが主題だった。


わが国最初のSA、名神高速道路・大津SA(筆者撮影)

こちらの番組にも筆者は専門家として出演したが、実のところ、この疑問を解き明かすのは容易ではなかった。

というのも、高速道路が日本で最初に開通したのは60年も前で、そのころのことを知っている人はもう高速道路会社には在籍していないし、当時の日本道路公団がNEXCO3社に分割民営化され、当時の資料もおおむね散逸してしまっていたからである。

それでも、放送局に残る映像資料から、日本で最初のSAである名神高速・大津SA(滋賀県)では、開業当初から斜めの駐車マスであったことがわかったし、それと反対に1969年に全通した東名高速道路の開通式が、最後の開通区間である大井松田IC〜御殿場IC間にある足柄SAで挙行されたときの空撮映像から、足柄SAの駐車マスは斜めではなく、直角だったことが判明した。

どうやら、当初は地形やスペースの関係で必ずしも統一されていなかったようだ。


現在の足柄PAの駐車枠(写真:7maru / PIXTA)

しかし、斜めのほうが同じ面積でも駐車台数を増やせることや、斜めにすることで発進するときの方向を統一できることから逆走防止のメリットがあるため、現在では「SA/PAの駐車マスは斜め」が常識になっており、そのことを番組内で説明した。

SA/PAとテレビの相性は良好

鉄道や航空、あるいは自動車そのものは研究対象として専門家も多く、分野も細分化されているが、高速道路は構造や道路の敷設といった土木面、料金や渋滞といった運営面、そして『熱狂マニアさん』に代表される利用者サービスとしてのSA/PAなどの硬軟両面で多様な要素が絡むため、それを総合的に俯瞰する専門家があまりいないように感じる。「高速道路研究」は、まだまだニッチな分野なのかもしれない。 

ほかにも最近、筆者がかかわったNHKのSA/PA関係の番組では、2022年4月9日放送の『有吉のお金発見 突撃!カネオくん・劇的進化!“サービスエリア”の お金の秘密』、同年9月6日放送の『クローズアップ現代・密着!サービスエリア 巨大市場の舞台裏に迫る』などがあり、NHKだけでも定期的にSA/PAが取り上げられていることがわかる。

テレビ番組は、より多くの視聴者を獲得するため、どうしても大げさにあおったり、すでに手垢のついたところでも人気があるために何度も取り上げたりと、メディアとしてはインターネットの最新の情報には負けている面が多いが、影響力という点ではまだまだ一定の力がある。

放送直後には取り上げたグルメや土産品に客が殺到するという現象もいまだにあるようだし、まだ当面、高速道路がテレビ番組に登場する機会は多そうだ。

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)