鉄道と自動車の技術は同じ方向を向いている(どちらも筆者撮影)

鉄道と自動車は、それぞれ別々に開発された歴史があるので、両者の接点はほとんどない。そう思う人は少なくないだろう。

しかし実際は、鉄道と自動車にはさまざまな共通点があり、互いに影響し合った歴史がある。筆者は、鉄道と自動車の両方に関する書籍を執筆することで、両者に接点があることに気づいた。また、両者が同じ方向に向かって発達していることにも気づいた。本稿ではそれらの経験に基づいて、以下の3点について述べる。

(1)鉄道と自動車の共通点
(2)鉄道が自動車に与えた影響
(3)自動車が鉄道に与えた影響

駆動の電動化で共通している

まず(1)の「鉄道と自動車の共通点」についてだが、これは先述した通り存在する。両者はともに陸上の輸送機関であり、人や物を安全に運ぶという役割がある。つまり、輸送の目的においては、両者は共通しているのだ。

それに加えて近年は、車両の駆動の「電動化」を目指してきたという点で共通している。


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鉄道は、自動車よりも先に「電動化」を実現した。幹線を中心に電化を進め、蒸気機関車を廃止する代わりに電車や電気機関車を導入した。これによって煙やすすを排出し、保守に手間がかかる蒸気機関車が消え、無煙化と車両保守作業の効率化が図られた。

いっぽう自動車では、既存のガソリン自動車やディーゼル自動車よりも低燃費な自動車として、エンジンとモーターの両方を使って駆動するハイブリッド自動車が開発され、公道を走る存在となった。このことが足がかりとなって「電動化」の技術が磨かれ、モーターのみで駆動する電気自動車や燃料電池自動車が開発された。

電気自動車と燃料電池自動車は、走行中に大気汚染や地球温暖化の原因となる物質を排出しないため、ZEV(Zero Emission Vehicle:無公害車)とも呼ばれており、次世代を担う自動車として期待されている。

現在の自動車業界では、この「電動化」が開発目標の一つとなっている。欧州を中心に環境問題に対する意識が高まり、地球温暖化の原因として自動車が排出する有害物質(CO2などの温室効果ガス)が問題視されるようになったからだ。とくに2016年に「パリ協定」が発効され、温室効果ガスの排出削減目標が具体的に示されたことは、世界の電気自動車の販売台数を押し上げる大きな要因になった。

鉄道が自動車に与えた影響

次に(2)の「鉄道が自動車に与えた影響」を見てみよう。先ほど述べたように、鉄道は自動車よりも先に「電動化」を実現した。

現在、「電動化」した自動車では、インバータを用いて交流モーターを制御する技術や、コンバータと交流モーターを用いて回生ブレーキを作動させる技術が使われている。これらは、メンテナンスフリーと、エネルギー消費量の節減による航続距離の延長を実現するうえで欠かせない技術となっている。

これらの技術は、鉄道の電車で先に実用化された。このことから、電車で先に実用化されたからこそ、自動車の「電動化」が容易になったと考えられる。

鉄道が自動車よりも先に実現したのは「電動化」だけではない。現在世界の自動車メーカーが実現を目指している「CASE(ケース)」も、鉄道は先に実現している。

ここでいう「CASE」とは、「Connected(接続性)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアとサービス)」「Electric(電動化)」の頭文字をとった言葉である。もともとはドイツのダイムラー(現メルセデス・ベンツ・グループ)が2016年のパリモーターショーで発表した中長期の経営ヴィジョンだったが、他の自動車メーカーが目指すコンセプトと合致していたため、今では世界の自動車業界がこの言葉を使うようになった。

では、「CASE」がどのようにして鉄道で先に実現したのか。それぞれ見ていこう。

最初の「接続性」は、鉄道では列車無線によって実現している。列車無線は、列車の乗務員(運転士や車掌)と指令所の指令員を常時結ぶコミュニケーションツールであり、両者が情報を交換することを可能にしている。

近年は、JR東日本で使われているINTEROS(インテロス)のように、電車などの車両の機器の状態を地上側から遠隔で監視できるシステムも導入されており、より詳細な情報を共有できるようになっている。つまり、電車が自動車におけるコネクティッドカーのように、情報網と常時接続するIoT端末として機能するようになったのだ。

「自動運転」は、鉄道で早期に実現している。鉄道では、車両の進路があらかじめ決まっていることもあり、「自動運転」が導入しやすいからだ。列車に乗務員が乗らない完全自動運転による無人運転は、1981年に神戸で開業した新交通システム「ポートライナー」で、世界で最初に実現した。

「シェアとサービス」は、もともと鉄道で実現していたものだ。鉄道は、施設の規模が大きすぎて個人による所有が難しいため、不特定多数の旅客がシェアする公共性の高い交通機関として機能しており、鉄道会社が旅客に輸送サービスを提供している。

最後の「電動化」は、先述した通り、鉄道で先に実現した。鉄道は、車両の進路が厳密に決まっているため、外部から電力の供給を受けるしくみ(集電システム)を導入しやすいことが大きく関係している。

以上のことから、「CASE」は自動車よりも鉄道で先に実現したと言える。それゆえに、2021年に開催された「鉄道技術展」では、複数の講演者が「CASEの実現は鉄道が先」「自動車が鉄道に近づいている」と述べていた。

自動車が鉄道に与えた影響

最後に(3)の「自動車が鉄道に与えた影響」を見てみよう。

自動車で実用化された技術の中には、鉄道に応用されたものがある。その代表例がハイブリッド技術と、リチウムイオン電池や燃料電池を電源として搭載する技術だ。

これらの技術は、自動車で先に実用化された。一般販売された乗用車において、エンジンとモーターの両方を使って駆動する世界初の量産型ハイブリッド自動車は、1997年にトヨタ自動車が販売した「PRIUS(プリウス)」、大容量のリチウムイオン電池を電源とした世界初の量産型電気自動車は、2009年に三菱自動車が販売した「i-MiEV(アイ・ミーブ)」、燃料電池を搭載した世界初の量産型燃料電池自動車は、2014年にトヨタ自動車が販売した「MIRAI(ミライ)」である。

こうした自動車の動きに、鉄道技術者も反応したはずだ。なぜならば、これらの技術を導入して温暖化効果ガスの排出量を削減することは、自動車のみならず、鉄道にも共通する課題だからだ。

こうした流れで開発された鉄道車両に「NEトレイン」がある。「NEトレイン」は、2013年にJR東日本と鉄道総研が共同で開発した試作車であり、ハイブリッド技術や、リチウムイオン電池や燃料電池を電源として搭載する技術が導入され、走行試験が実施された。

その結果実用化されたディーゼルハイブリッド気動車と、大容量のリチウムイオン電池を搭載した蓄電池電車は、2007年にJR小海線、2014年にJR烏山線の営業列車にそれぞれ最初に導入された。現時点では、ディーゼルハイブリッド気動車はJR東日本・JR西日本・JR東海、蓄電池電車はJR東日本とJR九州の営業列車に導入されている。

いっぽう燃料電池を電源として搭載した燃料電池ハイブリッド鉄道車両(以下、燃料電池電車)は、すぐには実用化に至らなかった。

そこでJR東日本は、2022年に日立製作所やトヨタ自動車と共同で「HYBARI(ヒバリ)」と呼ばれる燃料電池電車を試作し、現在走行試験を行なっている。この「HYBARI」には、トヨタ自動車が開発した「MIRAI」などの燃料電池自動車で培われた燃料電池や、燃料となる水素を貯蔵する水素貯蔵タンクの技術が導入された。

もし燃料電池電車を営業列車に導入できるようになれば、蓄電池電車が対応できない長距離の非電化路線の脱炭素化を実現するだけでなく、既存の電化路線における電気設備の省略が実現する。それらは地球環境問題だけではなく、生産年齢人口の減少にともなう労働者不足の問題を解決すると期待されている。

鉄道と自動車は同じ方向を向いている

このように鉄道と自動車の接点を探ると、両者にはさまざまな共通点があり、互いに影響し合っていることがわかる。


また、温暖化効果ガスを削減するという点では、両者は同じ方向を向いていることもわかる。

鉄道にとって自動車は、かつては存在を脅かすライバルだった。しかし今は、鉄道会社と自動車メーカーが互いに協力し合う時代だ。

今後は、鉄道業界と自動車業界が歩み寄り、ともにモビリティ革命(変革)を乗り越えるうえでのパートナーとして協力し合うことで、環境に配慮しつつ、より快適に移動できる社会が実現することを期待したい。

(川辺 謙一 : 交通技術ライター)