同じ言葉や状況でも、受け取り方次第で気持ちを変えることができます(写真:mits/PIXTA)

誰かのためにがんばりすぎて、疲れてしまっていませんか?

例えば、子どものため、家族のためにがんばっているお父さん、お母さん。あるいは職場で、部下のため、同僚のため、チームのみんなのために、一生懸命で献身的な人――。

一生懸命だったり、周りに気を配れたり、誰かのためにがんばれる人は素敵な人です。でも、がんばりすぎてしまって自分が倒れたり、つぶれてしまったら、あなたがもったいない。精神科医・藤野智哉さんは、「もっと自分のことを気にしてあげましょう」と言います。同氏の新著『「誰かのため」に生きすぎない』より一部を抜粋し再構成のうえお届けします。

「がんばって」と言われたとき、どう思う?

目の前の人を「うるさい人だ」と思うか「にぎやかな人だ」と思うかで世界は変わったりします。

「がんばって」と言われたとき、あなたはどう思いますか?

「期待されてるんだな」「よしがんばろう」と思えるならいいのですが、「この人、私にプレッシャーかけてる」「全然できてないと思われてるのかな」とマイナスな方向に思考が向かうときは、ちょっと気をつけたほうがいいです。

同じ言葉を聞いたときに、どのように認知するかで、自分の状態はある程度わかったりします。

「他人の得」を「自分の損」のように感じるときは、自分が満たされていないサインかもしれません。

「認知」が悪いほうに傾いている、つまり調子が悪いのかもしれません。

「認知」とは、出来事や情報を認識、理解する心の動きをいいます。この「認知」は人それぞれ違います。

もっというと「同じ人」でも、「状況」によって認知は変わってきます。

何をしていても楽しそうで、幸せそうな人って、実は特別な世界に生きているわけではないんです。

すごくシンプルな言い方をしますが、「幸せ」って、世界のいたるところにいっぱい落ちていて、そこで幸せばっかり探しているか、不幸ばっかり探しているかってだけの話なんだと思うんです。

同じ景色を見ていても、幸せを感じる人もいれば、何も感じない人もいる。受け取る姿勢だけだと思うんですよね。

だから「認知」や「受け取り方」を変えると、けっこうたやすく世界は変わって、幸せを感じやすくなったりします。

「認知」や「受け取り方」を変えることを「リフレーミングする」といいます。

「リフレーミング」は、よく「言葉の言い換え」でも使われます。同じことをポジティブな言葉で表現するのです。

例えば、目の前の相手を「うるさい人だな」って思ったときに「にぎやかな人だな」と言い換える。

これを、「考え方」や「ものの見方」などにも広げて、ポジティブな認知をすることで世界は変わっていくんですね。

電車で子どもが騒いでいる光景を見て、「親のしつけがなっていない」と不快に思う人もいれば、「元気でかわいいわね〜」とほほえましく思う人もいるでしょう。

上司から突然仕事をふられたときに、「仕事がふってきたよ、憂鬱だなぁ」と思う人もいれば、「終わったら、そのあとの酒がうまいだろうな」って思う人もいます。

「自分の認知を変える」ことができたらラクになる

同じ状況であっても、受け取り方は人それぞれ。

別に人と違ってもいいし、違うのは当然ですが、もしも「何かしんどいな」と思うなら、自分の「認知」を疑ってみるのはどうでしょうか。

「生きづらい世の中だ」と思ったとき、世界の見え方、とらえ方を決めているのは、実は自分自身だったりします。

「自分の認知を変える」ができるようになったら、いろいろラクになると思います。

例えば「自分は友だちが少なくて不幸だな」と思っていた場合、その「友だちが少ない人は不幸」という認知を疑ってみます。

「どうして友だちが少ないと不幸だと私は思うんだろう?」というような疑問を自分に投げかけてみて、考えてみます。

「たしかに私は友だちの数は少ないけど、でも、その友だちと過ごす時間はすごく楽しいよなぁ。不幸って感じはしない」「友だちが少ないけど、すごく幸せそうな人も世の中にはけっこういる」

こんなふうに、自分の「友だちが少ない人は不幸」という「認知」について考えているうちに、自分の思い込みに気づけるのではないでしょうか。

その思い込みは、自分が実際に感じたことではなく、まわりの人や世間の感情や思考が勝手に入り込んでいたということもあるのです。

学生時代に同級生たちと「友だちが少ない人って、なんかかわいそうじゃない?」という話で盛り上がっていたり。

メディアによくある「友だちが多いと、人生が豊かになる」みたいなメッセージをまっすぐに受け取ってしまっていたり。

そんな自分以外の誰かの認知をそのまま受け取って思い込んでいたりするのです。

自分の「認知」を疑ったり、ひもといていくうちに、認知を変えていくことができます。すると「自分は実は幸せだったんだな」と気づいたりするんですよ。

ポイント:自分の「認知」をひもといてみる

「べき思考」を疑う習慣

自分の「べき思考」に気づいて、自分にも相手にも期待しすぎずいきましょう。

「認知」について、もう少しお話ししますね。

偏った認知を続けていると、考え方のクセとなってしまうことがあるので要注意です。

考え方のクセは、「認知のゆがみ」と呼ばれるものも含め特徴的なものがいくつかあります。

それらを知っているだけでだいぶ違います。知識をもっておくだけでも、変化が起きると思います。

よくない考え方のクセの1つに「べき思考」があります。

例えば、世の中には「女性は結婚して子どもを産むべき」「上司のどんな指示にも従うべき」「子どものために親は自分のことを我慢すべき」「人は努力して向上すべき」などなど、いろいろな「べき」が存在します。

本心から「結婚したい、子どもを産みたい」とか「上司のどんな指示にもついていきたい」と思うのならいいのですが、まわりの人や世間の価値観に影響されているだけのこともあったりします。

それなのに、「べき思考」にとらわれて「結婚しなきゃ、子ども産まなきゃ」とあせったり、「あんな厳しいことを言う上司の下で働き続けられるかな。転職しようか。でも、転職できるかわからないし」などと思い悩むわけです。

だから、自分の「べき思考」を疑う習慣をもちたいですね。

例えば、「結婚すべきってよく言われるけど、私って本当に結婚したいのかな?」とか「上司の言うことには従うべきかもしれないけど、いくら上司とはいえ、こんな厳しい仕事に耐えなきゃいけないのかな?」と自分に問いかけてみるのです。

すると、「本当は仕事をがんばって自立した人間になりたいかも」とか「上司の指示より自分の心や体調のほうが大事かもしれない」と、「べき思考」の向こうにある本心に気づけたりします。

「べき思考」は自分だけじゃなく、相手に向けられることもあります。こちらも注意が必要かもしれません。

「デートなのに割り勘だなんて」と不満に感じる場合は、「男の人が多く出すべき」という「べき思考」を相手にぶつけているのかもしれません。

他人にイライラしたり、がっかりしたりしてしまうときは、自身の「〜するべき」を他人にも「期待」として無意識に押しつけてしまってるときだったりします。

ですが、自分だって他人の期待どおりには動かないように、他人は自分の思いどおりには動きません。

自分にも他人にも「べき思考」を疑って、なるべく減らしていきたいですね。

そして、「べき思考」から自由になるためにも、「〜すべき」という言葉は極力使わないようにしてみましょう。

ポイント:自分の中の「べき思考」を疑ってみる

「絶対、うまくいかないと思う」を使っていませんか?

「いつも」と「絶対」はなるべく使わずに、会話していけたらいいですね。

「〜すべき」と同じように、なるべくなら使わないようにしたい言葉があります。

「いつも」「絶対」「100%」などです。

例えば次のようなフレーズを言っていませんか?

「私、こういうとき、いつも失敗するのよね」
「絶対、うまくいかないと思う」
「100%私が悪い」

数回起こったことを、まるですべてにおいて起こるかのように認知することを「過度の一般化」といいます。

次は成功するかもしれないし、別のことならうまくいくかもしれないのに、「すべてがうまくいかない」と言いきるのは、正しい認知とはいえないですよね。

失敗したときに「私っていつもうまくいかない」なんて思っていると、「私ってダメな人間」と落ち込む元になってしまいます。

本当に「いつも」でしょうか。「うまくいったこと」もあるのではないでしょうか。「私っていつもうまくいかない」と思ったときは、「それって本当?」と疑ってみてください。

そして「うまくいったこと」を探してみるのです。小さな「うまくいったこと」でも全然OKです。


すると、「いつも」じゃないんですよね。

人間関係においても、「いつも」と「絶対」はあんまり使わないほうがいいです。

例えば、パートナーに「あなたっていつもそう!」と言ったら、ちょっとまずい。だって10回中10回じゃないかもしれない。10回中10回だったとしても、次の11回目は違うかもしれない。

相手が「申し訳ないな」と思っていたとしても、「いつもじゃないだろ」という戦闘モードに入ってしまうことにもなりかねません。

友だちに何か言ったとき「絶対そう言うと思った」なんて返されたら、「絶対って言えるほど、私のこと知ってるの?」とカチンとくることありませんか?

「『絶対』なんてなんでわかるんだ」ってなっちゃうこともあります。

「いつも」「絶対」「100%」など過度に一般化せず、あるがままの状況をとらえてほしいと思います。

ポイント:「うまくいったこと」を探してみる

(藤野 智哉 : 精神科医)