北海道地盤のツルハHDはドラッグストア業界2位。M&Aで規模拡大を続けてきた(撮影:梅谷秀司)

「ツルハを変えましょう。より良いガバナンスのためにオアシスの提案に賛成票を投じて下さい」

6月22日、「モノ言う株主」として知られる香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントは、ドラッグ業界大手のツルハホールディングス(HD)に対する株主提案の特設サイトを公開した。

「ガバナンス上の重大な欠陥があり、成長が妨げられている」と主張する、98ページにわたるオアシスの資料では、経営環境からツルハHDの内部事情まで事細かに調べ上げられている。株主に対してツルハHD側が提案し得る既存社外取締役再任への反対票と、オアシスの提案への賛成票を呼びかける。

ツルハHDはこれまで、2020年に九州地盤のドラッグイレブン、2018年に愛知県地盤のビー・アンド・ディーなど中堅ドラッグストアの買収を繰り返しながら規模を拡大してきた。傘下にはくすりの福太郎やレデイ薬局などもある。

子会社含めたガバナンスを指摘

現在、ツルハHDの社内取締役6人のうち4人が創業家出身だ。会長は創業家3代目の鶴羽樹氏が、社長は会長の次男である鶴羽順氏が務めている。残る2人は、くすりの福太郎の小川久哉社長、ツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本の村上正一社長となっている。買収子会社でも創業家による経営が継続している。

オアシスは「父親である会長が、息子に対して適切な監督を行えるのか」と懸念を示す。社外取締役についても、創業家との家族ぐるみの関係性や、北海道財界内の「馴れ合い人事」で選出された可能性があると指摘する。

オアシスの資料では、ツルハHDの子会社であるくすりの福太郎は、過去に調剤報酬の不適切な請求等が発生したものの、ツルハHDへの報告が約2年間されてこなかったことにも触れている。当時社長だった小川久哉氏は2015年に社長職から更迭されたが、翌年には復帰していることから小川家の権力も強く、子会社の管理が行き届いていないのでは、と問題視する。

株主提案では、鶴羽会長の退任や、会長職を廃止する定款の変更を要求。自らが推薦する社外取締役5人の選任や、取締役会の議長を社外取締役から選出することも求め、経営陣の抜本的な入れ替えを狙う。

オアシスは「経営陣が自身の保身を優先して、事業統合を通じた企業価値の向上について適切な検討を行えていない可能性がある」と批判する。2021年10月に経営統合し営業利益率が大幅に改善したマツキヨココカラ&カンパニーを引き合いに「大手同士の経営統合が必要」と主張する。

「ツルハHDは創業家の比率が低く、脇が甘かった」「1年前、オアシスに迫られたフジテックの状況と同じ。持ち株比率をここまで高められては厳しい戦いになる」(業界関係者)との声が上がる。

オアシスのツルハHDに対する持ち分比率は12.8%。機関投資家などが賛成に回れば、オアシス陣営は3分の1を超え、13.3%を保有するイオンも賛同すれば過半数を超えるところまで追い込まれている。対してツルハHDの創業家側の持ち分比率は1割以下と、オアシスの株主提案を否決に持ち込むための壁は高い。


なぜツルハHDが狙われたのか

M&Aに頼らず自力出店で業界4番手に成長したコスモス薬品の場合、創業家側の持ち分比率は4割程度となっている。業界3位のマツキヨココカラはツルハHDと同様に10%以下と低いが、時価総額はツルハHDの2倍もあり割安感が薄い。最大手のウエルシアHDはイオン子会社だ。株主構成や時価総額ともに中途半端なツルハHDが、オアシスに狙われた格好だ。

6月26日に開催された決算会見でツルハHDの鶴羽社長は、株主提案の内容について「事実かどうかも含めて取締役会で議論後、発表する」と言及を避けた。大株主であるイオンとの関係性についても「今まで通り会議などには参加しており、以前と変わらない」と述べるにとどめた。

M&Aについては「これまで通り検討する。地域の補完が理想的だ」(鶴羽社長)と語る。現在、北海道、東北、関東甲信越に集中するツルハHDの店舗網を考えると、北陸地盤のクスリのアオキHDや、中部基盤のスギドラッグの店舗網が空白地帯と重なってくる。


6月26日の決算説明会でツルハHDの鶴羽順社長は、オアシスの株主提案に対する言及を避けた(記者撮影)

買収相手の条件としては「コスト感覚など価値観が合うか、企業価値を高めるシナジーが出せるかなども重視する。大手同士の統合はそれなりにシナジーが出ると思うが、商品構成比などが違うから一概には言えない」(鶴羽社長)と慎重だ。

もしオアシスの株主提案が可決されて経営体制が変更された場合、ツルハHDの同族経営は変革を迫られることになる。イオン子会社で業界最大手のウエルシアHDとの経営統合となれば、創業家の存在感が薄まることは避けられないだろう。

オーバーストア状態で出店を厳格化

ドラッグストア業界は出店競争が過熱し、ツルハHDの主戦場である郊外店を中心に客の奪い合いが激化している。オーバーストア状態で採算性低下が指摘される中、ツルハHDは2025年5月期に向けて「収益力改善」を最優先課題に掲げる。

不採算店舗の撤退や好採算のPB(プライベートブランド)の売上構成比を増やしたことで、前2023年5月期の営業利益は前期比12.3%増の455億円となった。コロナ特需に沸いた2021年5月期の483億円には届かないものの改善傾向にある。今2024年5月期は出店126を計画し、2022年5月期の出店159から厳格化している。

M&Aによる規模拡大で業界2位へとのし上がってきたツルハHDだが、売上高1兆円間近にしてオアシスと対峙することになった。株主提案にどう対応するのか、ツルハHDの一手に注目される。

(伊藤 退助 : 東洋経済 記者)