ビジネスでは法律の知識は必要。コンプライアンス違反は致命的な打撃となる。

社会変化に伴って、ごく普通のビジネスパーソンが法的なトラブルに巻き込まれり、会社でトラブルの対応に追われるケースが多くなってきた。『週刊東洋経済』7月3日発売号では「生き残るための法律術」を特集。こうした時代にビジネスパーソンが必要な法リテラシーや法知識をまとめた。


グローバル化、副業などの企業間交流の活発化、AIを含めたDX(デジタルトランスフォーメーション)など、ビジネス環境は急速な変化のただ中にある。ビジネスの「常識」も刻々と変化する。これらに無知であると、いつの間にかコンプライアンス違反となり、企業やビジネスパーソン本人が大きなダメージを被ることにもなりかねない。そこで本稿では、個人や企業に必要なリスクマネジメントをまとめた。 

コンプライアンス問題は「個人の起こす個人の問題」と、「個人と集団が起こす企業の問題」に大別される。

個人が起こす問題として、まず金銭に関わるコンプライアンス違反がある。取引先と示し合わせ、上乗せした金額を自社に払わせて増額分を受け取る「キックバック」や、会社のお金を勝手に使い込む「横領」などが代表的だ。

必ず明るみに出る

これらは誰にも知られないと思っていても、内部監査や税務調査などで必ず明るみに出る。詐欺罪、業務上横領罪、背任罪といった犯罪行為に該当する。

「誰もがやっている」などと誘われても応じない意識を持つことが必要である。パワハラ・セクハラなど人間関係のトラブルも、さまざまな業界の人がクロスオーバーして働く今の時代に起こりやすい。例えば男性ばかりの業界から別の業界に中途採用で入った場合など、自分では普通の発言のつもりが、周囲から見るととんでもないセクハラだった、ということはよくある。

そして個人が容易に情報発信できる今、情報のハンドリングにも最大限の注意を払う必要がある。

「出張で○○県に来ている」などとSNSにアップすると、他社との取引関係を外部に推察されるおそれがある。違法ではないが、企業に損害を与えかねないため、社内で処分される可能性もある。

また今は副業もオープンになっている。副業の仕事先で、本業の企業情報をうっかり漏らしてしまわないよう注意したい。


企業によるコンプラ違反

「個人と集団が起こす企業の問題」として、昔から変わらず起こり続けているのがデータ偽装だ。

コストを下げるために、定められた品質基準や求められる性能に達していない商品を納品してしまう。過去から慣習的に行われ、いつどうやって幕引きをすればよいかわからない状態になっている。こういうケースは結構多い。

仕様書に記載した品質を満たしていない商品を販売した場合は、不正競争防止法の虚偽表示に当たる可能性がある。また取引先に告げずに納品すると、債務不履行として取引先に損害賠償を行う必要が生じる。さらに、競合となる企業から営業上の利益を侵害されたとして訴えられる可能性もある。

データ偽装が発覚したときには、取引先など関係者への謝罪を行い、公表する。さらに、ほかのデータ偽装が行われている可能性も高いため、社内を徹底的に調査することが重要だ。

「下請けいじめ」もコンプライアンス違反である。例えば無理なコストダウンを迫るなど、下請けの企業に不当な要求をすると、下請法違反になる。下請けとなる企業には中小企業庁などが実態調査のアンケートを行っているほか、SNSもあり、問題が発覚しやすくなっている。「下請けは親会社の言うことを聞くもの」という意識があるのであれば、改めるべきである。

そのほか近年多発しているのが知的財産に関するトラブルである。知的財産には個人情報や営業秘密も含まれる。機密情報のランクづけを行い、しっかりと管理しなければならない。

組織の問題としては、今も多発している雇用調整助成金問題など、補助金の違法な取得がある。これははっきりと刑法の詐欺罪に当たる。サービス残業など労務管理の問題も根強く残っている。サービス残業の強制は労働基準法違反であり、罰則の対象となる。違反企業は厚生労働省のホームページに掲載されるため、企業イメージ低下につながる。


(イラスト:郄胗浩太郎)

以上のようなコンプライアンス問題を起こさないために、個人と組織の双方とも対策が必要だ。

まず何が問題となりうるのか、最低レベルの知識を押さえておくのは基本となる。例えばパワハラ・セクハラに関しては、国のガイドラインなどもまとめられている。インターネットで検索する、参考書を読むなどするとよい。

知識は個々の社員にとっては、コンプライアンスに抵触する業務を命じられた際の自衛策ともなる。「○○法に引っかかりませんか?」「まずそうなので、念のため法務部に確認します」などと言えるようにしておきたい。

ルールを明確にて社内で共有

組織としては、ルールを明確にし、社内で共有することが肝要だ。例えば相手によっては、何がパワハラ・セクハラになるか、何が企業秘密の漏洩に当たるのかの具体的な説明が必要となってくる。

そして基盤となるのが、しっかりとした内部統制の整備だ。

横領などは行った本人が悪いのは間違いないが、そもそも個人が誰にも知られずお金や取引金額を管理できる体制に問題がある。必ず他者がチェックするなど、1人で完結できないような業務プロセスを整備しておくことで、トラブルやミスを防げる。属人的になってしまわないよう、随時、担当者を入れ替えなければならない。


最後に、組織がコンプライアンスを徹底するうえで肝要なのが「懲罰」と「評価」である。違反があれば懲罰を行い、内外に発表する。これにより「コンプライアンスを徹底する企業」として、社員の意識が高まり、企業イメージも保たれる。さらに「評価」は、「誰が出世するか」であり、組織においては重視されるべき要素である。コンプライアンスに問題のある人物が出世すると、「ルールを守っても意味がない」という雰囲気になり、いくら体制を整えても、組織内のコンプライアンスが正されなくなる。


(秋山 進 : プリンシプル・コンサルティング・グループ 代表取締役)