「私が一番好きなのに…」推し来日で生まれる悲劇
海外の「推し」にメッセージを伝えられる……そんな千載一遇のチャンスを無駄にしないよう、「埋もれない英語のメッセージ」を考えておきましょう(写真:Graphs/PIXTA)
もし、全力で応援している「推し」が目の前に現れたら――。そんなことも、夢ではないかもしれない。コロナが明け、満を持して開催されるファンイベント。海外からも大物が続々と来日を決めている。大切な「推し」にメッセージを伝えられる、そんな千載一遇のチャンスを無駄にしないよう、「埋もれない英語のメッセージ」の例を英語教師のデイビッド・セイン氏『10年ぶりの英語なのに話せた! あてはめて使うだけ英語の超万能フレーズ78』から一部引用、再編集してお届けします。
「推しに英語でメッセージを」と言われたら
Netflixで放送中のアニメ『【推しの子】』が話題です。
Twitterのワールドトレンドランキングで1位になり、YOASOBIが歌う主題歌は米ビルボードで首位を獲得。日本語の曲で初の快挙だそうです。
日本が大好きな私にとって、こんなにうれしいことはありません。日本のカルチャーは、本当に素晴らしいです。
それと同時に、「推し」という文化もとっても興味深いと思っています。
ファンとしてアーティストを応援するというのは昔からありましたが、ここまで熱烈に、そして多くの人にその行動が一般化したのは初めてではないでしょうか。一昔前までは、人知れずひっそり応援する、みたいな感じだったと思うのです。
それが今、動画で見る、ライブに行く、グッズを買う、想いをSNSで発信する、直接コメントやリプライで声をかける、ファン同士でつながる。そんなことができるようになっていますね。
「推し」の力は、すごいです。会ったこともない相手を本気で想って、自分まで元気になれる。これこそ究極の応援だと思います。
応援する相手はなにも、国内アイドルだけにとどまりません。海外に大切な「推し」がいるという人も多いでしょう。
遠い海の向こう、モニター越しで応援する相手。
そんな相手と直接会えるチャンスが、広がり始めています。
コロナが落ち着き、大物芸能人の来日の予定が続々と発表されはじめました。少女時代やBTS、テイラー・スウィフトなどに、直接会えるチャンスが到来しているのです。
韓国発祥の「ファンミ」ことファンミーティングや、東京で開催される世界最大のカルチャーイベント「コミコン」などは、その一例です。
大好きな「推し」と会うことができる最大のチャンス。そこではなんと、直接会話をすることができたり、突然その場でカードが配られて「(英語で)メッセージを書いて」と言われたりすることがあるそうです。
そんな絶好のチャンスに、言葉が出てこず、「誰よりも好きなのに伝わらない」ということになったら大変です。家に帰って「ああ言えばよかった」と頭を抱えても、後の祭り。
言ったことに後悔するばかりか、まごまごしているうちに次の人の番になってしまったとなれば、一生後悔するかもしれません。
では、いっそのこと「アイラブユー!」と叫んでいればいいでしょうか。
たしかに、それも一理あります。
でも、周りを見てみてください。あなた以外の人も、ほぼ全員が同じような言葉を発していませんか?
それでいいのでしょうか。
あなたの思いは、そんなありきたりな、「その他大勢」と同じ程度のものだったのでしょうか。
全身全霊をかけて応援するということは、とても中途半端な気持ちではできないことです。
本気で好きで、ずっと前からその日を楽しみにしてきた、そんな自分の気持ちを蔑ろにしてはいけません。
来る人来る人「アイラブユー」。
そんな中、もしあなただけが「会えて本当に嬉しい。新曲最高だったよ!!」と、伝えられたら。
間違いなく、あなたの言葉は相手に届くはずです。
「相手がわかる言葉」で話すことは最大の敬意
自分の母国語ではなく、相手の言葉で伝えようと思うとき、そこには確かな思いやりの気持ちがあります。自己満足ではなく、相手に喜んでほしいからこその行動ですよね。
そんなとき起こりがちなのが、「なかなか言葉が出てこない」という現象。
適切な表現を悩むあまり、時にそれが悲しい誤解を生んでしまうことがあります。
なぜなら、英語圏では黙っていることは必ずしも美徳ではなく、「黙っている=意見がない、もしくは興味がない」と受け取られてしまうからです。
たとえば、嬉しい気持ちを伝えたいのに口ごもってしまい、機嫌が悪いと思われてしまった、質問があったのにテンポよく聞けず話したくないと思われてしまった、などです。
私がふだん教えている英会話教室でも、似たようなことがよく起こります。
せっかく教室に来てくれたのに、なかなか口を開いてくれない。イヤなのかな、と悲しくなりますが、根気強く「間違っても大丈夫だよ」と声をかけると、英語を話し始めてくれます。そのあと無事に話が弾んで、実は最初に言葉が出なかったのは緊張していたからだ、と判明するのです。
英会話教室の場合は、数十分間あるからそれでいいかもしれません。ですが、「推し」の場合は一瞬です。少しでもためらったら、チャンスを逃してしまうかもしれない。
ここで、マインドチェンジが必要です。
悲しい誤解を生まないように、おそれず言葉を発するのです。
このとき、発音がいいかどうかは考えなくて大丈夫。
なぜなら、英語の「正しい発音」はあってないようなものだからです。
日本には「標準語」という概念がありますが、アメリカをはじめ、多民族国家にはそれがありません。一人ひとりのルーツによって、発音はさまざま。でも、どの英語も正しいし、間違いではないんです。
それに、母国語ではないのに頑張って話してくれたら、発音以前に感激します。
これは逆の立場になってみたらわかりやすいと思います。アメリカ人に日本語で話しかけられたとき、ちょっと発音が不自然だからといって、イヤな気分にはなりませんよね。
ましてや、あなたの「推し」がたどたどしいながらも日本語を話してくれたなら、もうそれだけでうれしい気持ちになりませんか?
それとまったく同じことです。
「言い出し」にすべてをかけろ
さあ、心構えまでできました。あとはもう、想いを伝えるだけです。
ためらわずに言うことが大切だとお伝えしましたが、では、簡単な単語を連呼していればそれでいいのでしょうか?
それは「NO」。それこそ、失礼になってしまうおそれがあります。
シンプルで、かつ、あなたの想いをしっかり伝えてくれる英語が必要です。
実は、伝わるかどうかは9割、「言い出し」にかかっています。なぜなら、英語の言い出しというのは「話の意図」が表れていることが多く、それがわかれば一発で会話になるからです。
たとえば、「Can I have 〜」と言われたら「あ、なにかほしいんだな」、「Thanks for 〜」ときたら「お礼を言ってくれているんだな」とわかります。これだけで、誤解されてしまうリスクがぐっと減るのです。
実際にアメリカでは、カフェで「Can I ……」と言うだけでストローを差し出してくれる、ということがよくあります。
つまり、言い出しに使える「万能フレーズ」をいくつか覚えておいて、とっさのタイミングでも出てくるようにしておくのが一番いい方法と言えます。
ここではすべて紹介しきれないのですが、たとえば、
「〜で感激です」という意味の「It’s great to〜」というフレーズを覚えて、「It’s great to see you!!」(あなたにお会いできて感激です!!)と伝える。
「〜にかなうものはない」という意味の「Nothing beats 〜」というフレーズを覚えて、「Nothing beats your dance!」(あなたのダンスは最高です!)と伝えてみる。
など、いろいろな使い方ができます。
これなら、難しい単語や長い文章を覚えなくても、あなたの想いを的確に伝えることができますね。
外国語を学ぶときに大切なのは、熱意です。「想いを伝えたい」ということが、何よりの原動力になります。
だから私は、海外に「推し」がいる人は、英語を話す才能がすごくあると思っているのです。
こう言ったら、相手はどんな反応をするだろう、喜んでくれるかな。そんなふうに想像しながら練習する。その時間は間違いなく、「推し」のことを考える楽しい時間になるでしょう。
『【推しの子】』は、「推し」に認知されたことから物語が動き出しました。
ぜひみなさんも、万能フレーズを身につけて、貴重なチャンスをつかみ取ってください。
(デイビッド・セイン : 英会話教室「A to Z English」代表)