テスラの超急速充電器スーパーチャージャーを採用する自動車メーカーが増えている。北米では事実上の標準規格になった(写真:テスラ)

2030年には完全なBEVメーカーとなることを宣言しているボルボ・カーズは6月27日、テスラとアメリカ、カナダ、メキシコの北米地域でテスラが展開している1万2000基の超急速充電器「スーパーチャージャー」を使用できるよう合意したと発表した。

現在、販売しているBEVの「C40 Recharge」「XC40 Recharge」「EX90」に最新の「EX30」は、どれもCCS(Combined Charging System)規格の充電ポートを備えており、これらの車両についてはアダプターにて対応する。


ボルボ・カーズは、ヨーロッパの自動車メーカーとして初めてテスラの充電規格を採用(写真:ボルボ・カーズ)

さらに、2024年上半期からは同地域で販売するBEVに、CCSに代わって、テスラの規格であるNACS(North American Charging Standard:北米充電規格)の充電ポートを標準装備するという発表もあった。CCSには逆にアダプターで対応するという。

実はそれに先立つ5月25日はフォードが同じように、2024年よりフォード製BEVがテスラのスーパーチャージャーを利用できるようになり、2025年以降に発売されるモデルはNACS規格の充電ポートを備えることになると発表。さらに6月8日には、GMもやはり同じ内容の発表を行っている。

6月20日には、アメリカのBEV専業メーカーで、かつては次のテスラと呼ばれたリヴィアン オートモーティブもこれに追従していたが、ヨーロッパメーカーでこの流れに乗ったのは、ボルボが初となる。

テスラ車専用から仕様公開し北米標準規格化へ

元々はテスラ車専用だったスーパーチャージャー。しかしながらテスラは昨年11月、ホワイトハウスの意向に従って自社の充電用コネクターを新たにNACSとして仕様の公開に踏み切り、北米での標準規格化を目指すと発表していた。

ここに来てこの流れに乗るメーカーが立て続けに名乗りをあげてきたのは、ちょうど技術検証などが済んだタイミングということだろうか。

これらのメーカーがNACSを選んだ一番の理由は、前述の通り1万2000基という充電ステーションの数の多さだろう。

その数はCCSの倍。ユーザーの利便性を念頭に置いて考えれば納得の選択である。規格としても、ケーブルを接続するだけで課金情報などが車両側とやり取りされ機器の操作など不要で充電できるプラグ・アンド・チャージに対応していたり、充電速度自体も高速であるなどメリットは非常に多いのだ。

一方、現在テスラを愛用しているユーザーにとっては必ずしも嬉しい話ではないかもしれない。スーパーチャージャーこそを一番の理由にテスラを購入した人は多いはずだが、こうした動きが加速すると充電ステーションが混雑してくるに違いないからだ。とは言え、NACSがスタンダードとなれば、設置数が飛躍的に増えていくだろうと考えれば、将来的には十分飲み込めるというところかもしれない。

まだ4社とは言え、そのうちの2社はアメリカを代表するカーメーカー。NACSが業界標準になっていく可能性は十分ある。さらに6月27日になって自動車や航空宇宙に関連する標準規格の開発などを行う技術者などの団体、SAE(Society of Automotive Engineers)Internationalが、NACSコネクターの標準化を発表。サプライヤー、部品メーカーなどの参入が容易になり、地ならしがさらに進んだ。

さて、それでは今後、北米市場では他のメーカーもこの動きに追従することになるのだろうか。CCSを強力に推進してきたドイツ勢が、そう簡単にテスラの“軍門に下る”ようなことをするとは……とも思われるが、フォルクスワーゲンもNACSを使用できるよう協議に入ったと報じられている。事態は急速に動いているようだ。

トヨタも日産も北米ではCCSを採用

では日本メーカーはどうだろうか。すでに北米ではトヨタも、初代リーフでCHAdeMO(チャデモ:日本勢が主に推進してきた規格)を採用していた日産すらもCCSを採用しているような状況だが、今後それをさらにNACSに改めるということが、すぐに起こり得るのかと言えば微妙だ。しかしながらドイツ勢に較べれば、CHAdeMOじゃない限りどちらでも一緒と、ビジネスライクに判断できそうではある。

案外、その流れを考える上では、ここ日本でどうするのか、がキーとなるかもしれない。

国内ではCHAdeMOの急速充電器設置が進んでいるが、最新の150kWのものであってもNACSに較べて充電速度は遅く、ケーブルを挿すだけで充電とはいかない。しかもそのケーブルは太くて取り回ししにくいなど、ユーザーにとってのBEVに対するハードルの高さに直結してしまっている。

ただし、CHAdeMOの利点であるBEVから電力を取り出すV2X対応は、災害大国日本としては大きなメリットであり、軽視すべきところではないというのも事実だ。それでも今後も、絶対にCHAdeMOでなければならないだろうか?

厳しい言い方をすれば、CHAdeMOは海外メーカーにとってはもはや非関税障壁のような存在になっているということも指摘しなければならない。

ヨーロッパの自動車メーカーは日本向けに少数派の右ハンドルで、かつほぼ日本だけのCHAdeMO仕様を仕立てている。それが飛ぶように売れているならまだしも、そもそもボリュームの小さい輸入車市場の中でも、まだまだ他国に較べてユーザーの拒否反応が強いBEVの販売数はごく少数と言っていいレベルに留まる。

昨年のある日、筆者はメルセデス・ベンツのCEO、そして技術担当重役から「日本の充電インフラをペンの力でなんとかできないか」と、笑顔で、とは言え半ば本気で言われたことがある。

今後、ヨーロッパメーカーがほぼ全モデルをBEV化していくとすると、手間がかかる割に数は売れない日本市場はラインナップ縮小、あるいは撤退のようなことだって考えられなくはないというのが、他社も含めて取材してきての実感である。

たとえばお隣、韓国の充電規格はCCSをそのまま使っており、しかも左ハンドルとあってヨーロッパメーカーにとっては非常にビジネスがしやすい状況になっている。日本も、自動車鎖国を避けるためにはその手はあるのでは?そう思っていたが、こうした状況になるとNACSこそが有力な選択肢として浮かび上がってはこないだろうか。

なお、日本でのNACS対応についてボルボ・カー・ジャパンに問い合わせたところ、「今回の契約は北米(カナダ、アメリカ、メキシコ)の話です」との回答だった。ただし、現時点では、という話である。

日本メーカーが選ぶべき規格は

海外メーカーのためだけではない。日本メーカーだって、輸出もするモデルについては、1つの車種にほぼ国内規格と言っていいCHAdeMOとCCSとNACSの全部を用意するなんて無駄なことをしなくて済む。ユーザーにとっても使い勝手の面でメリットは多い。となれば、検討の余地はあるはずだ。それこそ“軍門に下る”ような話を、受け入れられればの話だが、すべてはユーザーのためと考えれば……。

そもそも、NACSを導入したとしても勝負はまだ決したわけではない。先日のトヨタの発表では、2027〜2028年の実用化に向けて開発中の全固体電池搭載のBEVは、10-80%の急速充電時間10分、航続距離1200kmを目指すという。とりわけ1回の充電で1200km走れるということに着目するならば、経路充電での急速充電の重要度は下がる。

ちょっと先の未来には、とにかく急速充電ありき、速度アップありきというBEVとその充電に関する現状とは、また違った流れになってくることは間違いない。

可能性ベースの話ばかりになってしまったが、とにかく重要なのはユーザーにとっての利便性、使い勝手である。それが満たされない限りBEV普及は遠い。少なくとも北米では、そうしたシフト、いやブレークスルーが起きつつあるのだ。


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(島下 泰久 : モータージャーナリスト)